「色々大変だったようだね。」
「今回は、わがままを許してくださり、ありがとうございます。」
 目の前には、この高校、第四龍探高等学校の理事長がいた。
 私立第四龍探高等学校は、サントハイム財閥により作られた高校である。つまり目の前に いる人間は、サントハイム財閥の社長という事になる。
 サントハイム財閥といえば、20年ほど前は新設された1企業だったが、10年程、さまざまな企業を 吸収して急成長した、いまや国でもトップの 企業で、ラグのような田舎者でもその名は良く知っている。(もっとも村を出る前はまったく 知らなかったが。)
 その社長が、今日はたまたまスケジュールがあいていたらしく、学校に来ていたらしい。
「いやいや、そう言った事情では仕方ない。これからも大変だろうが、徐々に この学校生活を楽しみなさい。寮はどうですか?」
 だが、意外と気さくな人だと、ラグは思った。それでいて、どことなく威厳のようなものも感じるのである。
「思ったより自由で驚きました。門限もないというのは…」
「うちは自主性を重んじているからね。ラグ君も、自分の行動は自分で責任をもって行動して欲しい。」
「はい、判りました。」
 自由とは、選択肢が増える代わりに、多くの責任がのしかかる。自由奔放だけれど、厳しい。それが この学校の印象だった。
「では、月曜日から頑張ってください。…そうですね、剣道部は今日も練習していると思いますよ。 よかったら覗いて見なさい?剣道場は体育館の左横、体操室の右になります。」
 コンコン、と扉が叩かれ、理事長が返事する間もなく、扉が開いた。

「お父さま!!!とと、ごめんなさい。」
 入ってきたのは少女だった。栗色の巻き毛と、快活な笑顔が愛らしい美少女だった。出て行こうとする少女に ラグが声をかける。
「あ、もうすぐ終わりですから、かまいませんよ。」
「本当にごめんなさい。お父さまも、ごめんなさい。」
 少女がそう言うと理事長はため息をつく。
「…まあ、いい。ラグ君、すまないね。」
「いいえ。」
「それで、アリーナ、なんのようだ?」
 アリーナと呼ばれた少女は理事長にまっすぐと眼を向ける。ラグはそのぴんと伸びた背筋が綺麗だと思った。
「クリフトが困っていたの。お母様の叔父様がまた尋ねていらっしゃったのよ。クリフトはお父さまを呼ばなくても 良いっていったんだけど、なかなか帰ってくださらないから、私、探しに来ちゃったの。」
 どうやら込み入った話のようである。ラグは一礼をした。
「あ、それでは僕、剣道場覗いてきたいと思います。本当にご迷惑おかけしました。」
「あ、すまないね、こんな形で。ラグ君には期待しているよ、頑張ってくれ。ああ、アリーナ、せっかくだ。ラグ君に 学校を案内してやってくれ、私はすぐ家に帰るから。」
「わかったわ。お父様。」
 アリーナは笑顔で請合った。
「それと、部屋に入るときは相手の許可があるまでは入ってはならん。お前も着替え中に同じ事をされたら困るだろう?」
「はい、お父さま。それでは失礼します。」
 二人は頭を下げて、理事長室を出た。


「私、アリーナ・サントハイム。貴方、転校生?」
「はい、僕は明日からここに転校するラグリュート・セレスティアルといいます。 サントハイムさんは、理事長先生の娘さんなんですか?」
「うん、でも気にしないで。私もここの一年生だし。よろしくね。ねえ、セレスティアルさん…」
「ラグでいいですよ。」
 そう言うと、アリーナは嬉しそうに笑う。
「うん、ねえラグ、私と友達になってよ!」
「え…ええ、いいですけど…」
「やったあ。なんか皆私が理事長の娘だって、遠慮しちゃって友達になってくれないのよね。 あ、じゃあ名前で呼んでね。名字で呼ばれるのってお父さまの娘ってかんじがするから。」
「アリーナさんは、そう言われるのが、嫌なんですか?」
 あんなに仲が良さそうに見えたのに、とラグは思う。だが  その言葉に、アリーナの顔が曇る。
「…お父さまは、好きよ。でもお父様、そんなに凄くないもの。」
「え?」
 その言葉が意外でラグは聞き返す。だが、アリーナは聞こえなかったものだと思ったのだろう。表情とともに話題を変えた。
「ううん、なんでもないわ。そんなことより、ラグって強いのよね?お父様が言ってたわ、とても強いから 拝み倒して今回来てもらったんだって。」
「そう言ってましたか?」
 どうやら細かい事情は公にしなかったらしい。ラグは心遣いに感謝した。
「…まあ、それなりに。」
「じゃあじゃあ、私と戦ってくれない?」

 ラグは、一瞬止まり、ゆっくりと再起動した。
「…アリーナさんは剣道、されるんですか?」
「ううん、空手なんだけど。ここの空手部の人、弱いから結局部に所属するのやめちゃったんだ。 私強いよ。」
 対戦を頭に描く。そして。
「…竹刀が折れたら嫌なので、止めておきます。」
「そっか、残念。でもいいわ。ちょっと嬉しかったから。」
「嬉しい?」
 アリーナは本当に嬉しそうに笑う。
「私が危ないからって言わなかったから。」
 その言葉で、なんとなくこの少女が腫れ物のように扱われてきた事が判る。
 それから二人で、校内を周った。


 

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