「ここが道場よ。顧問はライアン先生。生真面目だけどいい人よ。」
 そう示したなかなかの広さの道場からは気合の声が聞こえる。
「じゃあ、私、今日はここで帰るわね。」
「ありがとうございます、アリーナさん。」
「またね!」
 元気に手を振りながら去っていくアリーナに手を振る。そして。
 ごくりと喉をならして道場の扉の前に立つ。すると、道場の扉が開き、一人の男性が顔を出した。
「おぬしは誰だ?見ない顔だが…」
 どうやら先生のようである。ラグは頭を下げる。
「はじめまして!僕は明日からここに剣道の特待生として転校する、ラグリュート・セレスティアルといいます。」
「ああ、おぬしがか。話は聞いている。私は剣道部の顧問のライアンだ。せっかくだ、部員達に紹介しよう。 着いてきてくれ。」
 そう言うとライアンは引き返す。ラグもその後をつけた。
 …ラグは予想に反して大歓迎された。…どうやらきつい訓練に一人でも多くの同士が欲しかったのと、団体戦での 強さを見越してくれたことらしい。

 少し訓練をした後、最後の後片付けをすませ、ラグは道場を出た。
「セレスティアル、さん?」
 少しか細い声。ラグは振り向くと、今朝の女の子が立っていた。
「ああ、朝の…どうしてここに?」
「朝はありがとうございました。」
 女の子は横について歩き出す。二人は紅にそまる夕日の中、ゆっくりと校門へ向かう。
「いいえ。怪我はなかったですか?」
「大丈夫です。慣れてますから。」
 にっこりと笑う少女の言葉に引っ掛かりを覚えた。が、先ほどのアリーナのことを思い出し、ラグは 会話を変えた。
「君も、この学校だったんだね。」
 そう言うと少女はくすくすと笑う。
「気が付いてなかったんですね、セレスティアルさん。私、剣道部のマネージャーでシンシア・グリーンです。」
「あ、ごめんなさい…」
「いいえ、ラ…、セレスティアルさんが紹介された時、私は裏で仕事をしてましたから、気が付かなくても 無理はないです。」
「そう言ってくれると、嬉しいんだけど…もう一つ、お願いしても良い?」
「なんですか?」
 シンシアがラグの顔をひょいっと覗き込む。ラグはいたずらっ子の顔をして言う。
「今朝のことは内緒にしておいて下さい。僕、退学になっちゃいますから。」
 その言葉に、シンシアはまたくすくすと笑い、快諾した。
「わかった。誰にも言わないわ。…それに、もったいないものね。…ねえ、ラ…セレスティアルさん。」
「名前でも、良いよ?言いにくい?」
 毎回つっかえるシンシアに、ラグは言う。だが、シンシアは首を振った。
「そう言うわけじゃ、ないの。ありがとう、私のことも、良かったら名前で呼んで。」
 そう言われて、少女のフルネームを思い返す。
「シンシア…僕の幼馴染に、同じ名前の女の子がいました。懐かしいです。」

 その言葉を聞いたシンシアは、夕日に照らされて、とても真剣な表情を見せた。
「その子は、近くに、住んでいたの?」
 おかしなことを聞くものだと思いながら、ラグは首を振る。
「どこに住んでいたかも知らないんだ。ただ、僕の住んでいた所は田舎だったから、幼馴染って言える子は、その子 しかいなかったんだ。いきなり森の中から現れて。夏だけ一緒に遊んだ子がいたんだ。 突然来なくなっちゃったんだけど。なんだか、夏の森の妖精みたいな子だった。」
 そう言って、改めて、シンシアを見てみる。
(どうして、そんな事を聞くのだろう?)
 ”凄いんですね、強いですね”
 ”凄いね、強いね”
 二人の少女の声がかぶる。遠く夏から聞こえる声。
 少女の顔が赤いのは、夕日のせいなのだろうか?
「私が、剣道のマネージャーを選んだのは、剣を振るう勇者みたいな男の子を、すっと見てるのが好きだったからなの。 その子は、手製の剣で、いろんなものから私を守ってくれたの。」
「シ…」
 ラグの言葉をさえぎって、シンシアは話を続ける。
「別荘の持ち主のおじい様が死んじゃって、もう私がお姫様になれる森にいけなくなっちゃって。ずっと気になってた。 でも…今日、悪者に襲われてる私を、勇者様は、また助けてくれた。」
 シンシアは、じっとラグをみつめる。
「ライアン先生から、特待生の名前を聞いたとき、もしかしたらって思ってた。」
 沈黙が、黄昏の空を上る。
「・・・・」
「・・・・」
 ラグはシンシアを眺めた。もう遠くなった夏の記憶を思い出す。
(たしかに、この人だ。)
 ラグの顔が、一気に赤くなる。鼓動がはちきれそうに、鳴っている。
 それでもラグは、言葉を搾り出す。
「…また、明日ね。」
 それは、過去の合図だった。来年まで逢えなくても、また明日逢えるようにと願いを込めた毎日の別れの合図だった。
 シンシアもそれを思い出して、とっておきの笑顔で笑う。
「うん、また、明日ね!!!」
 今度は明日もまた逢えるのだと、笑って手を振った。


 第一話でした。べたべたの少女漫画です(笑)この話は、これからもこんな感じです。どうぞよろしく。 一応ここと次回までが、前書きと言う感じですね。
 そして、このストーリーにはどうしても名字というものが必要でした。ので生徒側だけ勝手に設定させていただきました。 (といっても最初の自己紹介の時くらいしか出てこないんですけど。)先生側は ○○先生と呼ばせれば良いので、設定しませんでした。(名字がある以上、名字+先生と呼ぶのが普通なんですが、 なじみのない名字で通すのは嫌だったので不自然ですみません。)
 ラグはラグリュート・セレスティアル。リュートを名字にしようかと思ったのですが、セレスティアル=天空ってことで。 アリーナ、それから事情によりクリフトはサントハイムです。シンシアはグリーン。そのままですね。ちなみに ロザリーとピサロはまた別の名字です。出てくるかは不明ですが。(シンシアのお母さんとロザリーとお母さんが姉妹なのです。) マーニャとミネアはエドガンだと思います。エドガンって名字か名前か判らないんですが(ドラクエの世界に 名字はないような気もするのですが)名字があったならば、あの生真面目のオーリンが師匠をファーストネームでは呼ばないだろう と言う推測の元、そう決定されました。

 長いあとがきでございました。次回のはじまりの語り手はクリフトになります。マーニャとミネアも出てくる 予定です。どうぞよろしくお願いします。




前へ 目次へ TOPへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送