「ラグ!今日は中庭でお昼食べましょう!!!」
 転校生、ラグリュート・セレスティアルはこの2年A組に来てからはや一ヶ月、昼の恒例行事になった 理事長の娘、アリーナの訪問は、未だに級友たちのざわめきを生み出す原因となっていた。
「わかりました。すぐ行きますので、先に行っていてください。」
 授業の最後の書き取りをしていたラグは、ノートから意識を話さずにアリーナに言う。アリーナは頷いて 廊下を駆けていく。
「ったく、お前は羨ましいよなあ…」
「ホフマンさん・・・」
 ノートを閉じたのを見計らって、隣の席の男子が話し掛けてくる。
 彼の名はホフマン。兄貴肌な性質で、隣になったこともあって、ラグに良くしてくれる。
「これから、あの三人とお昼か…かー、羨ましいね、お前は!!!」
「三人って…僕を抜いても四人ですよ。」
 そう言ったとたん、ホフマンはラグの首を太い腕でしめる。
「てめ!本気で言ってやがんのか!男なんざどーでもいいんだよ!!」
「く、苦しいです、ホフマンさん!!!」
 本気で締めていない事は判っているので、ラグの声は笑っている。
「大体てめーは来たとたん、中間で学年10位取りやがって…」
「た、たまたま前の学校で終わってた所だったんですよ!」
 そう言うと、ホフマンの腕はするりと解ける。
「なんだ、お前の行ってた所、進学校か?ここもそんなに遅くないと思うけどな。」
 ラグは苦笑する。
「……そうですね…わりとそうだったかもしれません。」
「…まあ、それはいいとしよう。」
 ホフマンは椅子に座りなおす。

「お前なあ、クラス、いや学校中の男子からどれだけ羨ましがられてるか知ってるのか?」
「僕がですか?」
 原因はなんとなくわかる気がした。
「大体お前は、容姿もいい、成績もいい、それでいてスポーツ万能ってなんだよ、それ!それでいて 天然ボケな性格しやがって、憎む気にもならんて、そりゃ反則だろってなもんだぞ。」
「…そうなんですか?」
 思い当たる点と全然違う事を言われてラグはぼんやりと聞き返す。ホフマンの会話を聞いていた男子が大きく 頷いている。
「容姿はよく判りませんけど、成績は前の学校がたまたま進んでいただけですし、運動は山育ちなので 体力があるだけですよ。」
 そう言うラグを、ホフマンはもう一度締め上げる。
「そ、う、い、う、こ、と、を、本心で言ってるのが天然だって言ってんだよ!!」
「あああ、ごめんなさい!僕何か悪いこと言いましたか!?」
 気が付くとクラス中の人間が、全員二人の漫才を聞いて笑いをこらえている。
「その上あの学校三大美女と食事だ?!お前いっぺん死んで来い!!ってか、誰と付き合ってんだよ!お前は!!」
「と、友達ですよ!!三人とも!!そろそろ本気で苦しいです、ホフマンさん!!」
「友達だ!?嘘付け!!」
 そう言いながらもホフマンはラグを腕から解放する。
「ラグ、お前よく聞けよ。あの三人はなあ、第四龍探高校三大美女!!俺らにとって高嶺の花!憧れなんだよ!!」
「そ、それは判ってますけど…」
 勢いに押されながら言ったラグの言葉を、ホフマンは全く無視する。
「まず、さっきお前を呼びに来たアリーナ・サントハイムちゃん!知ってのとおりこの学園の理事長の娘、サントハイム 財閥のお嬢様!顔はもちろんの事、性格も明るく、ちっともお嬢様ぶってないし可愛い!!それでいて どこか気品を感じる俺達のアイドル!!!」
 そこに別の男子が割り込む。
「いやいや、やっぱりミネア先輩だろ?ミネア・エドガン先輩!!エドガン製薬のお嬢様!! 落ちぶれていた天文部を占いと組み合わせる事によって、人気クラブとしたカリスマ部長!容姿端麗、成績は常に3位以内! 清楚な性格と神秘的な雰囲気とともに家庭的な趣味を持ち合わせている俺達のマドンナ!!!!」
 そこにまたもや別の男子が熱い意思をもって割り込んだ。
「なに言ってんだ!なにはともあれマーニャ先輩に決まってんだろ!!マーニャ・エドガン先輩!!! 新体操部で負け知らずのホープ!!スタイルもさることながら、双子の妹ミネア先輩とそっくりの美しい容姿!それでいて、 ミネア先輩とは違う、華やかな雰囲気と、明るい性格で俺達を楽しませてくれる俺達のスター!!!」
 男子全員が、ラグにずいっと迫る。
「で?誰を選ぶんだ????」
 ラグは一歩下がった。
「で、でもいつもアリーナさんはクリフトさんと一緒にいらっしゃいますし、マーニャさんとミネアさんはそれぞれ 部活に夢中ですし…」
 苦し紛れにそう言うと、男子は全員頭を抱えた。
「そうなんだよな…クリフト先輩はこれまたミネア先輩と学年トップを争う秀才だし、運動神経も 良くて、美形だし…一体アリーナちゃんとはどういう関係なんだろうなあ…おんなじ 名字だけど似てないから兄弟じゃねえだろうし…」
「じゃ、じゃあ僕、そのクリフト先輩が待ってるので行ってきます!!!」
 考え込んでいる隙に、ラグは荷物を持って、中庭に走った。
「おお、行ってこい…じゃねえ!てめ、結局どうなんだよ!!!!」
 ホフマンの叫びを背中で聞きながら、ラグはひたすら中庭へと急いだ。


「おそーい、ラグ、あたしお腹すいちゃった!」
 中庭のシンボル・ツリー。その真下にあるレジャーシートの上に、四人は座っていた。
「すみません、ちょっと捕まっちゃって…あ、これ、僕が作ったおかずです。良かったら。」
 座りながらタッパ―をあけると、そこには佃煮が入っていた。
「あら、おいしそう。ありがとう、ラグさん。」
 ミネアがにこりと笑う。
「うわーい、ラグって本当にこういう素朴なの上手いわよね。」
 アリーナが諸手をあげる。
「それではありがたく戴きましょうか。」
 クリフトがラグに割り箸を渡す。
「ほんと、お腹すいちゃったわ。いただきましょう。」
 マーニャが手を合わせるのを合図に、全員がいただきますをした。

 

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