ここに転入してきたその日から、ラグはアリーナにさそわれ、お昼はこのメンバーで食べる事にしていた。 アリーナが用意してくれるお重の弁当に、時々ミネアが持ってくるおかずや、ラグがこうして作ってくる ちょっとしたものをわけあいながらわいわい食べるのは、とても楽しかった。
「でもラグ、遅かったわねえ。さ、て、は、あたしの事で何か言われてたんじゃないの?」
 そう言ってからかう明るい美女はマーニャ。学生にしては派手は化粧をし、 たくさんのアクセサリーをつけているが、それがちっともいやらしくない。むしろ健康的にすら見えるから不思議だった。
「姉さん!!ごめんなさい、ラグさん。」
 そう言うマーニャにそっくりな美人はミネア。こちらは全く化粧をしていないが、それが清楚な雰囲気を かもし出していた。そっくりで反対、それが一番最初にラグが思った感想だった。
「いいですよ、ミネアさん、当たっていますし。」
「それは災難でしたね。」
 笑って言う、おだやかな美形はクリフト。普段は「執事だから」とアリーナと食事を共にしないらしいが、 学校では目立つからと、特別に隣りで食事をしていると、アリーナから聞かされた。
「なによ、クリフト。あたしと噂されるのが災難だってこと?」
「ちがうわよ、マーニャさん。マーニャさんは美人だから、その分色んなこと言われたでしょうね、 ってこと。ねえ、クリフト。」
 明るく言う美少女のアリーナ。
「はい、アリーナ様。ありがとうございます。そのとおりです。ですが誤解させてしまったこと、 お詫びいたします、マーニャさん。」

(たしかにゴージャスな組み合わせだよな。)
 はむはむとアリーナの重箱をつつきながらラグはぼんやりと思う。…そのゴージャスな組み合わせに 自分が混じっている事に、ラグはちっとも気がついていない。このあたりが天然ボケと 言われる所以だろう。
 五人が中庭で食べ始めて、徐々に人が増え始めた事も、自分には全く関係ないと思っている。最もそれは、 双子以外全てがそう思っているのだが。
 クリフトにいたっては、目当てが双子ならばいいが、全てがアリーナ目当てだったらどうしようかと心配している 始末である。同じくらい増えている、女性は全く目に入っていない。
 最初はラグのことも警戒していたのだ。なにせ大切な「お嬢様」である。悪い虫でもついたら大変だと思っている。 だがラグの人格に触れていく内に、その心配はないと判断して、クリフト自身もラグに好意を寄せていた。

「そう言えばラグさん、この間の中間凄かったですね。転校して早々、10位なんて。」
 クリフトの言葉に、ラグはテレながら答える。
「たまたま前の学校のほうが進んでいただけですよ。その内もっと順位が下がると思います。」
 だしまき卵を食べながら、ラグは先ほど言った事を繰り返す。
「でも、お父さまが言っていたわよ。ラグは前の学校でも成績優秀だったって。」
「僕が住んでいたところは山しかないようなところでしたし。勉強以外にする事がなかったんですよ。」
「そう言えば、どうしてラグさんは、こちらに転校されたんですか?」
 ミネアの言葉に、事情を知っているアリーナとクリフトは凍った。だが、ラグは気にしないで さらりと事情を説明する。
「僕は両親がいなくて祖父と二人暮しだったんですけど、この春に祖父がなくなったんです。それで田舎暮らしも 辛くなって、寮があるこの学園に身を寄せようと思いまして…」
「それは…」
 気の毒そうなミネアの声をさりげなくマーニャが割り込む。
「そりゃ苦労したわねー。うちも母さんが死んだときは大変だったけど。」
「そうなんですか?」
 ミネアは頷く。
「ええ、私たちが10歳の時ですけど。それ以来、家事は全部私の仕事なんですよ。」
「なによミネア!あたしがやろうとしたら止めるくせに!」
「家事がやりたいのだったら、せめてテレビを見ながら火の仕事をするのをやめてからにしてちょうだい。」
 皆が笑った。
「私も2歳の時にお母様を亡くしてるし、ここにいる皆がそうなのね。」
「でも、ラグさんを見ていたら、おじい様がどれほど素晴らしい方だったかよく判ります。」
 クリフトの言葉にラグは破顔した。
「ありがとうございます。」
 その言葉がなによりも嬉しかった。
 久しぶりの日差し、久しぶりの日なた。
「これから…暑くなりますね。」
 クリフトの言葉にアリーナがうれしそうに笑う。
「ねえねえ、夏休みに泳ぎに行きましょうよ!」
「いいわね。行きましょ行きましょ!」
「姉さん、部活は大丈夫なの?最後の大会でしょう?受験勉強は?」
「なによ、あんたは行かないの?年中大会してるわけじゃなし、プールなら遅くたって平気よ、ねえ、アリーナ?」
「うん、行きましょうよ!夏は好きよ。海にプールに、花火大会や、そうそう、今度神社で お祭りがあるのよね。」
 楽しそうな会話。…楽しい時。一足先に夏が来たような、そんな不思議なとき。
 降り続いた雨の中、ほんの少しだけの休日。
 それに少し感謝して、ラグたちは体中に太陽を充電した。


「…よう、帰ったな、ラグ。」
 席に戻るとホフマンが、恨めしそうな目でラグを見ていた。
「あ、帰り、ました…」
 すでにどこかへ逃げるわけにはいかない時間だった。とりあえずごまかす事にした。
「たしかに皆さん綺麗ですよね。ホフマンさんも、あのお三方のどなたかがお好きなんですか?」
 ホフマンは瞬間沸騰した。
「ば、ばっか言うなよ!お、俺は別に、別に!!大体確かにあの三人はアイドルだけど、別に 学校中があの三人に惚れてるわけじゃねえぜ?」
 わたわたと、ホフマンがしゃべりだす。早口言葉のようだった。
「まず、2年のアイドルと言えば、我クラスのシンシアちゃんだな。おそらく2年の中では一番人気だ。」
「え…?」
 ムッとするような気持ちとともに、胸の中に衝撃がはじけた。
「あの清楚で慎ましやかでありながら、健康的で明るい笑み!それから、D組のルーシアちゃんも捨てがたい。 明るく爽やかでありながら、どこか天然ボケで、守ってあげたい欲にかられるな。それから1年のモニカちゃん! まるで小さな花のように引っ込み思案なところがつぼだね!先生で言えばフレア先生!あの初々しい所と、 生徒に説教するりりしさのギャップが…」
 永遠に続きそうなホフマンの台詞を止めたのは、一つの音だった。それはすなわち。
 きーんこーんかーんこーん…きーんこーんかーんこーん…
「うわやべ、次俺、ヒルタン先生の選択授業だ!お前は?」
「あ、僕ブライ先生ですから…。」
「あ、そうなのか、じゃ、急げよ。そんじゃーなー!」
 ラグは黙々と選択授業の教室へ移動する準備をした。なんだか判らない気持ち。…余り綺麗じゃない気持ち。
(剣道で負けた時の気持ちでもない…なんだろう…)
 ふと、シンシアの席に眼を向ける。
 そこにはシンシアの澄んだ瞳があった。眼が合った瞬間、シンシアは眼をそらし、席を立った。
 気分が浮上する。少し赤く染まった自分の頬を気にしながら、ラグも席を立った。


 学園ものですね。ホフマンとラグの会話はとてもとてもやりたかったので、一人で大満足してます。 こういう男同士の友情というのは私のつぼなんですよ。ホフマン君はこれから便利屋さん になってくれそうです(しかし書いていてときメモの好雄みたい…と思ってしまいましたが。)
 クリフトとアリーナの関係はつまりそんな感じです。執事とお嬢様と言う事になるんでしょうか? アリーナにとっては口うるさいおにいちゃん、ってところかもしれません。今後をお楽しみに、お願いします。
 次回の語り手の初めは、マーニャです。どうぞよろしく。





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