「おめでとう!!」
 全国大会から帰ってきて約1週間後。アリーナから自宅への招待があった。
「お、大きい家ですね・・・」
 ラグの家も、それほど小さくはない。むしろ田舎な分だけ下手な金持ちよりも大きいくらいだった。だが、 アリーナの家は、桁違いだった。
「んー、そうね。でも実際私が使ってる範囲はそれほど大きくないから、私にとってはあんまり意味がないわ。 庭が広いのは嬉しいけどね。」
「ほらほら、いつまでもぼけっと突っ立ってないで、とっとと行きましょ?アリーナの部屋でいいの?」
 マーニャがラグの背中を張り飛ばす。
「ううん、食堂よ。こっち。」
「姉さんてば、最初のアリーナさんちに来た時は、おんなじ風にぼんやり天井を見てたのにね。」
「うるさいわね!ミネア!!」
 二人のかけあいにラグは笑った。
「ああ、皆さん、こっちですよ。」
 声の方を見ると、扉の向こうからクリフトが手招きしている。
「準備できた?クリフト?」
「ええ、万全ですよ。」
 にっこりと笑うクリフト。そして。
 ぱぁーん。同時になったクラッカー。その後ろには豪華な食事と、飾り付けられた様々な花。
「おめでとう、マーニャさん、ラグ!!」
 アリーナとクリフトの手に握られたクラッカーが、にぎやかな音を立てた。

「マーニャさんは三年連続全国大会一位、ラグさんも二位。旦那様も誇り高いとおっしゃってましたよ。」
 そのニュースはもちろん発表当初から皆知っていることだったが、改めて全員でおめでとうを言い合った。
「でも、お父さまも大変だったみたいよ。マーニャさんへの取材の対応に。」
「ああ、あれね。」
 そもそも一年で優勝した時、マーニャは「新体操界の星」「マットの妖精」「リボンを持った女神」などなど 呼ばれ、ものすごい騒ぎになった。技術がある上にとても美しいのだから、それは仕方のない事であるが、 全国から届けられるファンレターや、毎日毎日山のように来る取材に、マーニャのみならず双子のミネアも うんざりしたものである。
 去年はそれほどでもなかったが、今年はその時のぶり返しのように、連日新聞やテレビが大騒ぎしている。
 料理をぱくつきながら、マーニャが頷く。
「今年は特に盛り上がっているみたいよ。これからどうするのかーって。面白いわよ、 大学や企業、プロならともかく、アイドルだの女優だの…よくあれだけ想像できるわよね。」
 どうでもよさそうにマーニャがつぶやく。
「姉さんってば、もうちょっと真面目に悩んだら?あれだけ引く手あまただって言うのに・・・」
「あら、考えてるわよ。踊るのは好きだし。・・・好きだけど、ね。色々あるのよ、あたしアーティストだから。」
 そう言って道化のように笑ってみせる。そうして話題を変えた。
「それにしてもラグは残念だったわね。あとちょっとでトップだったのに。」
「いえ、僕勝ちたいとか思わないですから。楽しい戦いでした。とても意義のある。それだけで十分です。」
 それに首をかしげたのはアリーナだった。
「でもどうせするなら勝ったほうがよくない?一番ってやっぱり気持ちがいいと思うし…」
 その言葉に、ラグは自分の心の言葉を捜そうと、心の中を模索する。
「うーん、なんていうか…同じ勝つにしても満足の行く勝利と満足の行かない勝利がありますよね。 とても強かった人がたまたま負けてしまったとか、反則勝ちをしてしまったとか…結局 勝つ、ということより、どうやって戦ったか、っていう方が大事だと思うんです。そうやって 一生懸命全力で戦って、結果優勝できたら、それは嬉しいですけど…え、っと…」
「つまり、結果よりどんな経験をして、それを掴んだかってことですね。」
 クリフトがフォローをしてくれる。ラグは頷いた。
「そうです。ありがとうございます!」
「うーん、そうかなあ…」
 アリーナはまだ納得いかないようだ。ミネアは笑ってアリーナに聞き返す。
「ほら、アリーナさんだってどうせなら強い人と戦いたいっておっしゃってるでしょ?おんなじ優勝でも強い人を倒して 優勝するのと、弱い人ばっかり倒して優勝するのとじゃ、強い人の方がいいですよね?」
「ええ、そうよ。」
「では、弱い人と戦って優勝するか、とても強い人とたくさん戦って準優勝か、ならどちらがより、充実 できます?」
 うーん…とアリーナは迷った。だがすぐ顔をあげた。
「なんとなく、判ったわ。うん。じゃあ、とてもいい試合が出来たのね。」
「はい。とても。」
 満足げに笑うラグを見て、皆がほんわりとした気分になった。
「では今日は二人のお祝いですから。存分に楽しんでくださいね。」


 夕昏時も、近くなっていた。
「おなか一杯だわ。姉さん、今日晩御飯いる?」
「あたしはいらないけど、父さん今日も帰ってこないのかしら?」
「そうね…何か作って持っていこうかしら…」
 頬を少し染めたミネアを見て、マーニャは微笑む。
「あー、じゃあやっといて。あたしはちょっと用があるから。」
「待って姉さん、どこ行くの?」
「学校よ。忘れ物取りに行くだけだから、すぐ帰るわ。」
 ひらひらと手を振りながら、マーニャは角を曲がる。アリーナのうちから学校はそう遠くない場所にある。


 幸いまだ夏休み中で、部活中の生徒以外、誰もいない。報道陣もいないようでマーニャはホッとしながら校舎へ入る。 脚光を浴びるのは好きだが、なにもわからない人間に騒がれるのは好きじゃなかった。
 忘れ物があるというのは正確に言うと本当だった。今取りに行かなくてもいいものであったが、そこはそれ、 姉心という奴である。
(たっく、面倒くさいなあ…)
 話題になるという事は、いい事ばかりではない。そのことを骨身にしみているマーニャだった。今回取りに来たのは ロッカールームに置きっぱなしの私物だった。置いておくと、盗まれるのだ。自称ファン達に。 私立学校だけあって、結構な警備のはずなのだが、熱狂者たちはどこからともなく沸いてくる。
 人気のない、廊下を歩く。体操室や体育館への渡り廊下はふきっさらしで、冬はたまらないが、夏は 結構風情のあるものだった。
(だれか、いる?)
 体育館で練習していた生徒だろうか。だが、あの竹刀を持った人影は…
「ライアン、先生?」
「マーニャ殿か、どうした?」
 そこは動きやすい服装に竹刀を持ったライアンが、ぼんやりと立っていた。
「ロッカーの私物を取りにきたんです。先生こそ…今日は剣道の練習、なかったと聞きましたけど…?」
「ああ、それはいい。私は見張りだ。最近部外者がよくこのあたりをうろうろしていてな。」
 マーニャは頭を抱えた。
「すみません…それで先生方が見張りを?」
 その言葉に、ライアンは意外そうに言う。
「何故マーニャ殿が謝る?」
「へ?だって、多分…」
「おぬしの私物を盗もうとしているのは、おぬしのせいではないだろう。」
 あっけに取られる。
「いつもと言う事が随分違いますね。」
「そうでもない。みだりに人前に肌はさらさない方がいいだろう。」
 そこまで言って、ライアンは思い直した。ほのかに笑う。
「その前に、言ってなかったことがあったな。おめでとう。」

 それは、判らないくらいの表情の変化だったけれど。
 とても、印象深い笑みだった。

「ありがとう…」
「私も、テレビで見た。とても、美しかったと思う。芸術は、よくわからないが…よくあれほど 鮮やかにとびはねることが出来るなと、感心した。」
 真剣な表情なのに、いつもと違う、柔らかい表情。
 顔が、ほてるのが判る。先ほどの笑顔。今の言葉は、いつものライアンの言動からは想像もつかない 物だった。
 心臓がドキドキ鳴り始める。頭が空回転をはじめ、何がなんだかわからなくなる!
 いますぐ、ここから逃げなくちゃ!!!
「先生の…」
「ん?どうした?」
 マーニャは叫んだ。およそ自分の普段言いそうにない台詞を、無我夢中に叫んだ。
「先生のスケベ――――――――!」
 そういい捨てて、マーニャはロッカールームへ駆け込んだ。
「マ、マーニャ殿?!」
 戸惑うライアンの声を残して。


 お祭りは次回でした。なんかそんなことばっかり言ってるな。
 とりあえずピサロ初登場。またピサロファンから苦情が来そうなんですが、ピサロさんにも ピサロさんの事情があってそゆことしてるので…勘弁してやってください。
 あと、剣道のこと、さっぱりわかりません。考えてみたら剣道を生で見た事すらない…一応調べては 見たのですけれど、実際やった方からみたら変なところもあるでしょう…そのときはご指摘お願いします。






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