祭りは佳境に差し掛かっていた。
「ミネア様、大丈夫ですか?」
「ありがとう、平気です。」
 二人してりんごあめをかじりながら、ゆっくりと境内を歩く。
「あら、綺麗。」
 きらきらと光る、ガラス細工の指輪。それはもちろんお祭りのちゃちなものだったけれど、細くて繊細なガラスで 全体を作った指輪は、アクセサリー類が余り好きじゃないミネアの心をくすぐった。
「本当ですね、御祭のアクセサリーなんて、子供用ばかりだと思っていましたが、時代は変わるものですね。」
 その言葉にくすくすと笑うミネア。
「なんだかおじさんみたいですわ。」
「はっはっは、私ももうおじさんですよ。」
「そんなことありませんわ、オーリンはまだ若いですし、そんなこと言っては同じ年齢の方に失礼ですわ。」
「いえ、最近クーラーに当たると腰が痛くて。」
 冗談めかしたオーリンの言葉に、涙を流しながら笑うミネア。それを横目で見ながら、オーリンは屋台に近寄った。
「すみません。この紫色の指輪を一つ。」
「あいよ。」
「オーリン?!」
 オーリンはその指輪をミネアに差し出した。
「どうぞ。」
「え、あのお金払いますね。」
 財布を捜そうとポーチを開けようとする手をオーリンは止める。
「ミネア様に似合うと思いましたから、どうぞ。」
 掌を開けさせて、指輪を乗せた。
 きらきらと光る、紫の指輪。…幸せの、形をしていた。
「ありがとうございます、大切にしますね。」
 そっと抱きしめて、それから…少し残念に思いながら、中指にはめる。
「よくお似合いですよ。」
 オーリンはにっこりと笑ってくれた。ミネアは天にも昇る気持ちだった。この、瞬間まで。
「オーリン様?!」
 その声に、さえぎられる時までは。


「それで、マーニャ殿は祭りには行かぬのか?」
「あたしの美貌であんな人通りの多いところに一人で行ったら、大迷惑でしょ?」
 ライアンは頷きかけ、首をかしげる。
「ならば誰かと行けばよかったのではないか?ミネア殿や 仲の良い友達もいるだろうし、男友達ならおぬしなら選り取りみどりだろう?」
 頭を掻く。どう説明すればいいのか。祭りが嫌いといっても、この格好じゃ説得力がなさすぎる。
「ミネアは…その、別の約束があってね。アリーナもだし。男なんて、遊びに行くくらいはいいんだけど、 お祭りなんて一緒に行ったら誤解されそうだし…」
 そこでマーニャは顔をあげた。
「というか、いつもは男を惑わすだだの、派手すぎる、だの言ってるくせに、一体何なのよ!!」
「いや…私は学校生活の指導をするのが仕事だが…校則を破っていない限り、生徒のプライバシーにまで 口を出す気は…いや、そのだな。私もその外では教師ではないわけで、その、ただの 疑問で、だな。」
 ライアンはそこで顔を真っ赤にした。
「べ、べつにおぬしにやましい心があって言っているのでは、なくてだな。」
「あ?ああ・・・ああ!!」
 すっかり忘れていた言葉を思い出し、マーニャの顔は赤くなった。
「た、ただのちょっとした疑問というか、その、なんだな…」
 わたわたとうろたえている様子を見ていると、なんだか楽しくなって来た。
(あのときのあたしも、こんなのだったのかしら?)
「先生は、なんだってこんな所に?デート?」
 さらにライアンの顔が真っ赤になる。
「いや、そうではない、そうではない!だた、外がにぎやかだからなにやらあるのかと思ってみてみて、 今日は祭りだったのかと気づいた次第で、その!!」
 既に先生の威厳も何もない。ますます楽しくなってきた。こんな夏の終わりは、悪くないかもしれない。
 がしっとライアンの手を掴む。
「ななななななにを?」
「先生もお祭り行くんでしょう?せっかくだし一緒に行きましょうよ。」
 ぐいっと手を掴むが、ライアンは動かない。
「いや、しかし、その、教師と生徒が、そのプライベートにでかけるというのは、その」
「先生、さっき外じゃ先生じゃないって」
「いや、そう思っていてもだな、人に見られたら、言い訳が立たないというか、だな。」
 いまどき中学生でもここまで赤くはならないだろう、とばかりに照れているライアンが面白くて、 マーニャは追い討ちをかける。
「あたしと御祭行くのが、嫌なの?」
「いいやいや、そうではない!ただ、さっきも言ったが教え子とお祭りなど、そう、先ほどマーニャ殿が 言っただろうが、見られたら誤解されるだろうし、言い訳も立たぬのだ!」
 なんだか煮え切らない態度。いつもならむかむかしてくる所だが、なんだかそれすらも楽しい。
マーニャはにっこり笑った。
「じゃあ、先生。」
 両手をグーにして突き出す。
「補導してください。」


 焼きそばを食べて、二人はおなかがいっぱいになった。
「そろそろ花火を見る時間、かな?」
 腕時計を見ながら、話し掛けた。
 だが、さきほどからずっとシンシアの様子がおかしかった。どこか落ち着かないような、迷っているような、 そんな感じだった。
「シンシア?」
「あ、うん、そろそろ花火が見える場所…よね?」
「うん…」
「行きましょう、ここの花火はね、とっても綺麗なの。大きくて。」
 進もうとするシンシアの腕を、ラグは止めた。
「シンシア!あのね!」
「なあに?」
 周りは凄い人波で、大声を出さなければシンシアには聞こえない。だから、ラグはかまわず大声を出した。
「僕、悲しい事は平気じゃない!逃げたいってずっと思ってた!」
 シンシアの足が止まる。
「ラグ…」

 ”哀しい事…平気かなぁ?”
 シンシアが言いたい事が何かはわからない。わからないけど、ラグにとってずっと悲しい事は、いずれ来る、 別れだった。
 たった一人の大切な人は、確実に自分より先に死ぬと、知っていたから。…それがそんなに遠くないという事も 、ラグは知っていた。
 多分、あの時まで寮がある第四龍探高等学校の資料があったのは、自分に対する迷いだった。…その瞬間から、 逃げたくて、ずっと迷っていた。
 それでも逃げなかったのは。
「でも、それから逃げたら、きっともっと哀しくなるから!だから平気じゃなくても、逃げたらいけないんだ、 きっと!」
 シンシアは、顔をあげた。ラグに逢って、初めてちゃんとラグの顔を見た気がした。
 ラグは、真剣な眼で自分を見ていた。目をそらさずに、まっすぐと。
「…それでも逃げたいなら、僕が一緒にいるよ。だから…」
 シンシアは、頷いた。そして、ラグの手をぐいっと引っ張る。
「ごめんなさい、ラグ!お願い、来て!」
 境内をシンシアは一生懸命走る。もちろんラグは逆らわなかった。
「どこ行くの?シンシア?」
 ラグが嬉しそうに言う。シンシアは迷いの晴れた顔をしていた。
「花火を見に!とっておきの、場所があるから!!」

 目指しているのは、神社の側の丘の上。…そこには白い病院があった。


 長かった…ようやくお祭りへ行きました。話は進んだようで進んでいませんが。そして クリフトアリーナ組が地味ですが。どうして私の書くクリアリはこう地味なんだろう…
 実は今回、自分であんまり好きじゃないことをやってます。別の場所から台詞を借りてるということを。 どうにもそこだけ浮いちゃう気がして、普段は余り好きじゃないんですが、どうしてもその台詞が 心の琴線に触れて使ってみたかったのでここで使いました。
 シンシアの「哀しい事…平気かなあ?」の台詞です。浮いてると思います、あはは。
 この台詞は、ゲーム『ぼくの夏休み2』のデモ画面で出会いました。おそらく主人公と思われる男の子が電車 でおそらく見ず知らずのお姉さんが隣にいます。誰もいない電車。がたんがたんと鳴る うるさくて静かな空間。そこでおねえさんがこう、話し掛けるのです。
「…キミは…悲しい事、平気かなあ?」
 このゲームがどういうゲームか全然知らないんですが、夏休みを楽しむシュミレーションゲームだと思っていたのに、 なんか妙にドラマ性があって気になって気になって。一体この少年に何があるのか!と。
 …知ってる方、教えて下さい。蒼夢は未だに知りません。






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