本当は、こんなことをしている暇はないのに。ピサロはため息をつく。
「あいつら俺らに生意気なんすよ。手を貸して下さい、ピサロ様!」
「たのみますよ、ピサロ様!」
 ちょっとした気まぐれだったのだ。少しだけむしゃくしゃしている所に、絡まれている人間と絡んでいる 人間。いっそ両方打ちのめせば平和だろうと、剣を薙いだつもりだった。
 だが、たまたま絡まれていた人間に、剣が当たらなかった。それだけなのに。
 気がつくと、総大将に祭り上げられていた。
「最近、なんか離反する奴も出てきまして…ここらで一発お願いしますよ!!」
 そういい募られ、ピサロは今日も剣を担ぐ。
 こいつらが欲しいのは、自分の「強さ」と「名前」
 そんな力に踊らされる人間達を、自分は憎んでいたのに。
 それでも、今上に立っているのは”あいつ”のせいなのだろうか?”あいつ”の血なのだろうか。
 早くあそこから出たくて。全てを無に帰したくてやっていることが、”あいつ”の血を感じると言うのは、 なんと皮肉なのだろうか。
 確実に感じる「あいつ」の血を、その血が含まれている自分を憎んで、憎んで、憎んだ。


「お疲れ様、ラグ。」
「シンシアこそ、お疲れさま。」
「活躍してたよね。凄く早かった。残念だったね。」
「うーん、でも、クリフトさんの所が勝てて少し嬉しかったよ、僕。」
 今日は、体育祭だった。A組からG組までのクラスがランダムに3学年一組になって対戦した。 ラグは残念ながら、マーニャ達とはどことも同じ組になれなかったのだが、クリフトと アリーナは同じ組で、結局ラグたちの「はねぼうし」組は、アリーナとクリフトの 所属する「さえずりのみつ」組と、マーニャが所属する「てつのおうぎ」組に負け、第三位という結果に終った。
「噂には聞いていたけれど、アリーナさん、早かったものね。」
「あはは、マーニャさんの所は応援合戦で凄い点数取ってたし。」
「…綺麗だったものね、マーニャ先輩。」
「シンシア達の踊りも可愛かったけどね。」
 シンシアの顔が赤くなる。
(こういうことをいうから、ラグはもてるのよね。)
 本人は気がついているのだろうか?転校して来て半年で、女性の人気トップだったクリフト先輩に迫る勢いの 人気を得ていることに。
 走っているラグに、どれだけの女生徒が熱い視線を送っていたかということを。
 そして、その流れる髪をシンシア自身がどれほど触れてみたいと、思っているかと言う事を…
「ねえ、また今度、ロザリーの所へ行かない?」
「うん、僕も、また会いたいよ。」
「うん、ラグが行ったらきっと喜ぶと思うわ。」
 それでも、内緒。
 自分の心の奥と、この約束は、誰にも内緒。


「おめでとうございます。」
「うん、クリフトもね!」
 上機嫌のアリーナが笑顔で返す。
「ますます足がはやくなられましたね。」
「鍛えてるから。でも、クリフトが走るところってめったに見ないけど、意外と早かったのね。ちょっと 驚いちゃった。」
「執事は常に落ち着いていなければなりませんからね。」
 ピントの外れたことをクリフトがいう。アリーナは笑う。
「それじゃ、帰りましょう。」
「あ、申し訳ありません。少々所用がありまして。すぐ終るのですけれども、待ちきれないようでしたら…」
「どれくらいで終るの?」
「すぐ済みます。」
「そう、じゃあ、ここで待ってるわ。」
 アリーナの言葉にクリフトは頭を下げる。
「では、失礼します。あ、よろしければ荷物ここへ置いていってもかまわないでしょうか?」
「いいわ、見ていてあげる。貸して。」
 クリフトから手渡された鞄と体操服入れを受け取る。
 それは、汗とほこりと、クリフトの匂いがした。
(…なに、考えているのかしら…)
 照れくさくなって、すこし乱暴に、荷物を床に置いた。…拍子に零れ落ちたはちまき。
「…?…」
 自分と同じ色じゃなかった。それは、つまりクリフトと同じ色でもなくて。
「どうしたのかしら?これ?」
 何か、見てはいけないものを見たような気がして、元通りに袋の中に入れた。そして、気をそらすように 窓の外を見た。
 日の傾いた空と、緑と。
「なんか、懐かしいわね。昔はうちにもあったけど。父兄のかしら?」
 赤い、スポーツカーが校門の前に止まっていた。
(そういえば、あそこは駐車禁止なんじゃ…?)
「お待たせしました。」
「あ、お帰りなさい、クリフト。」
 気がつくと、すぐ横にクリフトがいた。
「どうされましたか?ずっと外を眺めていらっしゃったようですが。」
「あ、そうそう、あそこに、スポーツカーが…って、あら?」
 気がつくと、既に車の姿はなかった。
「駐車場は裏手のはずですが?」
「そうよね…、うん、まぁいいわ。帰ろう。」



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