カチカチとマウスの音がするここは、学校の情報処理室だった。午前中までの部活が終わり 休日でも5時まで解放しているここで、ラグは「グリーンリーフコーポレーション」について調べていた。
 代々高利貸しをやっている家に生まれたグリーンリーフコーポレーションの創始者バレル=グリーンは より庶民に親しみやすい金融をと、簡単にパソコンから金貸しをできる制度をいち早く導入。 25歳の時、「安心素早い、緑の葉っぱのグリーンリーフ」として見事グリーンリーフ金融はその世界のトップにのし上がる。 その後、パチンコやゲームセンターといった娯楽物、その他機械の 企画、製造、販売など幅広く行い、そのほとんどを成功に導き、グリーンリーフコンツェルンを築きあげた。
(バレル=グリーンは…シンシアのおじいさんだよな…)
 グリーンコンツェルンの大まかな経歴を整理してラグは一息入れる。だが、まだロザリーの真意も シンシアの真意も見えてこない。更に調べていく事にする。

 その後バレル=グリーンを社長として規模を拡大していくグリーンリーフだったが、バレル=グリーンの体調不良 により、少しずつ規模を縮小。その後バレル=グリーンは85歳に心不全で死亡。その後 まもなく、会社は破綻を向かえ、倒産やサントハイム財閥などの様々な企業に子会社を吸収され、 コーポレーションは既になく、いくつかの独自路線を貫いた会社が残っているのみである。
(ふーん・・・ なんとなく、予想はしていたけれど、もうすでにつぶれちゃったのか・・・)
 シンシアが村に来なくなった時期と、社長の死亡の時期は重なっていて、恐らくそれが原因だと思った。 実際創始者が死んだとたん、つぶれる会社はよくあって、とくに珍しい話でもなかったし、つぶれかけた企業が 勢力を誇っている別の会社に吸収される事は、当たり前の事だ。
(でも…どうしてシンシアは、ここにいるんだろう…)
 ここはサントハイム財閥が経営する学校。卒業生の十五分の一くらいがサントハイムコーポレーションに 就職する年もあるくらいなのだ。シンシアは別の中学だと言っていた。ならおそらく「わざわざ」この学校へきたのだ。  そこでラグははたと気がつく。
(シンシアは…僕がどうして転校してきたか…一度も聞いていない…?)
「あれ?ラグ?」
 その声を聞いたとたん、ラグは画面に合った全てのウィンドウを消して、振り返った。

「シンシア…?」
 心臓が高く鳴っている。シンシアはなにやら大きい箱を持って 入り口からこちらに歩いてきていた。どうやら見られはしなかったようだった。ホッと息をつく。
「ラグ、珍しいわね。こんな所で会うなんて。」
「え、うん。ちょっとトルネコ先生の予習をしたくて。シンシアは?」
「先生にこの箱をここまで持っていってくれって頼まれちゃって。」
「ご苦労様。」
 嘘を、ついてしまった。ラグの心に暗いものが押し寄せる。だがシンシアはそれに気がつかず笑う。
「ラグこそ休日にご苦労様。手伝いましょうか?」
「それじゃ予習にならないよ、シンシア。それにもう、大体終ったから。」
 心で汗を流しながら、それでも笑って言うラグの気持ちは沈んでいた。
「じゃあ、一緒に帰りましょうか?」
「うん。」
 ラグはパソコンに終了処理をしながら立ち上がった。まだ、分からない事がたくさんあるけれど、それは 次の機会にしよう、多少未練を残しながらもラグはシンシアと一緒に部屋を出た。


 ”今から約14年前。それと3年前。”
 サントハイム財閥は約3段階で今の地位を手に入れている。そして、そのほとんどが他社の吸収合併である。 そのことが、アリーナには酷く気に食わなかった。もちろん、その大きくなった企業を 御せる能力をもっていることは、イコール経営能力に結びつく事はアリーナにも判っていたが。
 『財閥』なんて名乗っていても、そう名乗れるほど大きな地位につくことができたのも、当時世界にも並ぶ ほどだったライザット財閥が経営者の不慮の事故によりつぶれ、そのほとんどを吸収するで成り立った地位なのだ。
 そして、それが確定したのはグリーンリーフコーポレーションのおかげだ。… この会社は人の死によって成り立っている。

 アリーナは父親が好きだ。尊敬してもいる。お嬢様と言う言葉にイメージされるような育て方はされなかった。 幼少時からけっして甘やかす、厳しすぎず育てられた。
 やがてお前はここの後を継ぐのだと、幼少時から様々な教育を施され、『女だから』と言われたことがなかった。 おそらく、母を亡くした父には新たな縁談が持ち上がっていたのではないかと思う。だが、父は母を心から 愛していた。二度と結婚する気などなかった。だからこそ、女である自分を、幼い日から後継者としての 教育をしたのだろうし、それに不満を覚えた事はあまりなかった。必要以上に厳しくされる事はなかったし、 甘やかす時は存分に甘やかしてくれたから。
 だからこそ、その立派な父が人の力を利用して、大きくのし上がった事が気に食わなかった。

 目の前で、父は楽しそうに食事をしている。夜遅くまで、サントハイム財閥の歴史を総ざらいにしていた アリーナの気持ちをわからずに。
 父は好きだった。だが、その混乱期を、孤児を引き取る事でうやむやにした父をどうしても気に食わなかった。

 歴史を調べたのは、クリフトの素性をどうしても調べたかった。引き取ったさい新聞記事に素性が乗っていてもおかしくないと、 16歳のいまさらになって気が付いたのだ。
 家の書庫にある新聞記事を全て攫った。全部で4の新聞が、『サントハイム社長、孤児を引き取る』記事が 掲載されていた。記事スペースは小さかった。
 そして…とても恥ずかしい事だった。当時の記事に、『財閥』という言葉はない。当時のサントハイムは 父が最初に始めた輸入業の延長の会社はあれど、今のように財閥と呼ばれるほど多岐にわたる経営に手を 伸ばしては居なかったし…当時、ライザットの会社は一つたりとてサントハイムの傘下に入ってはいなかった。

(なら、どうしてお父様は、クリフトを引き取ったのかしら…)
 父の株を少し上げたが、なおわからぬ疑問の目をアリーナは向ける。
 …結局どこにもクリフトの素性はおろか、名前すら書いてはいなかったのだから。


 苦しかった。目が白くなる。断続的に襲ってくるもの。体がきしむ。心が病む。

 鳴り響く音。だけど届かない。想いは届かない。声は出ない。聞こえない。

 …誰か…裁いて…




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