午後の仕事が始まる。相変らずサポートをする事が楽しかった。
 将来、ここでさらなる手伝いをしようと、クリフトは思っていたが、『旦那様』はどう考えなのだろうかと、 クリフトは思案していた。
 例えば、スパイとしてどこかに派遣される可能性もある。
 例えば、どこかの子会社に出される可能性もある。
 もちろん、どこか全く関係ない会社に就職を望んでいる可能性もあるだろう。どの要求を 出されようが、完璧に答えたいとクリフトは考えていた。
 進路について言われた事は一度もないし、クリフトからその話をふることはおこがましくて、できなかった。
 好きにしろといわれれば、ここで働きたい。だが、もし『育ての親』がそれを望まなければ、自分はここを出る 覚悟もあった。
(アリーナさまは、怒るのでしょうか…)
 その時のことを考えると、いつも苦笑する。…そしてその困った顔を見ることが、すこし困った事だと 思ってしまう。

「クリフト。」
「は、はい。」
 手が止まっていただろうか?それとも先ほどに資料にミスがあったのだろうか?
「…聞いたのだが、転校生のセレスティアル君とアリーナは親しいのか?」
 クリフトは笑う。旦那様の娘への溺愛は、よく知っていた。アリーナ自身にはけっして見せないが、 学校でのアリーナの様子を語ると嬉しそうに笑うし、先生方からも様々な事を聞いているようだった。
「ええ、とても親しい友人ですよ。ラグ…セレスティアルさん自身もとてもよい方ですし。」
「ああ、そうか、友人か。うん、素行を見てもとても良い生徒の様だが…」
 その様子を見て、クリフトは笑う。ラグの素性まで調べるほど心配していたのだろうか。
「まぁ、あのアリーナがそんな恋愛ごとに目覚めぬとは思うがな…あれもがさつに 育ってしまったからな…」
「そんなことありませんよ。アリーナ様に憧れていらっしゃる男子生徒も多いようですよ。アリーナ様がお受けした事は ないようですが。」
 不用意に手を出そうとする男子生徒をクリフトが影で諌めた事も数え切れない。それも、自分を育ててくれた養父に対しての 恩返しだと思っていたし、義務だとも思っている。卒業してからはラグに頼もうと思っているくらいだった。
「ふむ…クリフトもそう思うか?あれは人の恋愛ごとの対象になるようなものに成長したと。」
 クリフトは迷う。はい、とそのまま言ってしまうことは禁忌だった。かと言っていいえと言う訳にもいかない。
「まるで、奥様のようにお美しく成長なさいましたし、旦那様のように聡明です。 快活でもありますし、…人が魅力を覚えるには十分なのではないでしょうか。」
 少し悩んで出た言葉は、自分でも笑ってしまうほど『無難』な言葉だった。
「そうか。お前がそう言うなら、間違いないだろうな。」
 だが、その言葉に満足そうに笑う養父を見て、クリフトもホッとした。それで正しかったのだと。
 その一瞬あとの瞬間までは、そう確信していた。
「アリーナの婚約者にも気に入ってもらえるだろう。」


 アリーナを執務室へ行っていただくようメイドに指示を出し、クリフトは部屋へと帰った。
 見合い相手の写真を見せて戴いた。…とても人の良さそうな方。実直そうで…
(あたりまえです。旦那様の選ぶ相手に、間違いなどあるわけがないのですから。)
 事情も素性も説明していただいた。…今まで不思議に思っていた部分が、明らかになった。…そして これはきっと誰にとっても良い縁談だ。アリーナさまはきっと幸せになれるし、サントハイム財閥のために なる縁談…けちのつけようがなかった。
(…けちなど、つける気も…権利もないのですが…)
 どこか、重いものがのしかかる。…これは一体なんなのだろう?


 メイドの呼び出しで父の執務室に来たアリーナを迎えた言葉。
「お前に婚約者がいる。今度見合いをしてもらうから、そのつもりで居てくれ。」
「そんな話し聞いてないわ!!知らないわよ!!!」
 食ってかかるアリーナに、父は平然としている。
「そうだ。だから初めて話す。下手に話しては、アリーナ、お前は相手の方に失礼をしかねんからな。」
 アリーナは一瞬言葉に詰る。
「だが、お前も16になった。クリフトも高校を卒業する。そろそろおまえのおもりから任をはずしてやるべきだろうと 思ってな。」
「それで私に適当な相手を見繕うって言うの?」
 食ってかかるアリーナに父親はあくまで冷静だった。
「いや、昔からの縁談だ。ジョシュア・ライザット。ライザット財団元社長の息子で後継者だ。」
 アリーナは怒るよりいぶかしげに思った。…ライザット家に後継者が居た話など聞いた事がない。実際つぶれた 会社だった。それなのに、何故だと。
「お前も知っているだろう。ライザットの社長が事故で亡くなった事は。」
「ええ。でも妻も、子供も一緒になくなったと聞いていたような気がするわ。」
「…酷い事故だった。だが、長男のジョシュアだけはかろうじて生き残った。新聞で亡くなったと報道されているのは… 私とライザット腹心の執事がした事だ。お前の婚約者になるジョシュアは執事の元で立派に生きている。」
「どうして、そんなことをしたの?」
 婚約者、という言葉にむかつくが、それよりも不審さが先に出る。
「…なぜだと思う?アリーナ?」
「…それを隠す必要があったから。公表する事によって不利益があったから、ね。お父様。けれどお父様、 その不利益は誰に対しての不利益なの?」
「様々だ。だが、一番はジョシュア君だろうな。」
 だてに教育を施されていない。アリーナは飲み込んだ。おそらく交通事故は故意に起こされたのだと。
「私は、ライザットの遺言により、その会社の大部分を一時管理した。…形は合併吸収だが、私は管理 しているだけだ。一時借受というかたちになっている。そして管理している間の 半分の利益は私が引き受け、残りの半分はジョシュア君がいまだ請け負っている。だがそのかわり、 一つの約束があった。・・・娘のアリーナを、ジョシュアの嫁にする事。わかるな、アリーナ。これは 縁談ではない。決まり事だ。」
 ぷち、と何かが切れる音がした。
「それじゃ、お父さまは私を売ったんじゃない!嫌、絶対嫌!だいたいお父様とお母様だって恋愛結婚じゃない!!」
「お前に好いている人がいるならともかく、そんな話もきかん。とにかく見合いくらいはしてもらおうか。 ほれ、見合い写真だ。」
 父が広げた写真には見覚えのない顔。明るい髪の、美形ではないが実直そうな青年が笑っていた。
「嫌よ!絶対!!わ、私だって好きな人くらい!!」
「…クリフトの話だと、付き合っている人はいないようなのだがな」
 父がにやりと笑う。全てを見通しているように。それがあまりにもアリーナの心を怒らせた。
 …考えれば、それはアリーナが反抗期を迎えたせいかもしれない。それは何の考えもなく、ただ、父を やり込めたいと言うあさはかな考えだった。
「当たり前でしょう?だって相手はクリフトなんだもの!!!」


 …嵐の、始まりであった。


 …今回初めて(をい)年表などを作ってみたら、自分の頭の中で考えていたのと違うこと書いていたりして びっくりしました。やっぱりちゃんとしないと駄目ですねー(笑)次からちゃんとします。ははは…
 ひとつ、本編ではなく、このあとがきの部分に「シンシアのお父さんの妹がロザリーの母です」と書いてるんですが、 違います(なんでそんなこと書いたんだろう…)シンシアのお母さんとロザリーのお母さんは双子の姉妹です。 ここに訂正しておきます。






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