素早くピサロが間を詰める。ラグは動かず、まっすぐに見つめる。ピサロが打ちに来た。それに剣で受けようとした。 だが、ピサロの方が早い。中途半端にしか受け止めきれず、ラグの手がしびれた。取り落としそうになる 木刀を、親指に力を入れ、必死に支える。
「そんなもので私に勝つつもりか。」
(強い…)
 今は防具をつけていない。一度体に当たれば命取りだ。
(本当はもっと、油断を狙いたかったけど!)
 ラグは地をかけた。ピサロに向かって。
 ピサロは構える。剣を受け、かわし、そして必殺の一撃を加える為に。
 だがラグは、まだ剣が合わない位置で木刀を構え、
 ピサロに向かって、木刀を投げた。

「何!?」
 ピサロはとっさに木刀を竹刀ではじく。だが、ラグはその隙を逃さない。そのまま地を駆け、勢いを殺さずに、 ピサロの腹を殴った。
「何をする!?」
 またピサロは竹刀を構えるが、リーチが長すぎて、邪魔になる。その隙にわき腹に蹴りを入れるラグ。
「僕は試合なんて一言も言ってない!」
 卑怯と言える手段だった。だが、ラグにためらいはない。そのまま一気に飛び掛る。近いために勢いを殺された 竹刀が、顔に、肩にかする。だが、ラグの勢いを止めるには至らない。
「それからピサロさん…喧嘩っていうのは勝ち負けじゃないです。負けだって認めなきゃけっして負けないんです!!」
 だてに、両親がいなかったわけじゃない。中学に入り、親がいない優秀で美少年なラグが、因縁をつけられないはずが ないのだ。ラグは「相手に致命傷を与えない喧嘩」に慣れている。
 祖父はその点厳しく「けっして負けるな」と喧嘩の仕方を教えてくれた。…自分より大きな相手に負けないためには、 まず意表をつくこと。そして勢いを決して殺さないこと。
「やぁ!!」
 ピサロはラグに竹刀をむける。腕を狙うが、剣道とは違い、腕はただ下ろせばいいのだ。そしてそのまましゃがみ、 ピサロの足を蹴り上げた。
 ピサロを転がし、上に乗る。
「…貴方がどうして今、こうなっているか、わかりますか?」
 あっさりと武器を捨てるラグ。いつまでも剣道にこだわるピサロ。
 ピサロは強かった。剣道では負けなしといえる。何人とでも戦える。
 だからこそ、剣道以外の戦いは弱いのだ。いや、大抵の男なら剣道でなくても戦えるかもしれない。だが、 ラグはその点では、ピサロ以上に強かった。
 どうして、今強いはずのピサロが倒れているのか。伝えたいことは、本当はそれだけだった。気が付けば、単純な事なのだ。
「お前は、何故ここまでする?お前に何がわかるのだ?」
「何がですか?ピサロさんがロザリーさんが弱っていく事から逃げていたことですか?そのいらだちを、シンシアに ぶつけていた事ですか?」
 冷静に言うラグに、ピサロが熱くなった。
「お前に何がわかる!」
「僕は祖父を、たった一人の肉親を目の前で亡くしました!…だから、だから僕にだけはわかります!!逃げてたって、 何もなにも変わらないって!!!」
 今度は顔を殴る。だが、ピサロは笑って起き上がり、竹刀を捨ててラグに殴りかかった。

 どれくらいの時が経っただろうか。気が付くと、二人の体は元の位置に戻っていた。 体はよれよれになっていた。顔も歪んでいる。だが、二人は嬉しそうに笑っている。
 二人はまた剣を持ち合っていた。それは「離れている時には有効だったから」だ。
 二人は地を駆ける。そして、同時にお互いの肩を狙う。だが、剣はかみ合った。そして、 耐えたのは一瞬。ラグの木刀は、あっけなく折れる。だが、ピサロはそのままラグへ竹刀を向ける。  肩に当たるが勢いは殺されていた。ラグは折れた木刀を捨て、ピサロへ殴りかかる。ピサロも 竹刀を捨て、ラグへと殴りかかる、そのときだった。
「もう、止めて下さい!ピサロ様!!!」


 二人の手が止まる。ゆっくりと離れる。
「いいんです、私、私、そんなのもうどうだって良かったんです。恨んでる時期もあったけど、 それでも私、シンシアちゃんが好きだったんです!皆好きで、一緒にいられるほうが、もっともっと 幸せですから…もう、止めて下さい…」
 ロザリーが見たこともない服装で立っていた。すぐ横で、心配そうにするシンシア。
「ロザリー…病院を出てきたのか?」
 心配そうにするピサロを、ロザリーは泣き笑いに見つめた。
「皮肉ですよね、出ようと思えば簡単に出られたんです。ずっと出れないって思い込んでましたわ…私…」
 ピサロが起き上がり、ロザリーに近寄る。
「…同じだな。私たちは…」
「はい…おんなじ、ですね。」
 ロザリーは泣き笑う。ピサロはそっとロザリーの頭を撫でた。撫でながら、隣りにいるシンシアを見る。
「ピサロ、さん…」
「…許すつもりはない、そう思ってきた。今もその気持ちに偽りはない。だが、私がしてきた事も、また罪だ。… そう思える。…やがて時が罪が相殺してくれるだろう。そのときには、シンシア、お前に詫びの気持ちを 伝えよう。」
 シンシアは、頷いた。涙は出ていなかった。だが、ほとんど泣きそうだった。
 去っていく二人の背中を、涙をこらえて見送り、ラグへととびついた。

「シンシア…」
「もう、ラグってば…どうして、どうしてそんな…」
「壊したかったんだ。思い込みとか、そうじゃなきゃいけないとか。勝算はあったんだよ、前に ピサロさんが戦ってるの見たとき、剣とか棒とかにこだわってたみたいで、それがないと上手く動け ないみたいだったから。」
 明るくいうラグを見ていると、シンシアは涙をこらえられなくなって。
「ラグ…ほんとは、好きよ。側に、いたかった。いて欲しかったよ・・・」
 そう言いながら泣いて、泣いて…そっと差し出された手の導かれるまま、ラグの胸へと吸い込まれた。






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