塔はモンスター以外の気配はなく、静かだった。
 壁のない吹きさらしで落ちそうになりながらもリュシアが杖で殴ったモンスターに、セイは畳み掛けるように短剣で止めを刺す。
「意外に罠とかはないんだな。」
「城とつながってるくらいだから、たまには城の人が掃除とかしてるんだろうし。」
 トゥールは剣についた血をぬぐって、鞘にしまった。
「ここは三階かしら。」
「外から見た分じゃ、次が最上階だ。いい宝は上か奥にあるって決まってるしな。」
 足取り軽くセイは階段を上って行く。トゥールは平気そうだが、サーシャは少し疲れているようで、 リュシアにいたっては肩で息をしていた。なんとか足を引きずりながら、最上階へと上がった。


 そこにはあっけに取られたセイがいた。
 なにしろそこは、ダンジョンには似つかわしくないごくごく普通の部屋だったのだ。
 暖かな絨毯が敷かれ、ベッドと机、本棚が並んでいる。そしてその机の椅子に老人が座り、うつらうつらと 居眠りをしていた。なんとも心やすらぐ、居心地のよい部屋だった。
「…ぉお、やっと来たようじゃな。勇者よ、名はなんと言う。」
 いつのまに起きていたのか、老人が顔をあげてトゥールを見た。
「僕は、トゥールと言います。おじいさんは…?」
「ほほぅ、そうか、トゥールと言うのか。」
 老人は、トゥールの質問には答えなかった。妙に上機嫌に語りかける。
「わしは夢に生きておる。そしてわしは幾度となくお前に鍵を渡す夢を見た。」
「…夢?」
「鍵ってじーさん、持ってるのか?」
 セイが身を乗り出すと、老人は引き出しから鍵を取り出した。いくつのも横棒が出入り自由に なっている複雑な鍵だった。
「だから、トゥール。お前にこの盗賊の鍵を渡そう。受け取ってくれるか?」
「は、はい。」
 良く分からないながらも、トゥールは老人から鍵を手に入れた。
 老人は、まるで宙を浮くような声でトゥールに語りかける。
「トゥールよ、この大陸を出たいならば、我が子孫がいるレーベの村を訪れるが良い。」
「おじいさん、あの、どういうことですか?貴方は、どなたですか?」
 トゥールはもう一度聞くが、老人は答えなかった。心ここにあらずといった様子でにっこりと笑う。
「では行くが良い、トゥールよ。わしは夢の続きを見るとしよう。」
 そう言って、また椅子にもたれかかり、そのまま寝入ってしまった。
「…寝るなら、ベッドの方が…」
 トゥールが間抜けにもそうつぶやいたが、老人は起きる様子もなかった。


「おい、トゥール。ちょっと見せろ。」
 セイの言葉に、トゥールは盗賊の鍵をセイに渡す。セイは鍵の先をしばらくいじったあと、頷いた。
「間違いないな。本物だ。勇者ってのはこんなに簡単に物を渡してもらえるもんなのか?」
「あのおじいさん、何者なんだろうね…。夢って言ってたけど…」
 返してもらった鍵をじっと眺めながら、今朝見た夢をなんとなく思い出していた。


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