セイは、驚くほど立派な服を着ていた。薄い紫の布に金の糸で縫いとりが見える。トゥールが着ている服も 他の村人より上等なのだが、おそらくそれ以上だろう。
「兄様!」
 弥生は駆けだした。セイは両親と…和気藹々と話をしながら、他の村人に挨拶して回っていたのだ。 そんな光景を見るのは…当然ながら初めてだった。
「貴方が榊の長男の流星様ですね!わぁ、まるで神様の使いのようですね。」
「あの八岐大蛇を倒すなど…あの化け物、神獣などと称しておったがさすが榊の嫡男じゃのぅ。」
「一体どうやって日巫女の幻をみやぶったのか、教えてください!」
「こうして今生きていられるのは、流星さん、あなたのおかげです。」
 周りの皆がセイと両親を囲んでちやほやとしている。弥生は足音をたててその輪に飛び込んだ。

「兄様、父様、母様!」
 父親はぎょっとして弥生をしかりつけた。
「なんだ弥生、はしたない!まったく、流星はこれほど立派だと言うのに…。」
「本当に、困りましたねぇ。」
 にこにこと笑いながら、母親はセイを見る。セイはさわやかな笑みで弥生を見た。
「弥生、良かった、無事だったんだな。」
「はい、兄様のおかげです。」
「本当に貴方がいなければ、やがてこの国は滅んでいたでしょう。」
「おかげで僕も女の子に戻れたよ!僕、本当は女の子だったんだって!」
「ほんに、貴方様は立派な事をなされましたなぁ…。」
 弥生の言葉に重ねるように、他の村人たちもセイを褒め称えた。
 そして。
「本当に、自慢の息子です。」
「只者ではないと常日頃から思っておりましたがまさか、この国を救うなどという偉業をなしとげられるなど… 私の血を引いているかと思うと誇らしいですよ。いやはや、おはずかしい。」
 嬉しそうに微笑みながら自慢している両親の姿がそこにあった。

 まるで、過去の自分の行いなどすっかり忘れてしまったかのように、笑う両親。
「でも、ほんにお父上ににていらっしゃいますなぁ…。ほれ、目元なぞそっくりじゃ。」
「榊の血を良くひいていらっしゃいますな、真に立派じゃ。」
 兄への虐待を見て見ぬふりをしていたのに、まるで忘れたかのように褒める人。弥生はそれが恥ずかしかった。
 白い髪の子供など、気持ち悪いと言ったのは誰だったのか。
 兄への暴力を笑いながら、それでも死んでもいいと思っていたのは誰だったのか。
 情けなくて、弥生は真っ赤になった。

 あっけに取られていたのは、後ろに来ていたトゥールたちだった。
「…ひどい…。」
 リュシアはそうつぶやいて、思わずうつむく。
「…なんだか勝手ね。そりゃあ恐怖から解放されて嬉しいのはわかるけれど…。」
 サーシャは渋面でそう言い、
「これじゃ、セイにあんまりだよ。」
 トゥールが文句を言おうと口を開いた。
 が、それをセイは目で制した。
「はい、父さん、母さん。自分は榊の家に、いえ、父さんと母さんの息子に生まれた事を誇りに思います。 俺はきっとこの国を、いえ、世界を救い、魔を倒すために生まれてきたんです。」
 その言葉に肩を抱く父親、うるうると涙を流す母親。
 周りは酒杯を持ち、いっきに浮かれた。昨日までの災いからの解放と英雄と、旅立ちのために、国全体で 祝いのムードが高まっていた。


 三人はその場を離れ、遠くから人々に祝福されるセイを眺めていた。
「もしかして…セイはここに残るつもりなのかしら…。」
 サーシャの言葉に、トゥールは少しショックを受けた。
「…そうか…。そうだよね。困ったね。セイがいなくなるの…辛いな…。引きとめ… られるかな…。」
「…寂しい。」
 リュシアがうつむきながらそう言う。サーシャはそんなリュシアの背中に手を回す。
「私も少し納得がいかないけれど…どんな形でもせっかくご両親と和解で来たんだもの…。セイが 幸せなら…。」
「おいおい、つめてーな。」
 聞きなれた声に顔をあげる。そこにいたのは、服装は違ってもいつものセイだった。
「セイ!…えっと。」
「なんだ、俺を置いて行くつもりかよ。勘弁してくれ。」
 戸惑うトゥールに、セイは本当にいつもの笑みを浮かべる。サーシャはそれに合わせて優しく笑う。
「見ていたわよ、セイ。なんだか凄く祝福されてたわね。」
「ああ、悪かったな。俺一人の手柄みたいな言い方して。」
「それは別に気にしないけど…。セイはあれで良かったの?」
「ああ、根回しはあんなもんで上等だろう。行こうぜ、そろそろ皆で祭を楽しんでもいいだろ。」
 セイは意味ありげな笑顔でそう言って、三人に手を差し伸べた。


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