まだ、朝日も昇らぬ暁闇の中、トゥールたちはそっと泊まっていた屋敷から抜け出していた。
「…本当に良かったの?セイ?」
 サーシャがふわりと青い髪を翻しながらセイに尋ねる。すでに四人とも元通りの洋服を着ていた。
「当たり前だろう。俺は親父を別に恨んじゃいない。ただ…俺は親父もお袋もどうでもいい。 家族だとは思えない。だってそんなもの…とっくに昔に捨ててたんだからな。」
「じゃあ昨日はどうして?」
「それは…」
 セイが答えようとした時、軽い足音がした。
「兄様!…兄様…。」
 まだ寝乱れたような格好でかけてきた弥生の姿があった。

「弥生…お前、まだ寝てる時間だろう?」
 セイが目を丸くすると、弥生は薄く涙を浮かべた。
「やっぱり、行ってしまわれるのですね…?」
「弥生…ああ、俺は行く。元々この国にはオーブを取りに来ただけなんだ。」
 祭のドサクサで手に入れていたオーブを入った袋を見せながら、セイは言った。
「申し訳ありません、兄様。父様も母様も…あんな恥知らずなこと…。」
「いいんだ、弥生。」
 セイは弥生の肩に手を置いた。
「お前は幸せになれ。お前はこの国で伴侶を求め、榊の家に守られてこの国で幸せになれ。 俺は守ってやれない。…俺は…トゥールたちと一緒に世界を救いにいく。親父たちにもそう伝えてくれ。」
「兄様…もう、帰ってはいらっしゃらないの…ですね?」
 弥生は尋ねようとして、そう言い変えた。
「ああ…。俺は帰らない。…元気でな、弥生。」
 弥生は涙をこぼしそうになり…ぐっとそれをこらえて微笑んだ。
「泣きません、兄様。私は…もう泣きません。ですから兄様心配しないで下さい。」

 ”うつせみの 妹泣く声ぞ 耳に聞く 露の落ちたる川の流れよ”

 セイが以前旅立つ時に、弥生に贈った詠だった。泣く妹を心配する兄を詠ったこの詠。それを 思いだして、セイも微笑んだ。
「ああ…安心した。本当に大きくなったな、弥生。」
「でも兄様。…もし、何十年後でもかまいません。全てが終わって…兄様も伴侶を迎えられてからでも、 いつでも…兄様が帰る気になられたのなら…帰ってきてください。一目だけでもまた、私の顔を 見に来て下さい。」
「それは…」
 まっすぐに言った言葉に頷けずにいるセイに、弥生は強く言った。
「約束してくださらなくても結構です。二度と会えない覚悟はしております。ですが、そうやって期待せずとも待っている人が いるのだと覚えていてくだされば、弥生は嬉しく思います。」
 その言葉に、セイは笑った。
「わかった。…強くなったな、弥生。」
「はい。…トゥールさん、サーシャさん、リュシアさん。本当にありがとうございました。兄を…どうぞよろしくお願いします。」
 弥生はそう言って、深々と頭をさげた。


 船に乗り込みながら、トゥールはセイに尋ねる。
「もしかして、弥生さんのため?」
「ああ…俺はあの国にいない方がいいんだ。」
「どうして?」
 サーシャが目を丸くする。だがセイは、朗らかに笑う。
「今はこうしてもてはやしているが、やがて落ち着いて生活するようになりゃ、やっぱりこの髪が気になるだろうさ。 弥生だってもうすぐ縁談も持ち上がるだろう。その時に…多分、俺の存在は邪魔になる。」
「縁談…結婚?早い?」
 リュシアが首をかしげると、セイは頷いた。
「はっきり決まってるわけじゃないが、俺の国もだいたい15、6にもなりゃ、成人だ。けど俺がいりゃ弥生の結婚相手は 『もしかしたら白い髪が生まれるかも』なんて責めるかも知れねぇ。けど、こうやってすぐ国を出りゃ、良いところだけ 記憶に残る。そうなりゃ弥生にも箔がつくだろ。」
 少しずつ遠ざかっていくジパングを見ながら、セイは弥生の笑顔を思い出していた。

『いってらっしゃいませ、兄様。』

 ジパング編、終了です。長々とお疲れ様でしたー。 和風テイストは大好物なので書いていてとても楽しかったです。 ゲームで初めて見た時も凄く嬉しかったですし。
 セイの主役編でした。いかがでしたでしょうか?他の3人と違い、セイに関しては 出生や育ちなど全てが謎でしたのでここで書けてすっきりしております。
 ムードメーカーのセイがこの先生き生きと動いてくれるのが凄く楽しみです。

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