終わらないお伽話を
 〜 田舎と都会と消え去り草 〜



 どこか雨にも似た不思議な匂いのする袋が、そっとトゥールの手に置かれる。
「お願いします。どうか、役に立てて下さい。」
 イルゼの言葉に、トゥールが頷く。頭には勇者の証である、青い宝冠を付けていた。
「ええ、ベンノさんの情報とイルゼさんのこの薬草があれば、必ず役に立つと思います。」
「本当に驚いたわ。ベンノがまさか勇者ご一行の知り合いだったなんて。凄いのね、ベンノ。」
「いやぁ、俺もびっくりしたんだよ。セイとは昔に色々仕事で一緒に過ごしたんだが、まさか勇者の仲間に なってるなんて思わなかった。」
 朗らかに笑うベンノとイルゼを見て、セイは笑う。
「いや、助かったぜ、ベンノ。イルゼさんと仲良くな。」
「いやだ、セイさん、ベンノとは別に…。」
「そうだよ、セイ、俺達は、その別に…なぁ?」
 お互い少し頬を染める二人には、確かに明るい未来があるように思えた。


 空と海が真っ赤に染まっていた。
 ベンノの頼みを受けて、エジンベアへと向かう船。夕焼けの海を切るように、船は進んでいた。
 船の甲板を歩きながら、セイは銀の髪をかきむしる。日が出ている間はサーシャは外にいることが多いのだが、 先日の一件以来、どうやら避けられている様な気がするのだった。
(…ちょっと言いすぎたか?でもなぁ…。トゥールにも言っといたほうがいいか?…ん?)
 船の先端に珍しいものを見た。セイはそっと近寄る。
「よぉ、何してるんだ、こんなところで。」
「…前見てた。」
 じっと一人で佇んでいるリュシアだった。このところずっとトゥールにくっついていたため、一人きりのリュシアを 見るのは本当に久々だった。
「もうすぐ暗くなるぜ。暗いの嫌いなんだろう?」
「…寂しいから。暗いの。」
 そう言いながらも、動こうとしない。なんとなく一人にしがたく、セイもその横にならんだ。
(せっかくだから、サーシャのことでも聞いてみるか…。)
「トゥールはいないのか?」
「サーシャと剣の話してる。…邪魔になるから。」
「そうか。いい子だな。」
 セイはわしわしとリュシアの頭を撫でる。
「…セイは、凄いの。」
「何がだ?」
 リュシアはセイを見上げて小さく言う。
「セイのおかげで不思議な鍵が手に入りそう。赤いのと紫のもセイのおかげ。」
「ただの偶然だ。世界中旅してるから知り合いが多いだけだぜ?」
「トゥールも勇者で凄いし、サーシャも賢者で剣頑張ってる、凄いの。」
「そう、そのサーシャの事なんだが、ちょっといいか?」

 セイは身を乗り出した。リュシアは目を丸くしてこちらを見ている。
「サーシャは…その、昔からああなのか?その、トゥールにいつもきついだろう?ほら、 勇者じゃないって言うし。」
 リュシアは頷く。
「サーシャ優しい。トゥールにも。でもそれだけは駄目なの。…あ。」
「どうした?」
「…もっと昔。第二の儀式の時。サーシャ喜んでた気がする。トゥールも立派な勇者だって。」
 セイは身を乗り出す。
「じゃあいつからだ?サーシャはいつから変わっちまったんだ?」
「…多分、サーシャのママが死んでから。でも良く知らないの。」
 しゅんとうつむくリュシアに、セイが頭を撫でる。
「いや、ありがとう。」
「…あ。終わった?」
 輝いた顔で顔を上げるリュシア。その顔だけで、自分の後ろに誰がいるのかセイには分かった。

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