ワットは四人を見回し、人差し指で小さくトゥールを手招く。
「お前が勇者じゃな。」
「はい、僕はトゥール・ガヴァディールと言います。ライサさんにもお世話になりました。」
「一つ相談じゃが、白刃を…」
「セイを交換条件って言うのはなしにして下さいね。」
 先手を打って言うトゥールに、ワットは笑う。
「はっはっはっは、娘と同じ問答を繰り返すのも芸がないな。悪かった悪かった。ふむ…そうじゃなぁ…、その前に 頼みとはなんじゃ?」
「実は、ライサさんに以前にもらった呪術のこめられた骨と言うものをいただきたくて…。」
「…船乗りの骨のことか?なんにするんじゃ、あんなもん。」
 ワットの呆れた声に、トゥールは頬を掻いた。
「その…幽霊船に遺品を取りに…。」
「父親でも乗っとったか?」
「いえ、その、オリビアさんに成仏してもらいたくて。」
 トゥールの言葉に、ワットはため息をついた。
「人のためか。早死にするぞ。わしみたいに自分の為に生きるのが、長生きのこつじゃな。」
「でも、ただ生きてても充実してないと意味がないと思いますし。これば僕のやりたいことなので。…まぁ、 できるだけ大往生します。」
 小さく笑うトゥールに、ワットは嬉しそうに答える。
「…勇者のくせに、意外と欲張りじゃな。」
「勇者だから欲張りなんだと思いますよ。僕の父さんも勇者でしたけど、結構欲張りだったと思いますし。」
 トゥールの言葉に、サーシャは目を見張る。ワットは更に嬉しそうに笑った。
「なるほどな。偉ぶりもせず、卑屈にもならずか。…ふーむ。そうじゃなぁ…。あれはなんも役にも立たんもんじゃが、 かーわいい娘を泣かした奴にくれてやるのもなぁ…。」
 ワットはちらりとセイを見る。セイはあさっての方向を見ながら、小さく鼻歌を歌って見せた。
「ふむ、そうじゃな。変化の杖を知っておるか?」
「はい、サマンオサの古代三国宝の一つですよね。」
「おお、勉強家じゃな。もう何百年も表舞台に出ていないのじゃがな。…ふむ、それと交換にしよう。」

 あっさりと言われて、四人は目を丸くした。次の瞬間、セイが両手で机を叩く。
「じじい!てっめぇ何考えてやがる!!国宝と骨を交換だ?しかも変化の杖っつったら何にでも化けられるとか言う、 お宝だろ?価値が違うだろーが!!」
「何に価値を見出すかは本人次第じゃろうが。骨が必要じゃと思うなら変化の杖を持って来い。それ以外は知らん。」
 テーブルに手をついたまま、セイはこぶしを振るわせた。
「くっそ…。」
「でも、サマンオサ、行けない、今。オリビアさんの所、通して貰えなかったの。」
 今まで黙っていたリュシアが、サーシャの後ろからおずおずと顔を出す。
「ん?白刃にきいとらんかったのか?」
「何がですか?」
 聞き返したトゥールに、セイがようやく力を抜いて答える。
「このあたりに、盗賊の世界では有名な旅の扉があるんだよ。こんな僻地にあるからな、あんま知られてないけど、サマンオサに 飛べるんだ。」
「なら早く言ってくれたらいいのに。」
 ため息交じりのサーシャの言葉に、セイはしばし苦笑する。
「ま、そう言うことじゃ。とっとと言って来い、若人。」
「サマンオサ、ね。…何を考えてるんだ?青眼のじーさんよ?」
「なーんも、わしはもう世捨て人じゃからなぁ…。まー頑張れ。次に来るときゃ杖を持って来いよ。」
 ひらひらと手を振って、ワットは四人を追い出した。


 海氷を散らしながら、船はセイの導くままに進む。
「…二つの道が、一つになった。」
 リュシアのつぶやきに、セイが苦笑する。
「分かっててやったんだろうな。さっすが青眼だ。」
「そう言えば、青眼って何?おじいさんの眼、青くは見えなかったけど。」
 トゥールの言葉に、セイは笑ってトゥールの頭を力いっぱい掻いた。
「ばぁか、ならカンダタの腕は金色かよ。こういう称号は大体盗賊団の頭 に付けられるんだが、金腕の場合は金と同じ価値の腕を持つカンダタ、とかいう意味だな。象徴 みたいなもんだ。で、青眼は青い物を何でも見通す眼の持ち主ってことだ。海賊なら空と海を見極めるのが 基本だからな。」
「…え?セイって盗賊団の頭なの?」
 サーシャの言葉に、セイは力一杯首を振りまくる。
「違う違う違う!ないないないない!俺はなんていうか、たいていはそうなんだが、俺みたいにフリーで、ちょっと 名の知れたやつとかに、他のやつらが皮肉って称号で呼んだりするんだ。あとは自分から名乗ったりしてな。」
 妙に焦るセイに、リュシアが花のような笑顔を見せた。
「セイ、おかしい。」
 それにつられて、サーシャとトゥールも声をたてて笑った。


 オリビア岬のフォローの回です。後がもたつくといやだなぁと思ったので。
 …しかし、幽霊船は奴隷船って話ですが、DQの世界に奴隷がいたのって、何年前なんでしょうね?サイモンが囚われている( その時は通れた)ことを考えると、結構最近なんじゃないだろうか…とちょっとブルーになりました。
 ゲーム上にサイモンの息子がいることを考慮し、それが若者の戦士のドットであることを考えると、 大体多く見積もっても30代後半くらいでしょう。つまり約30年ほど前まで奴隷がいたことに…。今でもいるの だろうか。…いやだなぁ。


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