がしゃんと、コップがこける音がする。
 ミルク、パン、卵、ハム、サラダ。そんな平凡な朝食が乗ったテーブルに、セイは思い切りこぶしを叩きつけた。
「…こぼれた。」
 リュシアの嘆きを意に介さず、セイは強く言う。
「ふざけんなよ?!どこの盗賊が王様の前にのこのこ顔を出すって言うんだ?」
「落ち着いて欲しいな、セイ。招待受けちゃったし、別に良いと思うけど?」
「でも、一体王様が何の用なの?そもそもどうしてトゥールがここにいることを知っているの?」
 サーシャの疑問に、トゥールはパンを飲み込んで首を振った。
「知らないって言ってたよ。僕も詳しい事は知らないし。ただ、多分城門の見張りから 連絡がいったのかなとは思うけど。」
「なんでそんなくそ怪しいご招待をわざわざお受けするんだよ?身分の高いお方々なんてなぁ、ろくでもない 人格の持ち主ばっかりだぜ?」
 ハムを切り取りながら、セイはトゥールをにらみ付ける。
「そんなことないよ。アリアハンの王様はとても良い人だし。」
「だいたい用件も言わずに連れて行こうとしたんだろう?どんな横暴な人間か分かりそうなもんだろ? 行きたきゃ勇者様一人でいけばいいだろ?俺はやだね。」
「トゥールじゃ、王様にお見せする勇者には程遠いわよ。オルテガ様もここをお通りになられたんでしょう? 王様がっかりさせるわよ。」
「サーシャ、ひどいなぁ…」
「本当の事よ。トゥールは勇者と呼ばれるにはまだまだ!なんだから。」
 苦笑するトゥールに、サーシャははっきりと断言した。

「ともかく、セイはアリアハンで盗みには入らないって言ってたんだから堂々としてたらいいじゃないか。 それとも何か悪い事でもしたの?ここの王家から何か盗んだとか?」
「…いや、それはしてねーが…」
「それに、ここの城門には見張りがいるんだし、僕とこうして朝ご飯食べてたら、セイが僕の仲間だって ばれてると思うよ。だから、逃げ出そうとしても止められると思うけど。兵士に捕まるよりは 堂々とお客様としてお邪魔した方が良くない?」
「…じゃあ、城下町で待ってることにするぜ。」
 搾り出したセイの言葉に、トゥールがさらりと止めを刺す。
「でも僕、四人パーティーだって言っちゃったし。理由があるならともかく、悪い事してないなら堂々としてようよ。」
 セイはがっくりと肩を落として、テーブルにすがりついた。
「…所詮、お前らには盗賊の気持ちなんてわからねぇよな…」


 質素で堅実であったアリアハンの城とは違い、ロマリアの城は、豪奢で華やかだった。 他国人の出入りも多く、トゥールたちもそれほど目立った様子はなかった。
「僕、トゥール=ガヴァディールといいます。王様に呼ばれて来ました。」
 トゥールが見張りの兵士に話しかけると、兵士は一礼して謁見の間まで先導してくれた。
「おお、良く来たな。アリアハン王から何度か話を聞いておる。あの噂に名高き勇者オルテガの 息子が、勇者として旅立ったと聞いておる。そなたか?」
 王の前に達、堂々と答える。
「はい、僕です。ロマリア王様。このような立派な城にご招待いただき光栄です。」
「その後ろの者たちは仲間か?」
「はい。そっちの銀髪がセイ。こっちの青い髪がサーシャ=ファインズ。そっちの黒髪がリュシア=アルクィンと 言います。」
 トゥールの紹介に頭を下げた三人を満足に見ながら、王は朗らかに笑った。
「ふむふむ、まだまだ幼い者達であるな。ふむ、アリアハン王はその未来にかけたか。」
 じろじろと見る視線が、まるで鑑定の目つきでセイは目線をそらした。
「ふむ、トゥールよ、そなたはまだまだ幼い。勇者と呼ぶには少し不安が残る。そこでだ、実は カンダタという盗賊が、この城から金の冠を奪って逃げた。それを見事とりかえした暁には、 そなたを勇者と認めようぞ!!」
「カンダタ…ですか?」
 トゥールが聞き返す。
「ふむ。このあたり…いや、世界の各地に住みかを持つ大盗賊だ。この城に伝わる金の冠は 戴冠式にのみ使われるものだが、豪華でそれだけで一財産にもなるものだ。それを取り戻して参れ。」
「…つまり勇者にかこつけて、ただ働きをさせようってわけか。」
 セイはあまりにも馬鹿らしくなって、そうつぶやいた。だが、小さな声でも謁見の間では 響き、周りの耳にも届く。
「貴様!!無礼な!!」
 兵士が剣をこちらに向けるが、セイは気にしたそぶりもなく、優雅に礼をしてみせた。
「それは失礼いたしました。この素晴らしく歴史の残る国の王ともあろうお方が、王の系譜を伝える 金の冠を取り返した者に褒美を与えぬはずがございません。まことに常識外れた言い草、申し訳ございませんでした。」
 兵士が言葉にぐっと詰まる。王は愉快そうに笑ってみせた。
「はっはっはっはっは、そうだな。もし金の冠を取り戻した暁には、この国ごとくれてやろうぞ。では期待しておるぞ。」





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