まだ夕方直前にも関わらず、劇場は大変な賑わいだった。
「いらっしゃいませ、どうぞ、お通り下さい。」
 入り口にいた男性に促され、四人は劇場へ足を踏み入れる。
 赤い顔をした男性達が、舞台で踊る、半裸の女性に声をかける。女性は官能的に踊り、こちらに色を投げる。
「…恥ずかしい。」
 リュシアが目を伏せる。サーシャは顔をゆがめた。
 今来た所を見ると、先ほどの男性がにこにこと笑っている。今すぐ出たいところだったが、あの男性の目の前で取って返すのも 気が引けた。
「…端の方に行きましょう。」
「…そうだね。ちょっと…目のやり場に困るし。」
「まー、いい眺めだとは思うが、ちょっと趣味じゃねぇか。酒が出るんだよな、ちょっと見てみるか。」
 結局四人は目立たない隅の方へ行き、セイが酒を一杯頼んだ。
「…まぁ悪くないな、値段も高くないしな。思ったよりはまともだな。」
 強い酒を舌で転がしながら、セイはそうつぶやいた。
「うん、もっとあこぎなのも覚悟してたんだけど。…ちょっと刺激が強いけどね…。まぁ、ともかく、 セイがお酒飲み終わったらもう一回行ってみようよ。」
「そうね、あの門番さんに迷惑をかけてないといいけれど…。」
「…………ここ、嫌い。」
 リュシアが唐突に言った。
「どうしたのさ?」
「真似してるのに、似てない。あの棚とか、壁の飾りとか、家に似てるのに、あっちのカウンターとか、このメニューとか、 ママが一生懸命のところ、全然違う…。」
 見栄えばかり気にして、中身がないとリュシアは言う。
「町と同じって事か。」
 トゥールがそうつぶやいた時、何か物騒な言葉を聞いた気がして、トゥールは思わず振り返った。


 それは、一番目立たない劇場の隅の席。
「…してしまうのはどうだろう?」
「しかしそれではあまりにも…。」
 いかにも気の短そうな若者、少し落ち着いた壮年の男性、そして少し気の弱そうな男。三人は なにやらひそひそと話をしていた。
「だがこのままでは…。」
 壮年の男性が、トゥールに気が付く。男達は口を閉じた。

「…今の…。」
 トゥールが思わずつぶやくと、気の短い男性が小さく、しかしドスの聞いた声で言う。
「…こうなったら、革命を起こすしかない。あんたら、止めても無駄だぜ、俺はやるって言ったら やるんだ!」
「ギーツのやり方はあんまりなんです!僕達はもう、耐えられません!」
「…聞かなかった事にしてくれ。そして町を出ろ、旅人さん。」
「…親切にありがとうな、おっさん。」
 セイが残りを飲み干して、トゥールの腕をつかんで立ち上がる。
「気を付けろよ、おっさん、達者でな。」
 セイは軽く手を振ると、入り口へと向かう。すぐ後ろからサーシャとリュシアも付いてきた。トゥールは何も言わず、 ただ引きずられた。


 入り口に差しかかったときに、入り口の男性に止められる。
「お帰りですか?それではお代を頂戴します。しめて50000ゴールド、払っていただけますね?」
「なんだと?!んなこと言ってなかったじゃねぇか!!」
 セイが切れると男は厚い胸板を見せびらかすように胸を張る。
「劇場に入場料がいる、常識じゃないですか。何を言っているんですか。」
「常識を言うなら、入る時に言うもんだろう?」
「ここは後払いなんです。さぁ、払ってくださらないと困りますね!!」
 男はどんと前に立ちはだかる。平和的に払ったほうが良いのだろうか。しかしこれはあんまりではないだろうか。 トゥールが思案していると、入り口から客が入ってきた。
「いらっしゃいませ。」
 男は笑顔で手を差し伸べる。だが、新たに入ってきた客は、男には見向きもせず、こちらを見て声を上げる。
「ああ、サーシャ様方!こちらにいらっしゃいましたか!ギーツ様がお呼びでいらっしゃいます。どうか館へいらしてください!」
 門番の男が、サーシャに向かって頭を下げた。それを見て、男が焦る。
「ギーツ様のお知りあいでいらっしゃいましたか、いやーこれはこれはー。」
 男はあいまいに笑いながら、奥へと引っ込んで行く。門番はそれを気にせず、サーシャ達を手招いた。

「先ほどはお待たせして、真に申し訳ございませんでした。ギーツ様のご客人であらせられるにも関わらず…。」
「いえ、町を見て回れましたから大丈夫ですよ。」
「そうですか!ありがとうございます!」
 先ほどとは違う、あまりにもうやうやしい態度は、サーシャだけでなく、トゥールたちに対しても、王族に対するような 扱いだった。
 セイなどは居心地悪そうにしている。トゥールは勇者としてこういう扱いは、多少慣れてはいるが、それでもここまで過剰だと 違和感を感じる。
 尊敬と言うより、恐怖。
(…なんだか2連続だと嫌になってきちゃうなぁ…。)
 中心にいるのが、仮にも自分の幼馴染だと思うと、トゥールはため息をつきたくなる。
 ふと横を見ると、少し不安そうな、そして不満そうなリュシア。困惑したサーシャ。呆れているセイ。そして、前には きらびやかな館が、トゥールを出迎えていた。


 町編はサマンオサ2回戦、と言った感じになりそうな予感。
 勇者とはなんぞや、がテーマ?かな。
 トゥール主役編です。なんとか前回の汚名返上してもらいたいところです。

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