朝が来た。新生『ギーツバーグ』には希望の朝。そして、牢でうずくまるギーツには、絶望の朝が。

 トゥールとサーシャはギーツの牢へと訪れた。トゥールが看守に挨拶すると、妙にかしこまって頭を下げて来た。
「…なんだかなぁ。昨日も思ったけど、そこまでかしこまる事はないと思うんだけど。」
「いいじゃない、血が流れなかったことを感謝してくれてるって言う事は、 この町がきっともっともっと良くなって行くってことなんだから。」
 サーシャにそう言われてトゥールは破顔した。
「うん、そうだといいよね。」
 その笑顔がとても印象的で、サーシャは思わず顔をそらした。
 そして、静かな牢屋の一番奥に、ぽつんと一人座っているギーツを見つけた。


「サーシャ!来てくれたのか!オレのために!」
 どこかやつれたギーツが、鉄格子に飛びついてきた。
「ギーツ!…大丈夫?」
「っは、あいつらオレをこんな所に入れやがって!!誰がこの町を大きくしたと思ってるんだ、感謝も しやがらねぇ!!…まぁ、いいさ、オレにはやっぱりこんな泥臭い町、ふさわしくなかったんだ。…サーシャ、 オレと一緒に逃げよう。」
 サーシャの顔が曇る。それを見て、ギーツは焦ったように口を動かす。
「…そりゃ、ちょっと税を沢山とった。 それで皆苦しい生活をしたって言うんだろうが、苦しまなきゃ町は大きくならなかったんだろう ?なのに文句ばかりいいやがって、ちっともわかってねぇよ! あいつらだって オレの事なんか気にしてくれてなかったじゃねぇか!なのになんでオレがあいつらを気にしてやらなきゃ ならねぇんだよ!!だからオレを逃がしてくれ、もうこんなところうんざりなんだ、サーシャ。」
「ギーツ…、神は、全ての罪をお許しになるわ。私たちを包み守りくださっている大地の精霊神ルビス様は、 いかなる物も拒まない、愛し守ってくださるわ。」
「サーシャ…。わかってくれたのか。」
 優しい声音に感動して、鉄格子の間から手を握ろうと手を伸ばすギーツ。サーシャはそんなギーツに首を 振って見せた。
「でもそれは、罪を認め、反省し、償い、心から懺悔した者にだけよ。ギーツ、貴方は何も反省していない。 …なのに、償いもせずに逃げるの?」
「オレは何も悪い事はしてない!」
「…誰かを傷つけた事は事実なのよ、ギーツ。…貴方がそれを分からないはずがないわ。だって貴方も ずっとアリアハンで王の下で庶民として働いていたのに。」
「…オレは、この町を大きくしたかっただけなんだ。オレはこの町を守ってきた!それは罪じゃないはずだ! わかってくれ、サーシャ!」
 がしゃがしゃと、ギーツが鉄格子を揺らす。サーシャはじっと静かな目でギーツを見つめた。
「…ギーツ。ギーツのした事は間違ってない。ただ、できなかった事があっただけなんだ。」
 その言葉に、ギーツは憎しみの目を、トゥールに向けた。
「お前に何が分かる!!」
「…どうだろう。分かるような気がするし、分からないような気がする。ずっと分からないかもしれないけど、もう、 分かってるような気もするよ。」
 トゥールは良く分からない答えを返す。サーシャは不思議そうな目で見た。

 トゥールとギーツはそれほど仲が良いわけではない。子供の頃はいじめられていたし、大きくなって片親の関係から 城で共に勉強する事があっても、あまり仲良くしていたようには見えなかった。
 なのに、どうして昨日からあれほど親身になったのだろう。
「訳の分からないこと言ってオレを馬鹿にするな!!」
「ギーツ、昨日も言ったけど、ギーツが守るべき町って言う中には、ギーツが馬鹿にしてる町の人も入ってる。 町は人がいないと町にならないんだから。だからギーツは、町ごと人を守らないといけなかったんだよ。 人がいれば町は作れる。でも人がいなくなった町には、きっともう人は来ないんだから。それごと 愛せないと、守るなんてできないんだ、きっと。」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!お前のせいでオレは牢の中だ!!黙れ!!」
「ギーツ!やめて!トゥールがいなかったらギーツは今頃…、」
「逃がしてくれただろう?サーシャが?なぁ、サーシャ、オレは…」
 すがってくるギーツから、サーシャは初めて目をそらした。
「…サーシャ、オレを見捨てるのか?なぁ、オレはサーシャの為にここまでやったんだぞ?オレはサーシャを 愛してるんだ!!なぁ!サーシャ!!オレは、お前を迎えに行きたくて!!」
 がしゃん、と鉄格子が乱暴な音をたてた。トゥールが、鉄格子を蹴ったのだ。
「ギーツ、サーシャのせいにするな。サーシャはそんなことを頼まなかったはずだ。悪事を惚れた女のせいにするなんて、 惚れてるなんて言う資格はないよ。」
 怖い顔をして言うトゥールの横で、サーシャは座り込んだ。ギーツの真正面に。


「…初めてね。貴方が今までみたいに私は貴方の物だと言うのではなくて、そんな風に言ってくれたのは。 …今までその言葉がなくて、貴方の気持ちを疑っていたわ。ただの自己顕示欲なんじゃないかって 思ってた。…ごめんなさい。」
「………。」
 自分が誰よりも優れた人間で、それを疑ったことは今までなかったのに。今はこうして、惨めに牢に入っているのが情けなかった。
 そして、そんな状況で、初めて目の前の美しい女は自分と向きあってくれたのだと分かる。
「…ありがとう、ギーツ。…でもごめんなさい、ギーツ。私は貴方の想いに答える事は、できないわ。」
「どうしてだ、サーシャ!オレが、オレが失敗したからか?」
「一つは、私の問題よ。…私にはやらなければならない事があるの。それに私はまだまだ未熟だから…。 誰かの想いを受け止めるには弱すぎるの。」
「……………。」
 ギーツは黙り込んだ。サーシャははっきりと口にする。過去の経験からごまかさないほうが親切だとわきまえていた。
「もう一つは、貴方が自らの行いを省みようとしないから。どうしてこうなったのか、自分がなぜこの行動を とったのか、それを見て反省しようとしない。…それでは神の救いは受けられない。」
 それは、自分も同じだと、サーシャは心の中で自嘲した。
 ずっと、神の指し示す道を歩いていたけれど、神にもっともそむいていたのは、自分だったのだろう。
「貴方を特別だとは思えない。ごめんなさい。その想いは受け取れないわ。」
 ギーツはがっくりと膝をついた。傷ついているのがわかるが、サーシャはなにも言わなかった。傷つけてしまった自分が 何を言っても、更に傷をえぐる事にしかならない。

 …悔しかった。何が悔しいかと言えば、サーシャの最初の言葉が真実だと気が付いた事だった。
 美しく上質なサーシャを手に入れれば、…誰からも勇者だともてはやされているトゥールに勝てると思った。 この目の前にいる大嫌いな男に。
 それでも、自分は負けたのだ。サーシャはこの男に着いて行くし、自分の命はその世界一嫌いな男に助けられた。
「…………王座の下。」
 ギーツがぼそりとつぶやいた。
「「え?」」
 思わず二人が聞き返すと、ギーツは怒鳴り返す。
「物は王座の下だ!!勝手に持って行けよ!!!」
 その物が何かとわかって、トゥールは微笑を浮かべた。
「ありがとう、ギーツ。」
「……トゥール!!これでオレに勝ったと思うなよ!!!」
 そう怒鳴ったギーツに、トゥールは思わず笑う。
「負けたつもりもないけどね。…ギーツ、僕は昔から、ギーツの事嫌いじゃないよ。」
 余裕めかしていう大嫌いな男に、ギーツは力いっぱい叫んだ。
「オレは、お前が大っ嫌いだ!!!」


 トゥール勇者編。なのかなんなのか。難産でした。はふぅ。VS人は難しいですね。
 トゥールの勇者らしさが出せればなぁ、と思って頑張りました。ちょっとは株があがったでしょうか。
 実際はサマンオサとあわせて一本という感じですね。テーマが同じと言うかなんというか。

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