終わらないお伽話を
 〜 聖なる者が住まう場所 〜



 視界を覆う、真白い雪。
「…さむ…。」
 四人はほとんどくっつきながら雪に足跡をつけていく。
「俺から離れるなよー。」
 セイは小さくそう言う。オーブはセイが持っているのだ。理由は単純で、もしはぐれたとき、一人だけルーラが使えない からなのだが。
 手を伸ばせば、自分の指先さえ雪で消えて見えない。それでも、オーブに導かれるように、四人は 雪をこぎ、先へと進む。
 ただ、目の前にちらちらと見える背中。それを目指して、ひたすら冷え切った足を進めた。


 目の前が、ぱっと開けた。
「へ…?」
 それは、あまりにも唐突でなんの予告もなく。四人は目をぱちくりさせた。
「…雪が、やんだ…?」
 そういうのも、愚かだろう。なぜから自分のすぐ目の前には、目の前を埋めんばかりに雪が降っているのだから。 まるで窓から外を覗いているような感覚だが、目の前にはなにもない。そして、頭上には青い空が広がっているのだ。
「…結界…のような物かしらね。よくわからないけど、もう近いのかもしれないわよ。目的地は。」


 緑さえある不思議な空間。そして、トゥールたちを待っていたのは、高い高い塔に住む、二人の巫女と、大きな卵だった。
「でっかいな…。」
「本当、教会くらいあるわよ。」
「双子…?」
 二人の巫女はまったく同じ顔をしていた。姿変えの呪文でも使っていなければ…おそらく双子なのだろう。それにしても、ここまで 似ている双子を見たのは初めてだった。
「わたしたちは」
「わたしたちは」
 まったく同じ声、同じ調子で二人は語り始める。
「卵を守っています。」
「卵を守っています。」
 それは不思議な感覚だった。同じ声、同じ抑揚の言葉が、二箇所から聞こえてくるのだ。
「世界中に散らばる6つのオーブを金の台座に捧げたとき。」
「伝説の不死鳥、ラーミアは蘇りましょう。」
 ようやく違う言葉が出てきて、四人はホッとする。同じ顔で同じ言葉を言われた時には、魔物か何かに化かされている 気がするのだ。
「…ともかく、オーブをこの台座に置けばいいんだよな。順番は特にないのか?」
 セイの言葉に、二人の巫女は同時に頷く。
「そっか。そらよ。」
 セイはトゥールにブルーオーブとシルバーオーブ。リュシアに緑のオーブ、サーシャに黄色のオーブを渡す。
「…なんだか感慨深いね。」
 トゥールの言葉に、リュシアは頷いた。世界中を旅し、さまざまな人々と出会い、少なからず困難を乗り越えてきた 結果が、今ここにある。
 トゥールは、ブルーオーブを台座に捧げる。それは、たった一人で洞窟に入り、自らと戦った思い出。
 セイは、レッドオーブを台座に捧げる。それは、かつて共にいた人物に手を差し伸べてもらった思い出。
 サーシャは、イエローオーブを台座に捧げる。それは、助けを求め、そして破滅してしまった旧友の思い出。
 リュシアは、グリーンオーブを台座に捧げる。それは、ずっと追い求めて、得られた自分と、すでに亡くした血族との思い出。
 セイは、パープルオーブを台座に捧げる。それは捨てた故郷と過去の再会と、入り込んでいた卑劣な魔の思い出。
 トゥールは、シルバーオーブを台座に捧げる。それは、四人で超えた苦難と…志半ばで倒れてしまった父の思い出。
 六つを捧げ終えたとき、オーブが光を放ち、かたかたと中央の卵から音が鳴り出した。

「…なんだ?」
 四人は自然に巫女の傍へと集まった。音はなお、大きくなり、卵は揺れ始めた。
「わたしたち」
「わたしたち」
 巫女はまた同じ声で語り始める。
「この日をどんなに」
「この日をどんなに待ち望んでいたことでしょう。」
 オーブの光はさらに強まり、トゥールたちは目を細める。
「さあ祈りましょう。」
「さあ祈りましょう。」
 そして、まるで呪文のように力のこもった言葉を、卵に投げかける。
「時は来たれり。今こそ目覚めるとき。」
「大空はお前の物。舞い上がれ空高く!」
 その言葉と共に、中央の卵に大きな亀裂が入り、それが大きくなり、中から黄色いくちばし、赤い頭毛、そして純白 羽を持った大きな鳥が現れた。
 残った卵を振り払い、大きく翼を広げると、ラーミアは、言葉にできない音で鳴き、そして 煌きと共に、空へと飛び立っていった。


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