終わらない お伽話を(16)

終わらないお伽話を
 〜 善人と変人 〜




 枯れ草を踏み固めながら、山道を歩く。多くの人間が歩いてきたはずの道は、モンスターの 出現によって少しずつ野草に侵食されていた。
「本当に、この奥に村があるの?」
 サーシャが嘆息まじりにそう問う。
 獣道とまではいかないが、ずいぶんと古い道のようにみえる。どんどん山奥に入ってきているから なおさらだった。
「あるって話だ。俺は行った事ないけどな。」
「シャンパーニュの塔のこの道を通っていくって話だし、とりあえず何もないって事はないんじゃない?」
 軽く言うセイとトゥールに、サーシャは乱れた髪の毛を整えながら前を見た。
「行ってみたら山小屋だったらどうするのよ。」
「でも名前ある。あると思う。」
 リュシアが言うとおり、目指す村には名前がある。カザーブの村。ロマリアから北の山奥にある小さな村だと言われている。 昔はよく交流があったらしいが、 モンスターが出て以来、ほとんど交流がなくなってしまったらしい。
 一度引き受けてしまった以上、シャンパーニュの塔がある北へと向かいたいと言うトゥールに、 セイが提案した行き先がそこだった。
「位置的には村からシャンパーニュの塔の先端が見えるはずだ。村は山の上だからな。まぁ、どんなでかい アジトかだけでも見ておいたらどうだ。お前らの身の程知らずが良く分かるぜ。」
「…気になるんだけど、なんでそんな目立つ所が、盗賊のアジトなのさ?」
 トゥールのもっともな問いに、呆れの表情でセイがトゥールの頭を殴る。
「ばーか、そんだけ自信があるって事だろう?だいたいそんじょそこらの盗賊なら、とっくに王冠 取り返されてるだろうが。あの王様、何人の兵を出したんだろうな。」
 あざけるように笑うセイ。無謀と言われた意味が少し分かった気がして、トゥールは頬を掻いた。
「…村。」
 体力のないリュシアが、少し呼吸を荒くしながら前方を指差した。ほんのりと赤く染まった空の向こうに、確かに 人の手の入った建物が見えた。


「…まるでこの夕焼けのような美しい髪と唇だな。…なぁ、この村はなんて言うんだ?」
 入り口付近にいた女性に、セイが近寄りながら声をかけた。女性は一瞬 セイに見とれて、顔を赤くしながら答える。
「こ、ここはカザーブの村。こんな時に旅なんて…珍しいわね。」
「君に会えるんなら、モンスターの攻撃なんて焼け石に水みたいなもんだ。」
「まぁ…そんな…お上手ね。」
「本心だぜ。こっち向いて笑って欲しいな。その方が絶対綺麗だ。」
 照れる女性のあごに手を添えて、セイはこちらを向かせる。
「この村にも酒場くらいあるんだろう?何なら今夜、一緒に…。」
「あ…夜は外に出ないほうがいいと思うわ。危ないから…。」
 呆然とその様子を見ていた三人が、場違いな言葉に目を丸くする。
「…あの、危ないって、もしかしてモンスターでも?」
 トゥールが声をかけると、女性は気恥ずかしくなったのだろう、セイからぱっと離れた。
「違うの。…その、…最近幽霊が出るって噂があって。」
「幽霊?」
「この村の伝説で、素手で熊を倒した武闘家がいるんだけど…そのお墓に白い人影が現れて、 もう、何人も怪我をしてるのよ。だから、この村で宿を取るなら、 夜は外には出ないほうが良いと思うわ。」
 どうやら心底心配している様子だった。
「そうか、残念だな。この村には長居できないから、いろいろ話を聞きたかったのにな。」
「私も残念だわ。じゃあ、また。」
 未練を断ち切るように、女性は頭を下げて立ち去って行った。

「…すごいね。」
「…たらし。」
「素晴らしい情報収集だわね。」
 三人の非難の視線が集中するが、セイはまったく気にした様子がなかった。
「俺は綺麗な髪の女性には親切にする性分なんだよ。あ、もちろん、サーシャが一番だぜ?」
「はいはい、じゃあ、そろそろ遅くなるし、宿を取りましょう。」
 沈む夕日に照らされて、大きな塔が赤く染まっていた。


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