もともとの目的どおり、トゥール達は王子に促され、謁見の間まで通された。
「そなたは…?見慣れぬ顔だがもしや旅人か?」
「はい。」
 トゥールが頷くと、王は目を見開いた。
「どこから来た?もしや、外からか?」
「…えっと、上、からです。」
 トゥールの言葉に、王はがっかりすると、そのまま興味を失ったように背もたれにもたれかかった。
「そうか、落人か、苦労もあろう。帰れるならば帰った方が良いぞ。…ここには見ての通り絶望しかない。 それでもここで暮らすと言うのならば、色々支援させるように案内しよう。…下がっても良いぞ。」
 ラダトーム王は暗い顔でそういうと、もはやトゥール達の方を見もせずにため息をついた。


「…なんなんだあいつは。」
 謁見の間を出たとたん、セイは不機嫌顔でつぶやいた。
「セイ、王子の前で失礼だよ。」
「王族やら貴族やらはどうせ好かねぇし俺達への態度はもうどうだっていいが、そもそも真面目に仕事してるのかあいつは。 こういう時に役立つために税金とってるんじゃねぇのかよ。」
 いさめるトゥールを手で制し、王子は頭を下げる。
「いえ、皆さん、父が失礼しました。…そうですか、やはり駄目ですか。…トゥールさん達に会えば、父にも少しは 希望が出ると思ったのですが…。」
「私達が何か言う前に下がれと言われてしまって…お役に立てずに申し訳ありません。」
 サーシャの言葉に王子は首を振った。
「いえ、こちらこそ…。それよりも落ち着いた場所で話したいことがあるんです。あちこちつれまわすようで申し訳ないのですが。」
 王子はそう言うと、また別の部屋へとトゥール達を誘う。その部屋はどうやら王子の自室のようだった。四人に 椅子に座るように促し、メイドにお茶を頼むと王子もトゥールたちに向かうあうように座る。
「先ほどは父が失礼しました。…なんとか父に希望を持って欲しかったんですが…。父だけではありません。 ここにいる多くの人間が希望を失ってしまっているんです。特に5年ほど前、魔物がこの城に攻め入って宝を 強奪されて以来、父はもはや何もする気力もないようで…。ただ、こんな時代に王位についた自分の不運を呪うだけなのです。」
「そんで何もせずに下々の者から金だけ取って生きてるのか?王なんてなんの役にもたたねーな。」
 セイがはき捨てるように言うが、王子はそれをとがめもせず困ったように笑う。
「今はそれを否定できません。…王というのは本当はもっと力があるはずなんです。こんな困ったときにこそ、 人々を纏め上げ、困った人を助けることができるはずなんです。 せめて父がもう少ししっかりしてくれればいいのですが。…僕の力だけではできることも限られていますので…。」
「…貴方がしてくれたの?」
 ずっと黙っていたリュシアが口を開いた。
「何がでしょう?」
「町の人にご飯とか、色々。」
 リュシアの言葉に得心がいったように小さく頷いた。
「僕の力ではあまり多くのことができずに、十分ではないと思いますが…。」
「でも、一生懸命できることをやってるのはとてもすごいことだと思う。」
 リュシアが小さく言った言葉に、王子は驚くほど丁寧に頭を下げた。

「すみません、話がそれてしまいました。…皆さんがこの世界を助けるために来てくださったというのは本当ですか? …聞いた話だとゾーマはこの世界の支配はおろか、そちらの方にまで手を伸ばしたと言う話ですが…。」
「バラモスは倒しました。そしたらゾーマが上の方に攻撃してきたんです。だから、僕達にとっても人事じゃありません。」
 トゥールがそう言うと、王子は息を呑んだ。
「それは、…いえ、疑うわけではありません。ですが、あまりに驚いてしまって…すみません。」
「まぁ、俺達みたいなのがそんなこと言ったら普通は疑うだろ。…なんで疑わない?俺達が悪人 だったらどうするんだ?上から来た奴なんで何人もいるんだろう?なのになんで俺達をあえて王に会わせた? 何をたくらんでいるんだ?」
 セイがにらみつけるように王子を見る。だが、王子はそれに笑って答えた。
「落人…上から来た人は全てではありませんが、この城にいらっしゃることが多いのです。そんな中、私がまだ子供の頃 ある落人がこの城にいらっしゃいました。その方は私にいろんな話をしてくれ、いろんなことを教えてくれました。」
 どこか懐かしそうに語る顔を見て、王子がその人物を大切に思っていることが分かる。
「ですが、来たときに体中火傷とひどい傷で、ついにご自分の名前しか思い出されることがなかったのです。」
 胸がどくん、と鳴ったのはどうしてだろうか。
「…それは、その人が落ちてきたのは、どれくらい、前ですか?」
 トゥールの声は上ずっていた。それに気がついているのだろうか、王子ははっきりした声で答えた。
「八年前です。」
「その、方の名前は?」
 耐え切れずサーシャが聞いた。自分が聞くことは間違いだと分かっていたが、耐えられなかった。
 その緊張感が伝わったのか、王子も声も若干震えていた。
「その方は、オルデガ・ガヴァディールとおっしゃいました。…トゥールさん、その方はもしかして、貴方と なにか縁のある方ではありませんか?」


 ラダトームの城編その1です。ようやくここまで来ましたね。ラダトーム編はあと一回続きます。

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