”ある寒い冬の日のこと。 妹は家族のいいつけで、森に暖炉に使う枝を取りにいきました。 ですがその日は風が強く、近くに良い枝は落ちていませんでした。だから妹は 森の奥深くまで枝を求めて歩かなければいけませんでした。” リュシアに飛びかかるカエルめがけて、セイが鞭を振るう。その鞭はカエルの足にからまり、 地に落ちた。そしてサーシャがそのカエルの喉元を武器を振り下ろす。 リュシアが敵の前に飛び出す。それを見たトゥールは最後にカラスの羽を剣で薙ぎ、 地面に落としたところでリュシアの後ろに走る。 「イオ。」 その呪と同時に、目の前が白く染まる。爆発音が木霊し、敵の全てを吹き飛ばした。 「…とりあえず、モンスターに異常はないと思うけど。」 焼けた敵をひっくり返しながら、トゥールは流行病の兆候がないことを確認した。 「鳥も落ちてないし、草木も元気ね。…ただの噂かもしれないわね。」 「…悪い事じゃないのがいい。」 リュシアは空を見上げて、少し祈るようにつぶやいた。遠くに村が見えているが、 煙が立っていない。流行病の町には、遺体を燃やす黒煙があがるものだが、 どうやらその説は捨ててもよさそうだった。 「しかし変だぜ。今昼だろ?昼食の準備の煙くらいあがってそうなもんだが…」 セイの言葉に、もう一度村の空を見上げる。確かに、生活の煙があがっていない。 「行ってみようよ。たまたまかもしれないし、そうじゃないかもしれないし。変な匂いが 漂って来たら、その時に考えよう。」 トゥールはそう言って、山道を慎重に歩き始めた。 ノアニールの村並みは平和そのもので、人は外に出て太陽の光をさんさんと浴びていた。 …静まり返った村の中で、人々は石像のように動きを止めていた。 「…なに…これ…?」 呆然とするトゥールの横で、サーシャは入り口でぴくりとも動かず立ち尽くしている村人にかけよった。 閉じたまぶたを開き、腕を取り、体を確かめる。 「…生きては、いるわ…息もしてる。けれど…」 頬を軽く叩いても、反応がない。目を硬く閉じたままうつむいて立ち尽くしている。どの人間も皆、同じだった。 「…サーシャの呪文…?」 サーシャが以前に覚えた睡眠の呪文を思い出して、リュシアがぽそりとつぶやくと、セイはまじまじと村人を見た。 「…おいおい、眠ってるってそのまんまの意味かよ…?」 「でも、もうずいぶん長い間なんじゃない?ほら、肩に埃がたまってるし…多分何ヶ月とか、何年とか… それくらいじゃないとおかしいよ。」 肩の埃を払いながら、トゥールはサーシャの方を向く。 「そんなに長い間…無理だよね。」 「当然よ、人の魔力では到底無理だわ。人の方がもたないもの。」 「とりあえず起きてる人を探そう。誰かいるかもしれない。」 「あんまり見込みなさそうだけどな。かまどの火がついてる気配がねぇし。」 セイは頭を書きながら、村を見渡した。 遊びの途中で固まってしまった子供。 旅装束で立ち尽くしている男。 井戸の水を汲もうと桶を持っている女性。 カウンターで眠っている主人。 …皆、安らかな寝息をたてていた。 「…横にしてあげた方がいいのかしら…?」 「下手に触ると厄介だ。やめとこうぜ。」 村中が、静かに眠る村。それも村人は健康なまま、時を止めたように眠っていた。その光景は あまりにも異常で、あまりにも現実離れしていた。 「本当に皆寝てる…どうしてなんだろう…?」 ためしにトゥールがゆすってみるが、当然起きる様子がない。どの人間も同じだった。 その時、リュシアがトゥールの服の袖を引く。 「どうしたの?リュシア?」 「…煙。」 リュシアが指差した先には、村のちょうど外れから、細い細い、白い煙があがっていた。 |
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