終わらないお伽話を
 〜 赤き夢を見る 〜



 開けているにも関わらず、それでも人の里から考えると信じられないほどの深い森。トゥールたちは それを分け入りながら、奥へと進んで行った。
 突然、リュシアの腕が引かれた。
「あぁ!」
 リュシアは開いた手を伸ばしながら叫んだ。
「リュシア!?」
 一番すばやいセイがそれに気がつき、差し出された手を掴んで引き戻す。すると、リュシアの腕を掴んでいた エルフが顔を出した。

 丹精な顔をした男のエルフだった。腕には木の槍を持っている。
「お前、何だ?!リュシアをどうするつもりなんだ?」
 セイがナイフを取り出してエルフに向ける。だが、直後に声が飛ぶ。
「セイ、後ろ!」
 トゥールの言葉と同時に、木の棒がセイの後頭部を狙う。
「そうは、行くかよ!!」
 後ろから唐突に現れたエルフの男が振り下ろしたひのきの棒を、セイはナイフで叩き切る。
「…僕たちに、何の用ですか?」
 トゥールはすでに、リュシアを引っ張ったエルフの槍と小競り合いをしていた。
「この地に踏み入れた無礼者に、天罰を与えに来たまでだ。」
 その言葉に、サーシャはトゥールの後ろから逆上した。
「この世界に住まうものは、全て平等な者。エルフだから、人間だからと言って…」
「何を言う。国や位などと言うもので同種同士で見下しているのは人間達ではないか。」
 あざけるように言われて、サーシャの言葉が止まる。だが。
「で、お前はエルフの王様にでも仕えてるんだろう?しかもそれを自慢に思ってる。 選ばれなかったエルフを馬鹿だと思ってる。」
 セイの言葉に、エルフの男…兵士が表情を変える。セイが止めを刺すように、笑った。
「人間もエルフも一緒だよな。特権を得て見下す表情ってのはな。」
「この…!」
 セイに切られた棒を、兵士の一人が激情に任せて振り下ろす。
「やめろ!」
 トゥールがそれを盾で受け止めた。
「僕達は、べつにこの場所を荒らしに来たわけじゃないんだ。ただ、少し用が会って来ただけなんです。 偉い人がいるなら、その人に会わせてください。」
「お前が命令できる立場か?」
 その後ろから、エルフの声。見ると、槍を持っていた兵士が、リュシアの首に槍の柄を当てている。 首を絞められて苦しそうだ。
「リュシア!」
 サーシャが声をあげる。だが、トゥールは怒りながら笑った。
「…それ、本気ってことだね?…リュシア、ちょっとだけ我慢して。すぐ助けるから。」
 リュシアが小さく頷いたのを確認すると、トゥールは目の前の兵士に足払いをかけた。
「この…!」
 転ばされた兵士が棒を前に突き出すが、セイがすかさずその手に鞭を当て、棒を跳ね飛ばす。トゥールが すぐにそのエルフの喉元に剣先を押し付けた。
「…リュシアを絞め殺すのと、この人を刺すのと、どっちが早い?」
「仲間を見捨てる…」
 槍の兵士は最後まで言うことができなかった。すぐさま後ろに回ったサーシャが、その後頭部を 思いっきり殴りつけたからだった。


「…リュシア、大丈夫?…ああ、跡になってる…。」
 サーシャがリュシアの首を見て嘆く。回復呪文をかけながら、怪我がないかチェックをしていた。
「ごめんね、リュシア。良く見てなくて。怖かった。」
「…トゥール守ってくれるって信じてた。」
 小さくだが、にこっと笑うリュシアの頭を、セイがこづいた。
「…お前、その前に自力でなんとかしろ。二回もつかまんなよな。」
「…ごめんなさい…。」
 しゅん、と沈んだリュシアを、厄介だと思いながら、上から見下ろす。サーシャは何か 言いたそうだったが、エルフの兵士の回復に回っていたため、口を出すことができなさそうだった。
「リュシアも好きで捕まったわけじゃないんだから…。」
「トゥール、お前が甘やかしてるから、リュシアはこうなんだろう?!」
 リュシアをかばうトゥールを、セイが怒鳴りつける。リュシアは恐る恐る近づいて、そっとセイの すそをひっぱった。
「…………トゥール、悪くない…リュシア、頑張るから…。」
「ああ、せいぜい手間かけさせないでくれよ。ったく。」
「はいはい、いいから。そろそろエルフさん達起きるわよ。」
 エルフのうめき声を聞き、サーシャが三人に呼びかけた。


「お前たち…」
「どうするつもりだ…」
 憎憎しげに睨むエルフたちを、トゥールが静かに見つめた。
「最初に手をあげたのは、貴方たちだ。貴方たちが紳士的に僕達に帰れと言ってくれたなら、 僕はこんなことしなかった。乱暴はしない。けど王様の元へ、僕達を案内して下さい。」
「誰が…」
 言い返そうとしたエルフに、セイが水を差す。
「応援が来なかったって事は、戦闘能力があるのはお前たち二人って事か?」
「エルフは平和主義者だもの。自然と共に生きるエルフに、それほど戦闘員がいるとは思えないわ。」
 サーシャにそう補足され、兵士たちは黙る。セイは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、強行突破されたら問題だよなぁ、お前たちの誇り、台無しだよなぁ。」
「僕達はどっちにしろ、王様に会いに行きます。僕達 だけで行かせるか、貴方たちが連れて行ってくれるか、選んでください。」
「ぐ…」
「…わかった…」
 トゥールの言葉に、兵士ががっくりと肩を落とした。
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