「青き冠を持つものよ。経緯は緑から聞きました。兵士たちの怪我を正当防衛であったことは認めましょう。」
 里の中央にいたのは、美しいエルフの女王だった。紅い宝石がついた王錫を持ち、玉座に 座っている。人間の評価からすれば粗末な 玉座だったが、大地のすえられ、葉の天井の下にあるそれは、緑の長い髪の女王と あいまって素晴らしい物に見えた。
「申し訳ありません。」
「それで、貴方がた人間が、このエルフの里に一体何の用です?」
 鋭い視線で睨み付ける女王に気押されず、トゥールは目を見返した。
「実は、ノアニールの里に寄りました。村の人たちが眠らされています。…貴女達エルフの仕業だと聞きました。」
「ええ、私のしたことです。ですが、それは貴方がたにはなんの関係もないこと。口出しは無用です。」
 拒絶の言葉に、トゥールは首を振った。
「そう言うわけには行きません。貴方は誤解しています。罪のない人々を眠らせて、罪がないと言い張っている。 眠っている人たちを大切に思う人がいる以上、その罪は正さなければいけませんから。」
「私も、娘のアンを大切に思っていました。しかし人間は娘をだまし、エルフの宝を盗ませました。 おそらく娘は夢見るルビーを奪われ、帰れずに、つらい想いをしているのでしょう…。あの 村の者たちは、その人間を育てた者たちです。その罪がないと?」
 冷たい目。エルフは総じて人間離れした美形だった。その美形が冷たくこちらをにらんでいると、 震え上がらない人間はいないだろう。
 …だが、トゥールはその「人間離れした美形」のすぐ側で育った。むしろトゥールはにっこりと 笑って、女王に言葉を返す。
「なぜ、それが分かるのですか?愛し合って幸せにしていると、どうして信じられないのですか? 貴方が生み、育てた娘さんでしょう?」
「お黙りなさい!!」

 女王が叫んだ。その声にあわせて二人の兵士が武器を持ってこちらをにらむ。
「穢れた人間ごときがこの地に入り込み、私にそのような口を聞くなど無礼にも程がありましょう。 その罪、その体をもって償いなさい!」
 女王は、手に持っていた王錫の先を地面に叩きつけようと持ち上げた。
「お待ちください、エルフの女王。」
 トゥールの後ろから現れたのは、サーシャだった。こうして見て見ると、サーシャの人離れした美貌は、 エルフの美貌に決して負けていない。
「お前は…?」
 眉をひそめて見つめる女王に、サーシャはトゥールをかばうように立って告げる。
「貴方もこの者が持つ、青き宝石の冠の意味はご存知でしょう?この者こそ、精霊ルビスに認められ、勇者として 旅だった、神の使者であり代理人。その者の血を流すとおっしゃるのですか?」
「所詮、人間が選定した者。それで神に御意思に従えるとは思っておらぬ。」
「ですが、神がお選びになった、神の意思を代行する者であることには変わりありません。今ここで 勇者を殺めれば、貴方は精霊ルビスに逆らった者と伝えられるでしょう。…その覚悟があるのですか?」
 にらみ合う、サーシャと女王。その迫力に押され、周りの者は何も言えなかった。

「…それで、青き冠を抱くものよ。」
「は、はい!」
 突然声をかけられ、トゥールの心臓が飛びあがる。
「貴方は私に、全ては誤解だと言いに来たのでしょう?何か証拠はあるというのですか?」
 ほとんどため息混じりに、女王はそう言った。
「…いえ、まだありません。ですが、必ず探してきます。もし探してきた時は、 呪いを解いてくださると、約束してくださいますか?」
 トゥールの真摯な言葉に、あざけるように女王は告げる。
「…神の道具に言われては仕方ありません。そのような事をするのは時間の無駄でしょうが、 止めはしません。この里を荒らすような事さえしないのならば、そう約束しましょう。」
「道具って…おい…」
 セイがそう反論しようとするのを、トゥールが腕だけで止める。
「有難うございました。寛大な心遣い、感謝いたします。」
 トゥールはそう頭を下げて、玉座に背を向けた。そして三人を引き連れて、女王の前から立ち去った。


「もし、もし…そこの人…。」
 村を歩くトゥールたちに、老人が声をかけてきた。セイが立ちどまる。
「なんだじーさん?」
「お前さんら。その、ノアニールの村を起こす話を女王としとったんかい?」
「そうですけど…?」
 トゥールが首を傾けると、老人は涙ながらにその手を取った。
「わしからも、頼む。全部わしの息子が悪いんじゃ…。もう、何年も女王に会わせてくれ、 呪いを解いてくれとたのんどるんじゃが…会わせてももらえんでな…頼む…。」
「えっと…アンさんの恋人さんの、お父さん、ですか?」
 トゥールがそう言うと、老人は頷いた。
「わしが頭ごなしに反対したら、息子は村を出て行ってしもうた…。わしが、エルフと 結婚するなんぞ許さんと言うたから…息子はだまして宝を奪うような人間ではないのじゃ…」
「その宝がどこにあるかは、ご存じないですか?」
 トゥールの呼びかけに、老人は首を振る。
「知っとったら、とっくに持ち出しとる…」
「じーさん、息子がよく行ってた場所、知ってるか?村とここ以外で。」
 セイがそう聞くと、老人はしばらく首をひねる。そうして答えた。
「…息子の友人が…エルフとの逢引きは西の洞窟でしとったと言っておった…それぐらいじゃ。しかし そこにあると?今はあそこには、モンスターがたくさんおるんじゃぞ?入れたもんじゃない。」
「物を隠す時は、自分のよく知っている場所に。常套手段だぜ。それに今はモンスターで入れたものじゃない、 つまり今まで見つからなかったら理由にもなるってことだ。」
 ぱちぱちぱちと、リュシアが顔を赤くして拍手した。トゥールも笑顔で頷いた。
「よし、行ってみよう。それが見つかったら、女王様も分かってくれるかもしれない。」
「どうぞ、たのみますじゃ…。」
 老人がぺこりと頭をさげた。


 深き緑から抜け出すために、四人は歩く。
「…サーシャ、しゃべらない。大丈夫?」
 サーシャは先ほどから放心状態で、黙り込んでいた。
「え、あ、ああ…あのエルフの女王があんまりに、失礼だったから…ほら、アリアハンの王様は 気さくな方だったし、ロマリアの王様は変な人だったでしょ?だから…。」
 はっと我に帰ったサーシャが、手を振ってそう笑う。
「それにしても意外だったな、サーシャがトゥールを勇者だと言うなんてなぁ。」
「うん、僕もちょっと驚いた。でも、かばってくれてありがとう。」
 セイとトゥールの言葉に、頬を膨らませて憮然と言葉を返した。
「あれは、仕方ないじゃない。ああ言わないと私たちが危なかったんだから。私自身が認めたわけじゃないわよ。」


前へ 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送