トゥールはとっさに身をひねる。そのわき腹からは血が吹き出た。
「トゥール!!」
「サーシャ?おま、お前?!」
 あまりの行動に、二人がパニックになる。だが、不思議な事にそれ以上にサーシャは動揺した 様子で言葉にならない声をあげる。
「あ…あああ…ああああああ…」
「く…くく…ぐ…」
 トゥールは脂汗を流しながら、傷口に手を添えて、回復魔法を唱え始める。サーシャは我に返って その手を跳ね除け、自分で回復魔法を唱えて治療を始めた。
 トゥールがとっさに避けたおかげだろう。傷は出血から想像されるほど深くはなかった。それでも、回復に かなりの時間を要したし、なによりサーシャの剣は、明らかに致命傷を狙っていた。
「…もう、大丈夫。ありがとう、サーシャ…」
 脂汗も引き、トゥールはいたわるようにサーシャに呼びかけた。サーシャは 傷がふさがった事を確認すると、気まずげにトゥールから離れ、うつむいた。

「…………」
 リュシアは何か言いたげにしているが、何を言えばいいか分からない様子で、トゥールと サーシャを見比べている。
 それはセイも一緒だったが、それでも思い切って口にする。
「どういうことなんだ?サーシャ?なんでそんなこと…」
「……ごめんなさい……」
 サーシャは何も言わず、ただ力なくそう言う。なお問いただそうとするセイを止めたのは、 トゥール自身だった。
「いいよ、セイ。サーシャ、僕の方こそごめん。」
 サーシャは首を振る。セイは目を丸くする。
「いいって、なんで…」
「いいんだ、セイ。刺された本人がそう言ってるんだし。サーシャも もう気にしないで。もうちょっと休んだらカンダタを追わなきゃ。」
 トゥールの言っている事が理解できず、セイは目を丸くする。リュシアに顔を向けると少し 納得がいかないまでも、トゥールがそう言うならいいと思ったのだろう。トゥールに近寄って 汗と血を拭き始めた。
 トゥールはおとなしく拭かれながら、トゥールに呼びかける。
「ところでセイ、もしかして落とし穴がある事、知ってた?」
「あ…ああ。まぁな。何度かここで仕事したこともあるし。」
 今だ動揺が取れないセイに、トゥールはすねたように口を尖らす。すっかり 普通に戻っていた。
「教えてくれたら良かったのに。」
「聞かれもしないのに、ぺらぺらと内部の仕組みを話すようじゃ、フリーとしてやっていけるかよ。 それが仁義ってもんだ。さすがに死にいたるような罠ならさりげなく誘導するけどな。」
「…そっか。それは仕方ないか。…じゃあ、セイ。今カンダタがどこにいる?」
 あっさりと納得するトゥール。セイは笑った。
「さーな。…まぁ、大サービスだ。多分、まだこの塔にいると思うぜ?」
「じゃあ、急いで追わないとね。行こう!」
 まだ揺れる頭を押さえながら、トゥールは立ち上がった。


 近くにある階段を登ると、カンダタたちは消えていた。
「…多分、塔の構造からして、ここへの階段はここ一つだと思うんだけど…」
 どうやら立ち直ったのか、サーシャはそう言いながら周りを見渡す。
「……ここ、変。」
 同じく周りを見渡していたリュシアが、一点を指差す。指された所を良く見ると、壁の飾りが一点だけ汚れていた。
「本当だ、リュシア、ありがとう。皆寄って!気を付けてね。」
 四人が近くに寄ると、トゥールが壁の飾りを押す。するとまたしても床が開いた。今度は落とし穴ではなく、 滑り台状になっていた。四人はそのまま下の階に滑り降りた。


 降りたところからしばらく行くと、カンダタとその子分たちがいた。手にはきらびやかな王冠があった。
「しつこいな、勇者さんよ。そんなにこれが欲しいか?」
「欲しいんじゃなくて、元の持ち主に返したいだけだよ。そっちこそ、なんでこんなところにいるんだ? とっとと逃げればいいのに。」
 トゥールがそう問いかけると、カンダタが笑う。
「まぁ、こんなもの城でふんぞり返ってるロマリア王を馬鹿にできたら良かっただけで、 別に欲しかったわけじゃねぇからな。白刃に敬意を表して持ってきてやったんだよ。」
「じゃあ、返してくれるのか?」
 トゥール笑ってがそう言うと、カンダタがにやりと笑う。
「ああ、返してやるぜ。…俺等に勝てたらな!!」
 カンダタのその言葉と同時に、三人の部下がトゥールたちめがけて切りかかってきた。


 戦闘に力を入れようと思ったら入らなかったので次回に。
 モンスターを出そうか悩んだ結果、さっくり削除しました。なんで盗賊のアジトにモンスターが 出るんだ…盗賊たち、どうやって生活してるんでしょうね…?

 ただでさえ人気がないサーシャに止めを刺すような話でした、今回(笑)謎めいた女という事で、 ご期待ください…

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