ジャガイモのポタージュを飲み終えて、トゥールはセイを見た。 「それじゃ、セイはアッサラームに行った事があるの?」 「あそこは良いところだぜ。商人が作り上げた町で活気があるからな。 人の交流も豊富だし、ここより賑やかかもな。まぁ、あんまり治安は良くないが。」 セイは魚が入った味付けパンをかじって、牛乳で飲み込んだ。 宿屋の食堂は、夕飯の活気でにぎわっている。ここより活気があるところなど、アリアハン出身の 三人には想像もつかない。 それでもなんとか想像しながら、サーシャはデザートのイチゴプリンを喉に通した。 「地図を見ると、ロマリアとイシスの宿場町として栄えたみたいね。セイはイシスにも行ったの?」 「いや、俺、暑いの苦手だから行ってねぇよ。あそこは盗品でもなんでも売りさばける。 逆に油断すると商人にぼったくられる町だしな。」 「ぼったくる…ギーツみたいな商人が他にもいるのね。」 そんなサーシャの横で、リュシアが飾り付けられたプリンのイチゴをそっとフォークで 指す。 「…怖い所…。」 「まぁ昼なら大丈夫だろ。昼と夜とじゃ、がらっと顔が違うからな。」 軽い調子で付け合せのパスタをすするセイの横で、サーシャはリュシアに微笑みかける。 「大丈夫よ、リュシアはトゥールに守ってもらえばいいのよ。」 「うん、一緒にいるから平気だよ。だから怖いかもしれないけど一緒に行こうね?」 同意したトゥールに、リュシアは輝く笑顔で頷いた。 「あれ、珍しいね。」 月も中天にかかる頃。トゥールは部屋に戻る途中、セイにばったりと出くわした。 「お前こそ珍しいな。どっか行ってたのか?」 「ちょっと買い忘れた物があったから。さすがに城下町だけあって、夜でもお店、開いてるんだね。」 そう言って買ってきた油を見せる。カザーブではうまく買い物ができなかったのだ。 「ふーん、せっかくだから付き合うか?」 セイが連れてきたのは、先ほどまで夕食を食べていた宿屋の食堂だった。夜は酒も出すらしい。 「酒場もいいけど、ここなら落ち着いて飲めるからな。…トゥール、お前飲めるのか?」 「…飲んだ事ないな。アリアハンは16になるまで飲めないから。」 トゥールが持っているコップの中に入っているのは、ごくごく軽いお酒だった。女性用と言ってもいい軽いものだった。 対してセイは、琥珀色の美しいお酒だった。向かいにいても、酒の匂いが漂ってくる。 「そういや言ってたな。俺なんか子供の頃から飲んでたけどな。」 「ルイーダさんが厳しかったからね。日が沈むと、子供は酒場に入れてくれなかったし。」 初めての酒を、ちびりと飲んでみる。甘みと、ほのかな苦味が大人の感触をもたらした。 「そうなのか?リュシアはどうしてたんだ?」 「子供の頃は僕の家に泊まってたよ。最近になってから、ようやく宵の口は手伝ってもいいって 言ってもらえて、リュシアも嬉しそうだった。」 トゥールはそう言って、思い切ってぐびりとコッブを傾ける。ほのかな浮遊感がなんとも気持ちが良かった。 「サーシャもか?」 セイはまったく酔った様子もなく、二杯目をコップに注ぐ。 「サーシャはうちに泊まる事はあんまりなかったけど、でもいつも一緒にいたな。三人とも片親がいないから 家同士助け合って来たから…。」 「ああ、なんかそんなこと聞いた気がするな。」 あれはいつだったかと、酒を喉に注ぎながら考える。その横で、トゥールは胡乱な口調でつぶやいた。 「うん、三人で遊ぶだけじゃなくて、礼拝してる間はリュシアと二人で居たり、逆にリュシアが魔法の勉強している間、 サーシャと二人で遊ぶ事もあったよ。いつも、一緒だったから…。それが、聞きたかった?」 最後が突然、鮮明な口調になる。セイは驚いてトゥールを見返した。 トゥールの頬は少し赤くなり、ほろ酔い、と言ったところだろう。また 再びふわふわとした怪しげな口調に戻って続ける。 「サーシャのこと、聞きたいのかなって。セイ、 なんかずいぶんすごい人だったみたいだけど、サーシャの事好きだから一緒に来てくれたんだよね?」 「…まぁ、あれだけいい女はそういないぜ。容姿もそうだが、あの強気な態度も俺の好みだ。」 セイの心臓の鼓動が激しい。一瞬、全てを見抜かれたような気がしたのだ。 なぜ、サーシャはあれほどトゥールに対してだけかたくななのか。どうして、トゥールを刺したのか。 自分で刺しておきながらどうしてあんなに、怯えていたのか…。 そしてなぜ、トゥールはそれを許したのか。それが、ずっと気になっていたのだ。 それでも、他人の事情に口出しするのは、基本的に自分の性分から外れている。だからセイは何も 言う気はなかった。 「まぁ、サーシャは手ごわそうだから、気長にやるさ。お前等といると暇はつぶせそうだしな。特に やることもねえし。」 「そっか…ありがとう。嫌がってたのに、カンダタの所まで着いて来てくれて…。」 トゥールの目がうつろになってきている。どうやら酒が回ってきたらしい。セイは頭をかきむしって、 トゥールを椅子から立たせた。 「お前、酒弱いなぁ…」 「初めてなんだから仕方ないじゃないか…。昼間は疲れたし…。」 そう言いながら、トゥールの肩にもたれかかりうとうととし始める。セイはため息をつきながらトゥールの肩を 背負い、歩き始めた。 「しゃーねーな…くそ俺が男にこんなことしてやるなんて、めったにないからな。感謝しろよ。」 「…ありがとう、セイ、いい奴だね。」 臆面もなく言い放つトゥールに、セイはため息をついた。 「お前なんだって、俺にそんなに着いてきて欲しがるんだ?」 「……セイが、新鮮だからかな。」 「あ?」 意味が分からずに聞き返すが、トゥールはどうやら寝入ってしまったらしい。セイは舌打ちをして トゥールをベッドに押し込んだ。 この時点で毒蛾の粉って手に入らないよ、という突っ込みはなしでお願いします。 バトルシーン、力入れたのですが…難しいです。また課題にさせていただきます…なにせ そもそも格闘漫画も実際の格闘も格闘ゲームもあまり興味がない人間なので、迫力に 欠けますね。いやいや、難しいです。 ちょっと王様も体験させてみたかったんですけどね。主人公が王様を体験できる、 というのは3と5だけですね。2は王様になった時点で終わっちゃいますし。結構 貴重かもしれません。 |
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