「どうしたの?リュシア?」
「ここ、嫌…怖い…ここ、すごく嫌なの…出たい…。」
 リュシアは体を押さえて震えている。はっと周りを見渡すと、そこは光のない闇だった。
「大丈夫、リュシア。ここは暗いけど、僕がちゃんといるから。」
 いつものように、そっと励ますが、リュシアは体を押さえたまま、頭を振る。
「違うの!!ここ、リュシアにいるなって言ってる…入ってくるなって…ここ嫌…出よう…」
 こんなリュシアは珍しかった。子供の頃は寂しがって泣いた事あったが、今となっては リュシアは多少の事は押さえ込んでしまう性質なのだ。
「リュシア?どうしたの?」
 心配そうにサーシャが声をかける。セイも不思議そうに見ている。
「なんだかすごく怖いみたい。悪いんだけど、僕達一旦呪文で外に出るよ。そっちも外に向かってくれる?」
「了解した。モンスターに気を付けろよ。」
 セイの言葉に、トゥールはリュシアを安心させるように肩に手を置いて呪文を唱える。
「リレミト!……?」
 見渡すが、風景は変わらない。リュシアも不思議そうにトゥールを見ている。
「…僕、呪文間違えた?」
 リュシアは首を振る。上からセイの声が響いた。
「どうしたー?」
「…呪文が効かないんだ。ちょっと待って、もう一度…」
 そう言っている間に、リュシアが呪文を唱え始める。歌うような声が闇に響く。
「リレミト……ダメ…魔法が無理…」
 不安そうに言うリュシア。そのとたん、ぐしゃりと音が響いた。
「…サーシャ、お前、せっかく助けたのに…」
 上でセイが嘆いている。サーシャが迷わず落とし穴に飛び込んだのだ。
「馬鹿トゥールの呪文ならともかく、リュシアの呪文が使えないって事は…多分ここは魔法が使えない場所なのよ。 二人じゃ危ないわ。…リュシア、大丈夫。私もいるから。すぐ外に出られるわ。」
 そう言って、サーシャはリュシアを抱きしめた。その横からぐしゃりと言う音。
「…しゃーねーな…とっととこの場所から出ようぜ。」
 少し照れたように、セイがそう言って促した。


「これで、15匹目…ったく、うじゃうじゃと…」
 肩で息をしながら、セイはナイフについた体液をふき取った。
 地下のフロアはとにかく広かった。その上、ミイラ系のモンスターがこれでもかとばかりに溢れていた。そして何より。
「…ごめんなさい…」
 リュシアがまったく戦力にならないのだ。

 リュシアだけが何故か、この地下に対して異常なまでに恐怖心を抱いているのだ。 戦闘が起こっても、戦う泣きそうな目でそれをこらえることしかできないようだった。
 それに仮に叩いたところでミイラ系のモンスターには痛覚がないらしく、多少叩いてもまったく意に介さない。 リュシアが杖で叩いた程度では、どうにもならないことは目に見えていた。
「リュシアのせいじゃないわ。私も呪文が使えないもの。薬草がなくなる前にここを出ないと。ね?」
「そうだよ、リュシア。落ちたのは元々僕のせいだし。」
 二人に慰められてこくんと頷くが、それでも落ち込んだままだった。
「おーい、階段だぞ。」
 セイが指差す先に、上階へあがる階段があった。
「…良かった。リュシア、もうちょっとだよ。頑張って。」
 リュシアがこくんと頷く。四人がそうして、階段へと歩き始め、気が緩んだその時だった。

 骨が爆ぜる音がした。セイが、床の骨を撒き散らしながら転がっていく。
「つぅ…何しやがる…」
 セイは後頭部を押さえながら起き上がる。後ろからはミイラ男が手を振り上げていた。
「い…たいわね…!」
 サーシャの右肩にはマミーの手。力いっぱい握られているようだった。 左手に槍を握り換え、力いっぱいマミーを殴った。その横からトゥールが腕を切りつける。
 腐っていたその手はあっさりと切れるが、マミーは意に介さずサーシャに襲いかかる。 それを真正面からサーシャが槍で突き刺した。

 セイは、鞭でミイラ男の首を締め上げる。これが効果がないことくらいはわかっていた。 だが、動きを止めている間に、トゥールの助けを待つつもりで、締め上げながらナイフでミイラ男の胸元を突き刺す。
 ミイラ男の首が、ぼろりと取れた。そしてそのままミイラ男は、すぐ横でおびえていたリュシアに襲いかかった。

「リュシア!」
 セイが声を上げ、鞭を絡めようと構えるが、もう遅い。ミイラ男はリュシアに飛びかかり、押さえ込んだ。 押し倒される形になったリュシアの下で、骨が砕ける音がする。
「リュシアぁ!」
 そのミイラ男を切り裂こうとトゥールがかけよるが、トゥールがたどり着く前に、ミイラ男の腕がくたりと 床に落ちた。
「…リュシア?」
 セイがおそるおそる近寄り、ミイラ男を引き離す。ミイラ男はそのまま灰へと変わって行った。
「…重かった…」
 リュシアの手には毒針があった。どうやら急所を突いたらしい。
「リュシア?」
「リュシア大丈夫?」
 トゥールとサーシャが近寄る。リュシアは振るえながらも小さく頷いた。どうやら怪我はないようだった。
「…敵、逃がして悪かったな。お前、よくやったよ。」
 セイが手を差し伸べる。リュシアはその手を少し不思議そうに見て、 それからいまだ震える手でその手を取って起き上がった。


 階段から上にあがったとたん、すっと気が軽くなったのをリュシアは感じた。
「…平気。怖くない。」
 リュシアの言葉に、サーシャが小さく呪文を唱える。セイの傷が見る見る消えていった。
「魔法…効くわね…あの地下だけの仕組みなのかしら?」
「とりあえずもう落ちないようにしようぜ。俺、先頭歩くからな。」
「うん、お願いするよ。僕達はセイの後ろを歩くようにするから。」
 トゥールの言葉に、セイが頷いた。


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