終わらないお伽話を
 〜 fairy story 〜



”その織り機は、なぜか妹以外には動かすことができませんでした。
 そして妹がその織り機を使うと、金や銀、炎や光さえも、その織り機にかければ不思議と美しい布へと変わるのです。

 それ以来、たくさんの人が妹に布を織るように頼みに来るようになり、その布は本当に 高く売れたので、家はとてもお金持ちになりました。
 家族は妹に毎日休むことなく布を織らせ、そのお金で働かずに暮らせるようになりました。”



 兵士はうやうやしく礼をした。
「どうぞ行ってらっしゃいませ。」
 ロマリアから北に、ポルトガへの関所はある。おそらくセイの盗賊の匂いを 嗅ぎ取ってだろう、トゥールたちを見るなり怪しげに見張りの兵士はこちらをにらんだ。
 それがトゥールが魔法の鍵で関所の扉を開けたとたん、いきなり態度が変わったのだ。
「ここから先は、貿易と造船の国ポルトガ。どうぞ良い旅を…」
 扉をくぐったトゥールたちに、そう声がかかる。
「…ずいぶんとすごい鍵なのね、これ…。」
「まぁ、そういうことだろうな。俺も良く知らないが。」
 魔法の鍵をまじまじと見ながら、セイとサーシャはなにやら感心している。
 関所とは言え、実際は川を越えて行かなければならないポルトガへの地下道で、通る人がいないため、 ずいぶんと荒れ果てている。
 サーシャはそれを見回して、セイに疑問を投げかけた。
「けどどうして魔法の鍵で閉鎖しているの?これでは旅人が通れないじゃない。」
「ロマリアとポルトガは、昔から仲が悪いんだよ。」
 答えたのはトゥールだった。サーシャは目を見張る。
「えーっと、元々ロマリアは歴史のある国で、ポルトガは貿易で発展した国。元々あんまり仲良くなかったんだけど… 昔、あるロマリアのお姫様が、ポルトガ王の元へ駆け落ちしちゃってから仲が悪くなったんだよ。そうして ロマリアが関所で道を封印して、大陸を自由に行き来できなくした。」
「良く知ってるな。」
 セイは目を丸くする。どちらかというと、トゥールは世間知らずだと認識していたのだ。
「でもポルトガは造船の国だから、気にせず船で他の国へと親交を深めた。で、それに 対抗するようにロマリア王もアリアハンと仲よくして…今にいたるんだって。一応勉強したんだよ、 ロマリアには必ず行くと思ったから。他の国の事はあんまり詳しくないけど。」
「…トゥール、すごい。」
 少しうっとりするように、リュシアはトゥールを見つめる。
「家にたくさん本があったし、お城の人もたくさん読ませてくれたから。」
 そう言いながら、トゥールはポルトガに通じる関所の扉を開ける。
 潮の匂いと、若干のぶどう酒の匂い。…その国の人間が感じる事のない、『ポルトガ』の匂いだった。


「大きな船がたくさんあるわね…」
 ポルトガの城下町は港町。沢山の船が並ぶ大きな港と、その横では盛んに船が造られていた。
「ここは少人数用から、大人数用の豪華客船まで幅広く造られてるからな。トゥールたちが狙うなら 少人数で動かせる魔法船だろうな。」
 トゥールは財布を覗きこむ。
「うーん、お金、足りたらいいけど…とりあえず造ってるところに行ってみよう。」

 造船所に入ったとたん、周りがざわめいた。サーシャの方をちらちらと見ている様子だった。
 それに慣れているサーシャは、そのあたりの男性に声をかける。
「あの…ちょっとよろしいでしょうか?」
「なんだい?」
 サーシャの呼びかけに、その当たりにいた男性が全て顔をほころばせて集まってくる。
「旅の者なのですけれど…少人数で世界を旅することができる船をお造りになっているとお聞きしたのですが… それを購入する事はできます?」
 サーシャの話を聞いたとたん、男達は苦虫をかみ締めたような顔をした。
「あー、ダメなんだよ。今はよその人間に船を売るのには、王様の許可が必要になってね…。申し訳ないな…。」
「なんとかならないかな…こんな美人の言うことだ。王様の許可なんて無視してさ。」
「俺たちがプレゼントするって言う形式って言うのはどうだい?」
 ざわざわと男たちが相談している。そのうちの一人が大声を上げた。
「親方!なんとかなりませんかね?」
 そう呼びかけられた男は、こちらに申し分けなさそうに頭を下げてきた。
「なんとかしてあげたいけど…最近そのあたり厳しくなってね…こちらも商売あがったりで困ってるんだが、 逆らうと後が怖くてね…。一応許可申請なら城で出せるから、やってみたらどうだい?」
「ありがとうございます。皆様に無理はさせられませんから、ちゃんと正式な手続きを取ってきます。」
 にっこりとサーシャが微笑むと、男全員が頬を赤らめたが、その後絶望したような顔に変わる。
「…なんか変だな。許可取ったら買えるんだろう?なんだってそんな顔するんだよ?」
 セイの言葉にトゥールも頷く。男達は気まずそうに顔を背ける。
「いや…その…」
「何か事情があるんですか?」
 そう問いかけたトゥールの後ろから、サーシャがいたわりの表情で男達に呼びかける。
「決して他言いたしませんから、どうか教えてくれませんか?許可を取りに行くにあたって、参考に なると思うから…」
 男達はその言葉に、我先にと不満を口にした。

「それが、今の王様はちょっと横暴でね。」
「横暴と言うより阿呆なんだよ。大体今までは自由にさせてくれた船の売買に許可がいるなんて馬鹿げた話だ。」
「ポルトガ産の船を操る以上、しっかりと人柄を見極めるなんて…俺たちにそれが分からないとでも思ってるのか?」
「それもこれも、全部自分が一人で国を回してるつもりで居たいからなんだぜ。」
「実際は何もできないわがまま王なのにな。」
 どうやら不満は相当に溜まっていたらしい。サーシャはそれを一つ一つ丁寧に聞きながら頷く。
「そうですか…それは大変ですね。皆様船造りに誇りを持っているんですね。」
 サーシャにそう言われてにっこりと微笑まれると、男達も心が和んだらしい。一気に幸せな顔に変わる。親方と 呼ばれていた男が、それを代弁するかのように、照れながら不満を閉めた。
「まぁ、それに税金がいらないだけましなのかもしれないな。許可申請するのにはそれほど時間がいらない。ただ…その 許可が取れるのにずいぶん長い時間がかかることがあるんだ。王様の気分しだいでな…それがちっと困ってるんだが… あんた達が運良くすばやく許可が取れる事を祈っているよ。」


 すっかりサーシャのファンになった職人たちに盛大に見送られながら、トゥールたちは城へと向かった。
「あはは、なんだか久々にサーシャが仕事をしているのを見た気分だよ。」
 トゥールの言葉に、サーシャも微笑む。
「そうね。旅に出てからは、人の悩みを癒す仕事をしていない気がするわね。それこそが僧侶の 一番の仕事ですもの。皆の心が少しでも軽くなっていればいいのだけれど。」
「サーシャ、幸せそう。よかった。」
「ありがとう。…無事に船の許可がもらえるといいわね。」
 サーシャは目の前の重々しい雰囲気の城を見ながら、そうつぶやいた。


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