「…まぁ、これなら間違いなく、他国に気がつかれないよな…」
 今まで数々の罠を潜り抜けてきたセイが、そのあまりの無茶苦茶さに少し呆れながらも少し感心しているようだった。
「同じ王家の隠し通路でも、イシスとはずいぶん違うわね。」
「…そう言われると、魔法の玉で通路を封印していたのを思いだすんだけどね…」
「びっくりした。」
 そんなたわいない会話の最中に、サーシャが声をあげる。
「あ…そう言えば、バハラタってダーマが近かったんじゃない?」
 その言葉にトゥールが世界地図を広げ、頷いた。
「うん、河が途中にあるけど、橋がかかってると思う。歩いていけるよ。」
「お願い…寄っては駄目?」
 真摯なサーシャの言葉に、トゥールは快く頷いた。
「うん、じゃあ黒こしょう手に入れたら、帰りに寄ろう。いいかな?セイ、リュシア?」
 リュシアは小さく頷く。セイは地図を上から覗きこみながら同じく頷いた。
「ああ、いいんじゃねぇの?この距離ならけっこう近いしな。ところで、賢者って悟りの書とかが いるんじゃねぇの?持ってるのか?」
「…持っていないわ。けれど確か近くの場所で、代々ダーマで管理している悟りの 書が手に入るはずよ。それからそれを読み解くことになるはずだから…ちょっと時間がかかりそうなの。…ごめんなさい。」
「いいよ、サーシャのずっと前からの夢だしね。」
 トゥールの言葉に、サーシャの顔が洞窟を照らさんばかりに輝いた。
「ありがとう!トゥール!リュシア!セイ!」

 これほど本当に嬉しそうなサーシャは、初めて見るような気がして、セイは少し笑う。
「ところで、賢者ってあれだろ?魔法使いと僧侶の呪文の両方が使えるやつだろ?」
「簡単に言えばそうね。本来人には精霊の呪文か、神の呪文かどちらかしか許されて居ないの。 それが人の領域だから。けれど、英知を求め試練をくぐり…そして悟りを開くことで神と精霊を 認めさせることができれば、その双方に干渉することができるのよ。」
 すらすらと言うサーシャ。それほど勉強したのだろう。
「悟りを開くねぇ…その悟りの書ってのがあれば、開けるのか?」
「誰にでもできることじゃないわ。悟りの書を見ても、神と精霊を認めさせることができなければ… 賢者となることはできないから。何年もかかる人もいるし…ここ何十年の中で賢者となったのは、…なることは できたのは母さんだけ。ほとんど伝説の職業ね。」
 そのことを考えると恐ろしいのだろう。サーシャは自分を包むように抱きしめる。トゥールはそれを優しい目で見つめた。
「サーシャならきっと大丈夫だよ。ずっと頑張ってきたんだから。」
「というかよ、母親に聞かなかったのか?コツとか。」
 セイの言葉にサーシャは首を振る。
「決して、他の人に悟りの書の内容をもらしてはいけないの。そうした以上、聞いた相手は賢者になる資格を 失ってしまうと言われているわ。他人から聞いた内容で、神も精霊も納得させることはできないから。」
「やっかいなもんだな…っと、出口だぜ。」
 セイが指し示す先に、小さな灯りが見えた。


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