後ろを見ると、確かに高い山脈がそびえていた。これを抜けてきたのだと思うと、妙に感慨深いものがある。
 洞窟が隠されていた山を降り、町につく頃には、バハラタの象徴の大きな聖なる河が、赤く光っていた。
 バハラタの河は聖なる河。その清き流れは人々に幸福と癒しを求めると言われている。
「綺麗ね…それにここは神に近き場所と言われているだけあって、教会も立派だわ。」
 サーシャが町についたとたん、感心したようにつぶやく。町の入り口にあった教会はたしかに 大きく、立派なステンドグラスが大地を色鮮やかに染めていた。そんな中、トゥールは町を見渡す。

「黒こしょうってどこで売ってるんだろう?やっぱり道具屋かな?」
「いや、香辛料専門店があるんじゃねぇ?探せばすぐ分かるだろ。」
 セイの言葉に、リュシアは首をかしげる。
「…コウシンリョウ?」

 ダーマに向かう途中の旅人や、巡礼に来る人間などが訪れるためだろう。旅人用の屋台がごった返している中、 四人は黒こしょうを求めて町を歩いた。
 そして、そのこしょう屋は町のはずれ、大きな河の裏手にあった。おそらく民衆が利用するのだろう。派手な 装飾もなく、ごく普通の店だった。
「…黒こしょうって聞いたこともないけど…ここでは当たり前に食べられているのね…。」
「そういえば、こしょうって結局なんなんだろ?」
 セイは目を見張る。
「…知らないで言ってたのかよ?こしょうって…あー、塩や砂糖みたいに料理に使ったりするやつだ。 ちょっと辛くて匂いがいいんだ。肉料理とかに使ったりする。元気が出るとか言って、そのまま食う奴もいるな。」
「へぇ…そうなんだ。高いのかな?」
「いや、こっちじゃそう珍しくもない植物だ。大丈夫だろ。船に比べりゃ安いもんだ。」
 そうしてたどり着いたこしょう屋には、人はいなかった。


「…もう閉まってしまったのかしら?」
 サーシャがそう言いながらノックしてみる。だが、返事はない。鍵もかかっているようだった。 セイは髪を上げてため息をついた。
「ついてないな。休みかよ。」
「そういうこともあるよ。…もう夕方だし、今日がたまたまお休みだったのかもしれないし。今日は 宿をとって、明日朝に来よう。」
 トゥールの言葉に、リュシアが頷く。サーシャも少しため息をついた。
「明日朝一番にダーマへ!って意気込んでたから、ちょっと気が抜けちゃったわ。でも、こんなことも あるわよね。…せっかくだから、清き河の流れを見ていきたいわ。」
「そうだね。まだ時間もあるし。」
 そうして、四人はそのまま店の裏手に回る。夕日に照らされた水面がきらきらと輝く。
「もう我慢で来ません!!」
 そこに、声が響いた。
「グプタ!堪えなされ!わしらには何もできん!」
「そんなことはありません!僕はタニアの恋人です!」
「しかしおまえさんでは、悪党には勝てん…確かにタニアはわしの可愛い孫娘じゃ。だが、 グプタ、おぬしの事も店を任せたいと思うほど大事に思っておったんじゃ!」
 聞くとはなしに聞こえてしまった若者と老人の修羅場に、思わず四人は目を丸くする。
「待つって、いつまで待てばいいんですか?!そんなことをしているうちにタニアは…タニアは 盗賊の根城にさらわれてしまったんですよ?ああ、こうしている間にもどんなひどい目に…」
「…さらった?盗賊が?…女をか?」
 セイが思わず声をあげる。老人がそれを聞きとめた。
「お前さんら、旅の人か?ただの巡礼者には見えんな。強そうじゃ…。どうじゃ、わしの頼みを 聞いてくれんか?わしはそこの黒こしょう屋の隠居じゃが…」
 老人がそう話し始めた時だった。横に居た男が声を上げる。
「僕が行きます!見ず知らずの旅の人に頼むなんて、そんなことできません!待っててください、必ず タニアを助け出します!!」
 男はそう言うと、そのまま装備も整えず、町の外へと飛び出して行った。
「…グプタ…ここから北東にある洞窟がひとさらいの盗賊の 根城になっておって…孫娘のタニアがさらわれてしもうた…さっきのグプタはタニアの婚約者じゃ。 気はいいのじゃが、ただの商人で腕っ節はからっきしなんじゃ…」
 老人はそうつぶやく。そんな老人に、セイは、ぽんと肩を叩く。次のセイの言葉に、トゥールたち 三人は目を丸くした。
「わかった。俺が行ってやるよ。」


 バハラタ編です。アリアハンにもこしょうってないと思うんですよね…あるなら実家に取りに いけばいいわけですし。塩と砂糖はさすがにあると思うのですが…こしょう大好きな私には つらい話だ。
 次回は一気に対戦まで行けたらいいな、と思っております。再戦、頑張ります。



前へ 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送