船はゆっくりと南へ進んでいる。
「良かった、ちゃんとできたみたいだ。」
 トゥールがほっとしている。三人が横から覗きこんだ。
「ああ、後で簡単に教えてくれ。ちょっとやったことあるけど、最新型だしな。」
「リュシア、やったことないけど…できる?」
「覚えられたらいいけど。トゥール一人にまかせておくわけにもいかないしね。」
「大丈夫だよ、簡単だし…ほら、ついた。」
 教わった通りにトゥールが操舵輪を持ち、ゆっくりと灯台の入り口へと船をつけた。


 高くそび立つ塔に、赤々と火がともっている。そして、屋上には大きなともし火が海を照らしていた。
「ん?客か?」
 その横に座っていた男が、顔をあげる。
「あの、ポルトガの親方さんが、貴方なら色々教えてくれるって言ってくださったんですけど…」
「ったくあいつはおせっかいだよな。俺がいつも暇してるからってよぉ…。あんたら、どこ行くんだ?」
 男が苦笑する。トゥールは答える。
「とりあえずダーマに向かうつもりです。世界地図を持ってるので、たどり着けるとは思うんですけど…。そのあとは… ちょっと探し物をしているんです。」
 魔王のことを口に出すわけにはいかないトゥールが、そう言葉を濁した。
「へぇ、そいつはすげぇな。まぁ気を付けな。いくら魔法補助で自動操縦できるって言っても、海の上じゃ風と潮、そして空が 命だ。昔の船乗りは、そんなもんなくて、腕一本で操ったもんだ。」
「はい。」
 トゥールが素直に頷くと、男は思いだしたように、空を見上げた。
「そういや、こんな伝説があったな…。世界に散らばる6つのオーブを手に入れた者は船を必要としなくなるって…。」
「オーブってなんだ?」
 セイが身を乗り出す。男は笑う。
「いやぁ、伝説だからよくは知らねぇよ。」
「…オーブを探しなさい、トゥール。」
 涼やかな声がした。トゥールは振り返る。


「…サーシャ?」
 目の前にいるのは、確かにサーシャだった。青い髪が風になびいて、女神のように 美しい。だが、その目は、その口調は、決してサーシャのものではありえなかった。
 横にいるリュシアが、心配そうにサーシャを見ている。だがサーシャはじっとトゥールを見つめ、荘厳な声でこう告げた。
「安らぎの緑。活力の赤。勇気の青。知力の黄。歴史の銀。自信の紫。すべて揃いし時、新たな道が開けるでしょう…」
「サーシャ?どうした?」
 セイが焦って声をかけるが、サーシャはそのまま脱力して、床に座り込んだ。


 倒れこもうとするサーシャをリュシアが支える。
「…サーシャ?大丈夫?」
「突然どうしたんだ?」
「サーシャ、変だよ?」
 トゥールとセイがサーシャの元へと駆けよる。横で見ていた男は目をまるくしていた。
 サーシャが突然顔をあげる。その顔は、いつもの顔だった。
「…ん?なぁに?どうしたの?」
 サーシャが目を丸くしている。焦っているトゥールたちの様子に驚いている様子だった。
「ど、どうしたのって…いきなりサーシャ、どうしたのさ?」
「どうしたのって…何が…?いやだ私、どうして座り込んで居るのかしら?立ちくらみ?ごめんなさい、心配を かけたみたいね。」
 きょろきょろと周りを見渡して謝るサーシャ。セイはサーシャの目の前で手をひらひらさせた。
「…大丈夫かよ?」
「サーシャ、オーブのこと、言ってた。」
 リュシアの言葉に、サーシャは首をかしげる。
「オーブってなんなのかしらね?船を必要としなくなるってどういう意味かしら?」
「…本気かよ!?本気で知らないって言うのかよ?」
「どうしたのよ、セイ。知らないわよ、オーブなんて。」
 サーシャはどうやら本気で言っているようだった。トゥールは少し考えた後、男に一礼をした。
「ありがとうございました。…とにかく、一度船に戻ろう。サーシャ、体の具合は大丈夫なんだよね?」
「ええ、熱気に当てられたのかしら。ごめんね、心配かけて。」
「じゃあ、船でゆっくり説明するよ。」
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