” 仕方なく姉は妹に自分のドレスを織るようにと言いました。妹は「自分で織らなければならない」と 言いましたが、姉にはそんなことは聞こえません。 王子にはわからないといい、無理やり妹に泉の水で美しいドレスを織らせました。 そして王子様が花嫁を選びに来る日、それを自分が着込み、出かけていきました。” 鮮やかな血が、空中を踊る。 「トゥール!」 リュシアの叫び声。リュシアには何があったかはわからなかった。 ただ、トゥールが血を流しながら、サーシャとゆっくりと落ちていくのが見えただけだった。 「トゥール!トゥール!」 リュシアが叫びながら、トゥールの元へと走ろうとするのを、セイはすんでのところで引き止める。 「ちょっと待て!落ち着け!」 「トゥール!トゥールが!サーシャも一緒!」 リュシアはセイの腕の中で暴れる。だが、転職したてとはいえ、武闘家の力に魔法使いが抗えるわけもない。 「おちつけ!お前今そのまま行ったら、絶対途中で落ちる!!」 コツをつかんだトゥールたちならともかく、こんな荒れた様子のリュシアに綱を渡らせた日には一直線に 地上行きだろう。それでなくても、これだけの高い場所だ。風の影響だって馬鹿にはできないのだ。 だがリュシアは聞いていない。ただひたすら地面に落ちたトゥールたちを見ながら叫ぶ。 「トゥール!トゥール!トゥール!!」 泣き声にも似たその声は、セイの胸を締め付けた。 鈍い音をたてて、二人は地面に落ちる。幸い命綱が長かったおかげで、気絶はしていない。あちこちが痛かったが 、何よりも打っていない背中に激痛が走った。 そして、体が震えた。サーシャは自分の体を抱きしめた。それでも、震えが止まらなかった。 (どうして…こんなに…) すぐ横にいるトゥールを見る。その瞬間、体を跳ねあがる。 トゥールはぐったりと床に転がり、その胸からは真っ赤な血が流れて落ちていた。 「トゥール!」 サーシャは駆け寄り、すぐに回復呪文を唱え始めた。 サーシャの額に汗がにじむ。 どうしてこんなことになったのか、そんな現実逃避は考えない。横に転がっている理力の杖を見れば、 一目瞭然だった。 自分がおかしいのは、自分でも分かっている。それでも…どうしても止められない。 「トゥール…トゥール!返事をして!」 回復呪文をかけながら、サーシャは必死で呼びかけた。 トゥールの腕がぴくりと動く。 「…トゥール…?」 やがて、ゆっくりとトゥールが体をおこし、自分の体に回復呪文を唱え始めた。 二人の回復魔法で傷をふさぎ、トゥールは地面に座りなおした。 「…もう、大丈夫だよ。…ごめんね。」 「トゥールが謝る事なんて、何もないじゃない。私を助けてくれて…私が…トゥールを…。」 サーシャの目から涙がこぼれる。わびたいのに、言葉が出ない。 「でもサーシャは…『あれ』が嫌なんだよね。とっさだったから…その、ごめん。」 「……」 サーシャは何も言わず、トゥールの横に座って、声も出さずに涙をこぼしていた。そんなサーシャに、トゥールは マントをサーシャの顔を隠すように頭からかける。 「…?」 そうして、そのマント越しにゆっくりと背中をさする。 「僕はもう大丈夫。…ごめんね。泣かないで。」 そう言われて、サーシャは乱暴に自分の目をこすった。 「…こっちこそごめんなさい。ありがとう。トゥールのおかげで助かったわ。さぁ、戻らないと。」 そう言って立ち上がり、マントをトゥールに返す。 「そう言えば、リュシアたちは?」 トゥールは立ち上がるが、めまいがして床に座り込んだ。サーシャがそれをいたわるように 隣に座り、上を見上げる。 「…ごめんなさい…。しばらく動かないほうが良いわね。リュシア達は…多分まだ上だと思うけど…。」 「…なんだろ…、あれ?」 トゥールが妙な声を上げる。トゥールの視線の先を追ってみると、壁に小さなひびが見えた。その 奥に…小さな灯りが見える。 サーシャが小走りに駆け寄る。それはちょうど腕が一本通る位の小さなひび割れ。サーシャはひびを 覗きこんだ。 そこには、小さな祭壇が光っていた。サーシャは手を伸ばす。…すると、サーシャの手の中に、一本の 巻物が入り込んできた。 呆然としながら、サーシャはその巻物を開いて読み始める。 「もしかして…これが…悟りの…書…?」 「良かったね、サーシャ。」 気がつくと、すぐ横でトゥールが笑っていた。サーシャは巻き物を巻きなおして立ち上がった。 「ええ…ありがとう、トゥール。さぁ、リュシアたちと合流しなくちゃ。きっと、心配しているわ。」 |
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