「ポカパマズのおじちゃん!!」
 入ったとたん、10歳くらいの男の子が、トゥールに抱き付いてきた。
「わ、わわ、ちょっと待って、僕はポカパマズさんじゃないです!」
「え…?そう言えば…なんか違う…?」
 ポポタはじーっとトゥールの顔を見る。すると、すぐ横にいた老人がトゥールの顔をまじまじと見て尋ねた。
「もしや…あんたはアリアハンのお人か?」
「え?ええ…はい、そうですけど…?」
 トゥールがそう答えると、老人は涙ぐみながら立ち上がった。
「そうか…ポカパマズも…わしの息子もそういっとったんじゃ…アリアハンから来たと…そこでは、オルテガと 名乗っていると…。あんたはもしかして…わしの孫か?」
「…え?…」
 トゥールは目を丸くした。

 驚きのあまり、声が出なかった。父の家族、そんなことは考えた事もなかった。自分の家族は、父と母と母の父親…ずっと それだけで暮らしてきたのだ。
 けれど、当たり前だけれど、父にも当然、両親が居るはずだった。
「…ポカパマズはのぅ…ちょうどあんたぐらいの年の頃、こんな田舎にいるのが嫌じゃと言って、ここを出て行った…。」
「ポカパマズ…というのは、オルテガ様のことなんですか?」
 昔語りに入った老人に、サーシャが弱弱しい声で尋ねる。老人が頷いた。
「ああ、わしが息子につけた名前じゃ…本人は嫌がっとったみたいじゃがのぅ。旅に出る時に名を変えたらしいな。… 若い頃のポカパマズにとって…自分の名は、ぱっとしないこの田舎の象徴みたいなもんじゃったんじゃろ…。 じゃが、8年ほど前、あんだけ嫌っとったここに、ポカパマズは顔を見せに来た。なんでか、わかるか?」
 サーシャは首を振る。それを見て、老人はトゥールの手をとった。
「…きっとあんたと、あんたの母親のおかげじゃ。ポカパマズは武勇こそ凄かったがな…普通の、本当に 普通の息子じゃったんじゃ…それが、あんたの母親のおかげで、あんだけ立派な男になってな…この村の ことも、懐かしい、そう思えるようになったと…わしは…。」
「…父さんは…本当にそう言ってましたか?」
 トゥールはか細い声で、そう尋ねた。老人は頷く。
「ああ、まだ幼い息子を置いてきたのが気がかりだと言っとったよ…さぁ、良く顔を見せておくれ…。」
 老人とトゥールは、しばらくじっと見つめあっていた。しばらくたつと、疲れたのだろう、老人は椅子に座り込んだ。
「ところで、ポカパマズは元気か?」
「………ええ。……ところで、僕は…父さんみたいになるために旅をしてるんです…。父さんは、この村に来た後、どこに 行きましたか聞いてますか?」
「本当に、ポカパマズそっくりじゃの。こっから東に行くといっとったよ。気を付けて行きや。」
「ありがとう、ございました。」
 トゥールは頭を下げる。すると、今までじっと見ていたポポタが、こちらを向いてきた。


「ねぇねぇ、今の話、本当?おにいちゃん、ポカパマズのおじちゃんの息子なの?」
「うん、僕、トゥールって言うんだよ。」
「そっかー、いいなー、僕もポカパマズのおじちゃんの息子だったら良かったのに。」
「ポポタは、ポカパマズの甥じゃ。トゥール、おまえの従兄になるんじゃな。」
 その言葉に、トゥールは笑う。そしてポポタの頭を撫でた。
「そっか、僕の従兄か。よろしく。」
「うん、よろしく!…おじちゃんに良く似てるね!…ねぇ、いい物あげる。」
 ポポタはそう言って、トゥールの腕をひっぱり、部屋の隅へと誘った。そこには、大きな兜が置いてある。ポポタは その兜を手に取って、トゥールへ差し出した。
「これ、おじちゃんが僕にくれたの。でも、僕大きくてかぶれないしさ、おにいちゃんにあげるよ!」
「…ありがとう。ポポタ君。」
 トゥールはその兜を受け取る。兜は当たり前だが冷たくて、父の体温はどこにもなかった。

「…またいつか、ここに尋ねておくれ、トゥール。今度はポカパマズや奥さんも一緒に来てくれたら嬉しいのう。」
「はい、いつか。…それじゃ。」
 トゥールは最後まで笑顔で、ポポタたちに手を振った。




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