「くっそ、そういう奴等が一番やっかいなんだよな…」
 村長の話によると、この一族には、かつてイエローオーブと呼ばれる、黄色いオーブが確かに存在していたらしい。だが、そのオーブは 「渇きの壷」と呼ばれる村の宝と一緒に、もう何十年も前にある国の人々に奪われてしまったらしい。
「それで、…その国からオーブを取り戻せばいいんでしょうか…?」
 トゥールがそう言うと、村長は首を振る。
「その国に、オーブはない。我等のオーブは特別な物。世界を回り、人に触れ合い、知識を蓄えてやがて還ってくるもの。 そういう宿命。きっと、その国を出て、世界を回ってる。」
 ”安らぎの緑。活力の赤。勇気の青。知力の黄。歴史の銀。自信の紫。”
 かつて、サーシャの中の、誰かが言った言葉が頭によぎる。
「還ってくる…ここにですか?」
 トゥールの言葉に、村長はじっとトゥールを見た。
「お前たち、オーブが何か知ってるか?」
「いえ…。」
「オーブは神の精神を受け取り、 神の使いを呼ぶ儀式に使うもの。神の使いを呼ぶために、6つ集める。ある場所で儀式をする。」
「ある場所…?」
「ここから南。凍りついた場所。…その使いの名は、伝説の不死鳥『ラーミア』ラーミアに乗れば魔王の城に行く事が できる。」
 その言葉に、トゥールは思わず立ち上がる。
「どうして、僕達が魔王を倒す旅をしていると…?」
「わし、イエローオーブの持ち主。蓄えた知識は、わしの元、来る。…その冠は勇者の証。魔王倒す者の証。 わしら、待ってた。けど、ここにオーブない。」
 残念そうに言う老人の言葉に、トゥールは座りなおす。
「それで、俺たちはどうすればいいんだ?どうすれば、イエローオーブは手に入る?」
「そのための条件、二つ。一つ目はとても厳しい。 神の心受けるためには、人では無理。一度死なないと駄目。お前たちにできるか?」
 老人の言葉に、ためらわずトゥールは答えた。
「やります。」
「ではまず、アープの塔、行け。そこにある山彦の笛あれば、イエローオーブは山彦のように還ってくる。」


「一度死ぬって、どういう意味なんだろうね?」
 トゥールが首をひねる。
「良く分からないけど…物騒よね。…ねぇ、トゥール、そろそろ、野宿の準備をした方が いいんじゃない?」
 赤く染まった空を見て、サーシャは足を止める。あれから四人は河口まで船で向かい、そこから歩いているのだが、 塔までは果てしなく遠かった。
「…前来た時も思ったけどよ、なんでこんなところに塔なんか建てたんだろうな…。」
「船で回ったほうが良かったんじゃない?」
「船だと道がわかんねーんだよ。前も陸路だったからな。」
 その、「前通った」と案内した陸路は獣道で、四人はすでに体力を使い果たしていた。確かにこれ以上進むのは 危険だった。
「この林の奥に泉があったはずだ。水くんで来るぜ。」
「あ、じゃあ、私、まきを集めてくるわ。リュシア、トゥール、火をお願い。」
 セイとサーシャがそう言って、森の奥へと消えていく。トゥールとリュシアは木切れを集め、魔力で 火をたく。
 夕闇の中、火の灯りがトゥールの顔に反射して赤い。リュシアは干し肉を串に刺し、火であぶり始めた。
「…トゥール。」
「ん?何?」
 火の調子を見ていたトゥールが、リュシアの声に顔を上げる。
「リュシアは…」
「おーい、汲んできたぞ。」
 リュシアの言葉にかぶさるように、セイが汲んできた水を横に置いた。

「あ、セイ、ありがとう。水場、近かった?」
「おお。結構綺麗だったし、浅かったから後で男女交代で水浴びでもすりゃすっきりするんじゃねぇ?」
「あ、いいな、それ。ずいぶん汗臭くなっちゃったし。あ、ごめん、リュシア、何?」
「…ううん、なんでもないの。セイ、ありがとう。」
 リュシアはそう言って、野菜を洗い始めた。すぐにサーシャも帰って来る。
「おお、サーシャお帰り。あっちの泉綺麗だから水浴びするか?って話してたんだが。」
「んー…私は今日は良いわ。でもリュシアは入りたいんじゃない?覗かれないように見張りするわよ。」
 サーシャは笑いながら薪を置き、火に慎重に薪をくべた。
「…うん、入りたい。すっきりできたらいい。」
「ん、じゃあ後で行こうか。リュシアの肌、綺麗だものね、白くて。」
「サーシャは髪綺麗。ふわふわ。」
 女同士で楽しげに話し合う様は、なんともかわいらしく美しかった。
「あー、なんかいいねぇ、こういうのは。」
「…うん、同意、かな。」
 男二人、顔をあわせてそう言いあった。




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