自室にこもっていたサーシャは、船が打ち付けられるような激しい音で顔を上げた。
「モンスター!?」
 床に軽い衝撃を感じた。おそらく海からモンスターが飛び込んできたのだろう。サーシャはそう考えて、 武器を持って自室を飛び出した。

 そこには、見慣れない男たちがいた。
「…何?」
「女がいたぞ!捕まえろ!!」
 その声があがると同時に、何人もの男がサーシャを囲む。
 見ると、見慣れぬ船が接舷されていた。おそらく船を 近づけ、2、三人が帆に縄を付けて飛び移り、無理やり船を接舷させて乗り込んできたのだろう。
(どうすれば…)
 おそらく無頼者なのだろうが、倒してもいいのだろうか。一瞬の困惑をチャンスと見て、男たちがいっせいに 飛びかかってきた。
 遠くから旋律が響く。リュシアの呪文だった。そして次の瞬間、男たちの動きが妙に 遅くなった。その隙を狙い、トゥールが男達を背後から殴る。
「サーシャ!大丈夫?」
「何事なの?これ?」
 サーシャも武器を振りかざし、祈りの言葉を唱えながら男達を腹を殴る。
「僕達にも良く分からない!いきなりこいつらが襲ってきたんだ!多分海賊だと思う!」
「海賊?!でもどうしてこんな船を?!」
 サーシャがそういうのももっともだった。船を襲い積荷を狙う海賊が標的にするには、この船は小さすぎる。 高性能とはいえ、どう見ても商人の船には見えないだろう。
「そんなの知らないよ、でも目的が穏やかじゃなさそうだよ。」
 トゥールの言葉にサーシャは頷いて、呪文を唱える。
「ラリホー。…そうね。でも、きりがないわね。」
 サーシャの呪文で周りの男達は眠ったが、接舷された船からは次々と男たちが入ってくる。 一人一人の実力はたいしたことはないが、できれば人殺しは避けたい以上、全力を出すことは できない。これだけの人数を相手にするのは少々きつかった。
「トゥール、いっぱい来るの。」
 リュシアが上から飛び降りてきた。どうやら船室の屋根に登っていたらしい。
「どうしようか、ルーラで船ごと逃げる?」
 新たに襲ってきた敵を剣の柄で殴りながら、トゥールは思案する。
「それが一番かもしれないわね。」
 サーシャの頷きに、リュシアが首を振る。
「駄目。セイ、あっちに行ったから。まかせとけって言ってた。」
 リュシアが海賊の船を指差した時、その船から声が響いた。

「やめな!!」
 それは女の声だった。その声に、男たちはいっせいに体の動きを止める。
 真っ赤な髪が印象的だった。短く切りそろえられたその髪にはバンダナが まかれ、スレンダーな体にぴっちりとした露出度の 高い、動きやすい服装をした女性は、野性味溢れた魅力を持っていた。
 そして、その横には銀の髪をしたセイが立っていた。どこか妙に余裕のある笑みだった。
「おーい、お前等のお頭がやめろって言ってるぞ。とっとと俺達の船から手を引け。」
「御頭…。」
 海賊たちは不安そうに女を見るが、女は鋭い目付きで海賊たちをにらんで黙らせた後、セイを見た。
「まさか白刃のセイの船だったなんてさ。久しぶりだね、会えて嬉しかったよ。」
「紅玉のライサ。ずいぶんな歓迎だな。」
「悪かったね。久々に船を見たもんで張り切っちゃったんだよ。ほら、お前たちもあやまりな!」
 ライサの言葉に、男達は頭を下げながら、自分たちの船へと戻っていく。それと入れ違うように、ライサと セイがトゥールたちの船へと渡ってきた。
「あんたたち、セイの仲間かい?」
「あ、はい。」
「するってぇと…噂の勇者さんってことだね。」
 トゥールが頷く。ライサは品定めするような目で三人を見た後、サーシャの髪をつかんだ。
「綺麗な青い髪だね。」
「え?あ、ありがとう…?貴方の赤い髪も綺麗だわ。」
 突然の言葉に目を丸くするサーシャ。だが、ライサはその髪をつかんだまま言葉を紡ぐ。
「顔も信じられないくらい綺麗だし、均整のとれた体をして魔法も使えて…」
 ライサの手に、力が入る。髪を引っ張られたサーシャは、痛みに顔をしかめた。
「ライサさん!」
 トゥールの呼びかけに、ライサは我に返り、手を離して笑った。
「ああ、ごめんよ。痛かったかい?ちょっと暑さにやられたみたいだね。…わびと言っちゃなんだが、良かったら あたしのアジトに来ないかい?」
「おい、ライサ?!何たくらんでるんだ?」
 セイの言葉に、ライサは呆れたように言う。
「たくらむって…ひどいね、昔馴染みに迷惑かけた侘びをしたいつもりなんだけどね。」
 セイをそう諭して、戸惑うトゥールたちに笑いかける。
「海のことであたし達にわからないことはないよ。あんたらの旅に役立つ情報があげられると思うけどね。けど こんなところで立ち話もなんだろ?」
 トゥール達三人は顔を見合わせる。セイの顔を見ると、乗り気じゃなさそうで、トゥールは顔色を 伺うようにセイに問いかけた。
「うーん…セイ、どうする?」
「まーいいんじゃねぇーの?」
 セイは半ば投げやりにそう答えた。その答えをいぶかしく思いながら、トゥールはライサの提案に乗る事にした。
「じゃあ、お言葉に甘えます。」
「そうかい?じゃあ案内するよ。あたしの船に着いてきてくれ。」

 そうして2隻の船はゆっくりと東へと進み始めた。


 めまぐるしく移動している回ですね。登場人物も多めです。
 ギーツ再登場。…ギーツも悪い奴じゃないんですよ、多分。ちょっと神経ねじれてるだけで。きっと。
 そしてカンダタの回で紅玉の予想をしてくださった方、大当たりです。赤い髪の印象があったので 紅玉、にしたのですが、SFCでみる限り髪は黒いんですね、本当は…。ははは。なんで赤い髪だと思いこんでいたのだろうか… 4コマ漫画劇場かな?
 そんなわけで、次回は海賊のアジトです。
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