一瞬静まった部屋。それを破ったのは、ライサの大笑いだった。
「あっはっはっはっはっは。あんたらを相手にするにはちと分が悪いね。 このアジトぐらいなら破壊されそうだ。いいよ、持ってきな。」
「いいんですか?」
 サーシャが半信半疑でそう言うと、ライサは笑顔で頷いた。
「いいよ、そこまで言われちゃいっそ気持ちいいね。勇者、あんた、気に入ったよ。そうだ、これも教えてあげるよ。ルザミの島を 知ってるかい?ここから南西に行ったところにある小さな島だ。」
「その小さな島が、どうかしたんですか?」
「そこには予言者が住んでるんだってさ。なにか役に立つかも知れないよ、行ってみな。」
「へぇ、予言者ね…しっかしそんなところに島なんてあったか?」
 セイの言葉に、ライサが自慢げに答える。
「ま、あたしら以外であそこを知ってる奴はまぁいないさ。元々は流刑のための島だった。けど、今では 存在自体、ほとんど忘れられて、今ではその末裔が住んでるって話だからね。…さ、他に聞きたい事はあるかい?」
「おそろい。」
 リュシアが口を開く。ライサがわけもわからず目を丸くする。
「は?」
「同じの。知ってるの?」
「…この子、何が言いたいんだい?」
 リュシアの言葉が理解できず、ライサは困惑しながらセイを見た。
「リュシア、どうしたの?」
「だからリュシア、言いたい事があるなら、ちゃんとわかりやすいように言えよな…ほらもうちょっと整理しろ、整理。」
 トゥールとセイに促され、リュシアはしばらく考えたあと、慎重に口を開いた。


「おなじの、違う色の、あるって聞いたって言ってた。譲ってもらおうとしたって。オーブ。」
 お世辞にも整理できているとは言えない言葉だったが、それで四人はなんとか理解した。
「ああ、そうだね。実は噂でね、これと揃いの紫のやつがあるってんで、行ってみた事があるんだよ。 けどね、譲ってもらうどころか話しさえ聞いちゃもらえなかったよ。だから本当にあるかどうかは わからないんだけどね。」
「それはどこですか?」
 トゥールの言葉にライサは地図を指差す。
「ちょうど、地図の中央。アリアハンの来た、ムオルの南。…この島の小国、ジパング。」
 それはあまりに小さな島だった。
「こんな小さな島に、国があるの?」
「ああ、一応ね。」
 セイが頭を抱えていた。
「………まずい…だろ…。」
「まずい?」
 トゥールの言葉に、ライサが頷く。
「ああ、この国はね、めちゃくちゃ排他的なんだよ。よそ者が嫌いでね。一応言葉は通じるけどそれでも ずいぶんと固有の言葉が多いし、文化も独特だし…、あんたらが行っても歓迎されることはないだろうね…。 あたしらも行ったけど珍獣扱いだったよ。行くんなら気をつけなよね。」


 サーシャが体を起こすと、ぐらりと頭が揺れた。どうやら寝入っていたらしい。
(いけない…風邪、ひくかも…)
 あの後、海賊の子分を巻き込んで、皆で酒盛りになったのだ。まだ酒が飲めないリュシアは早々にあてがわれた部屋に 戻ったが、他の三人は子分たちに散々酒を注がれて、結果サーシャは酔い潰れて眠っていたらしい。
(初めて飲んだけど…私お酒弱いのね。気を付けなくちゃ…。)
 体を起こして、部屋に戻る。廊下には、酔い潰れた海賊たちが転がっていた。
「…たんだ?」
 セイの声がした。サーシャは顔をそちらに向ける。
「失礼だね。どういう意味だい?」
 答えた声は、ライサの声だった。どうやら二人が会話しているらしかった。
「白々しいにもほどがあるぜ。お前の所は商船を襲うようなこと、やってなかったはずだろ?なんだって 俺達の船に乗り込んできたんだ?何を考えてる?騙してるのか?」
 その言葉が耳に入り、はしたないとは思いながらも身を隠してサーシャは耳を澄ませた。

「そんなつもり、ないよ。…ただ、噂は聞いてたよ。あんたが盗賊をやめて勇者の仲間になったって、 盗賊の世界じゃ大騒ぎだったよ。あたしはなんでセイがそんなことしたのか、気になって確かめたかったんだ。」
「へぇ。お前等暇だなぁ…フリーの盗賊が一人足抜けしたからって、んなに騒ぐなよ。」
 セイは呆れたように笑っている。だが、ライサはそれを複雑な表情で見た。
「…あんたがやめたのは、ものすごい美女のためだって聞いたよ。確かに綺麗だね。驚いたよ。子分たちも 見とれてたよ、あたしの前でさ。」
 その言葉を聞いて、サーシャは首をかしげる。そう言った視線は良く受けるが、子分たちに口説かれる 事がなかったので、気がつかなかったのだ。
 だが、実際子分たちは気がつかれないようにサーシャに見とれていたのだ。ライサはそれを知っていた。
 ライサの美貌に心酔して、子分になっている人間も多い。にも関わらず、サーシャに見とれるというのは、 異常とも言えだ。
「別に、サーシャのためって訳じゃないさ。」
「じゃあ、あの勇者のためかい?…確かに面白い奴だね。」
 セイは笑う。その笑みが、どこか照れ隠しのように見えた。
「別にそう言うわけでもねぇよ…飽きただけだ。別に好きで盗賊になったわけじゃねぇしな。」
「…………。」
 ライサは、じっとセイを見つめている。その表情が、今まで感じさせないほど「女」なのは、気のせいではないだろう。
「どうした?ライサ?」
「呼んで、くれないんだね。」
「ん?」
 ライサの声はどこかせつなかった。
「…前にセイと別れる時に教えた…本名。セイはずっと呼んでくれないんだね。」
「ライサ。俺達はとっくの昔に本名なんて捨てたはずだろう?」
「でも、あたしはセイには呼んで欲しかった。どうして…どうしてあたしの側じゃ駄目だったんだよ…。なんで、 なんで勇者たちと一緒になんて、行ってしまったんだよ…。どうして、あたしの気持ち、気が付いてくれなかったんだよ… あたしは…」
 ライサは、セイの胸にしがみついて涙をこぼした。
「…ラ、イサ…。」
 硬直しているセイをよそに、ライサの嗚咽がだんだんと激しくなってくる。
「わりぃ…!」
 セイはライサを付き飛ばして走り去った。


「セイ!」
 サーシャは立ち上がってセイの後を追う。
 おそらく、セイは今までの自分の接するようにライサにも接していたのだろう。それでは 誤解してしまうのも無理はない。その気にさせておいてその態度はあんまりだと思った。
 一言文句を言うつもりで、セイを探して走る。
「は…、かは…。」
 セイの声が聞こえた。渡り廊下から庭に降りて、声のするほうへと歩く。 セイは庭の片隅でうずくまっていた。
「…セイ?!」
 サーシャはセイの側に走りより、背中をさすった。
 セイは吐いていた。胃の中の物を全部出すかのように、苦しそうに嘔吐していた。

「大丈夫?」
 吐くものがなくなって落ち着いたのだろう。セイはようやく吐くのをやめ、口元をぬぐった。
「…覗きかよ。」
「通りかかったのよ。…まぁ聞いていたのは事実だから謝るけれど。…飲みすぎたの?」
 サーシャの言葉に、セイは一瞬考えた後頷いた。
「…ああ。」
「後でちゃんと謝っておきなさいね。あんまりにも失礼よ。」
「そうだな。」
 セイは立ち上がり、サーシャに手を振った。
「ゆっくり寝とけよ。おやすみ。」
「…おやすみなさい。」
 サーシャはそれを複雑な気持ちで見送った。

 セイの女関係精算編…というわけでもないのですが。本編ではあんまりにもあっさりとオーブをくれるので、こんな 感じになりました。なにげにここでの情報量、多いんですよね…
 オルテガさんは、この話では13年前に家を出て、8年前に消息を絶ってる設定です。本編では5年間の謎?とか 言ってますがたいした謎じゃないので期待しないで下さいませ。

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