終わらないお伽話を
 〜 その体、八つの谷をまたがる 〜



 周りから悪魔のささやきのように、溶岩が吹き出ていた。
「…暑いな…。」
 トゥールが汗を拭きながらそうつぶやく。地面のそこかしこから出てくる溶岩のおかげで、 ランプもいらないで歩けるのはいいのだが、その代わりに暑さで体力が奪われていきそうだった。
 そして、そのあたりに散らばるモンスターは幻惑の呪文を使うきめんどうしをはじめ、一筋縄では いかないモンスターばかりだった。
「溶岩とモンスターに阻まれて、生け贄の女性たちは決して帰る事が出来なかったのでしょうね…。」
 サーシャはそんなことをつぶやいた。
 背後を狙うだいおうガマやくさったしたい、そしてなにより溶岩によって熱せられた空気にダメージを受けながら、ようやく 四人は階段を降りた。

「…あれ、見て!…なんて、ひどい…。」
 サーシャが指差した先には、祭壇とそこに散らばる骨があった。
「あそこにいれば、ヤマタノオロチが出てくるか?」
「でも、あっちも気になるな、僕。」
 トゥールが指差した東側には、溶岩の上に立派な橋がかかっていた。
「これだけ立派な橋なんだから、何かあると思うんだけど。これなら…大きなモンスターが渡っても落ちないと思うし。」
「…でも、あちらは見たところ行き止まりよ?それよりもこの祭壇で待っていたほうがいいと思うのだけど…。 それに、埋葬して…いいえ、せめて祈りを捧げてあげたいわ。」
 サーシャがこぶしを握り締めてそう言う。セイは少し考えて提案した。
「じゃあ、二手に別れようぜ。そんなに広くないんだ。何かあったら、魔法でも撃てば音響くだろ。」
「うん、そうだね。じゃあ…」
「リュシア、トゥールと行きたい。」
 リュシアがそう言って、トゥールの腕にしがみついた。 そのリュシアにしては少しだけ強い口調に驚きながらも、トゥールは頷く
「え、ああ、うん、そうだね、そしたら二手とも物理攻撃と回復呪文と攻撃呪文が使えるし、ちょうど良いかな。 便利だよね、サーシャは。」
「やめてよ、便利って。有能って言って欲しいわ。トゥールだって両方使えるじゃない。」
 サーシャは苦笑する。トゥールはそれを見て柔らかく笑った。
「あはは、ごめんごめん。じゃあ、そう言うことで。」
「了解。じゃあ俺達はあっちに行って調べてみる。気を付けろよ。」
「うん、そっちも。」
 セイとトゥールはそう言いながら手を上げて、背を向けた。


「…トゥールってもしかして、とんでもなく鈍いのか?」
「そんなわけないじゃない。リュシアは15年間トゥールの事を想ってアプローチしてきたんだから、いくらなんでも 気が付いているわよ。照れてるのよね、きっと。」
 サーシャは軽く笑ってそう言うと、祭壇までひた走った。
「…ひどい…。こんな食い散らかしたような…。」
 そう言うと、サーシャは祭壇に散らばる骨を集め始めた。足りない骨もあるため、個別に集めるのは不可能だったので、 一箇所に集めて炎で燃やした。
「全てを支える優しき女神よ…。貴女の勇気ある愛し子が今、その御許で眠りにつこうとしております…。」
 目を閉じ祈りを捧げる姿は、まさに聖母。女神像のように美しかった。
「本当は、ちゃんと埋めてあげたかったのだけど…ごめんなさい。」
 思わず見とれていたセイが我に帰る。自分に言っているのだと気が付いて、小さく首を振った。
「なんだかんだ言っても、自分で生け贄になるって決めたんだ、本望だったはずだ。そりゃ…やっぱり良い気分はしねぇが… それでも結局こいつらは、自分の身を犠牲にして、国を守ったんだからな。」
「…だから、許せないのよ。生け贄なんて。それを望む人間も…。なろうとする人間も…。そうやって 生け贄になれば、悲しむ家族がいるはずなのに…。」
 強く、強く地面をにらむサーシャ。
「ずっと生け贄にこだわってたけど、なんかあるのか?アリアハンにそんな風習があるとは思えないぜ?」
「そんなこと、」
 その瞬間、東の方角から轟音が響いた。
「リュシアの呪文だ!!」
 セイはそう言うと、サーシャと共に祭壇から飛び降り、かけだした。


「うわ、暑い…っていうより、熱いな。」
 ぐつぐつと煮える溶岩の上に建った橋の上は、当たり前だが熱かった。
「…トゥール。」
 リュシアが、少し甘えた声を出す。トゥールはリュシアの顔を見る。溶岩のせいか少し赤い顔は、 不安の色に染まっていた。
「ん、怖い?」
 リュシアは首を振る。
「平気。…サーシャ…、凄いね。なんでもできて。」
「そうだね、ずっと賢者になりたがってたんだしね。本当に凄いよね。なんだか嬉しいよね。」
「嬉しい?」
 リュシアが首をかしげると、トゥールは鼻を掻いた。
「あれ、嬉しくない?なんだかさ、ほら、幼馴染が凄い人だと僕も鼻が高いって言うか、え?何かおかしい?」
 トゥールの言葉を聞いて笑ったリュシアに、トゥールが焦ったように尋ねる。
「…トゥール、勇者なのに。トゥールの方がもっと凄いのに。」
「そんなことないって。僕はほら、何にもしなくても選ばれたけど、サーシャは自分の力で頑張って賢者に なったから。なんていうかな、生まれつきお金持ちっていうのと、努力して自分でお金を稼いだ っていうか…、わかる?」
 リュシアは少し複雑な顔をして頷いた。
「…でも、トゥールも頑張ったから。リュシアは、凄いと思ってるから。サーシャも…。」
「ありがとう。んー、終点か。何にもないね、こっちは外れか。」
 着いた先は溶岩に浮かぶ小島で、特に何もある様子はなかった。だが。
「やはり来たのか。」
 そのとたん、地面を揺るがすような低い声が響いた。

「お前がヤマタノオロチか?!」
 トゥールは即座に剣を抜いて構える。すると、小島の先頭から、徐々に緑色の何かが現れた。
 それは八匹の巨大な大蛇の頭を持つ、一匹の魔物。
「ほっほっほっほ…我が贄となるがいい!!」
 ヤマタノオロチはそう言うと、こちらに燃え盛る炎を吐き出した。


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