「イオラ!」
 リュシアの爆発の呪文が、こちらの反撃の合図だった。その爆発に、炎は火の粉と化し、その隙間を縫って トゥールが駆けだす。そして、その足に剣を薙いだ。
(硬い…!)
 弾かれはしなかったものの、その剣はうろこを切り裂いただけに終わる。トゥールがはじけるように飛び下がると、 その場所に大蛇の顔が大地に食いついた。
「くっそ…!」
 大蛇の顔がゆらりと持ち上がり、こちらを見る。だが、のんびりとそれを見ている暇は トゥールにはなかった。
 別の顔がその蛇をくぐるようにこちらを見て、炎を吐き出す。
「うわ!!」
 トゥールはとっさに盾で直撃を防ぎながら、ヤマタノオロチの攻撃圏外に出ようと後ずさりする。 だが、燃え盛る炎がその程度で全てを防げるわけがなく、トゥールの左手は軽く火傷を負った。
 そして、トゥールの右側から、また別の大蛇がトゥールに襲いかかる。
「ヒャダルコ!!」
 その大蛇めがけて、リュシアの呪文が放たれる。するどい氷塊は大蛇の頭に突き刺さるが、また別の蛇がそれを噛み砕いた。
「やり辛いな…。」
 八匹の化け物なら、一匹に集中して数を減らすという手もある。だが、この化け物はそれを許しはしないだろう。文字通り 八方を見るその化け物には死角すらなく、統制された動きでこちらを攻撃してくるのだ。
「リュシア、僕がリュシアを守るから、リュシアは呪文を。まとまって遠くから攻撃した方がやりやすい。」
 リュシアは頷いて、トゥールの後ろで呪文を唱える。攻撃に備えてトゥールは剣を構えた。
「メラミ!」
 リュシアの呪文に応えて、大きな火の玉がヤマタノオロチにぶつかる。だが、熱いこの洞窟にいるせいだろうか、 まったく効いた様子はなく、十六個の目がじろりとリュシアをにらみつけた。
 トゥールはリュシアに襲いかかってきた一つの頭を踏みつけ、二つ目の頭の鼻を剣で切りつけ、三つ目の頭を盾で防いだ ところで左から来た別の頭に、トゥールの体は跳ね飛ばされた。


 トゥールの体は、そのまま真っ赤な溶岩へと飛ばされる。その痛みと、その先の絶望が一瞬頭を掠めた時だった。
 とつぜん、首が絞められ、息が止まった。
「ちくしょ、重いぜ!!」
 橋の欄干に身を乗り出し、セイがトゥールのマントをつかんでいた。
「バイキルト!!」
「サーシャ!!魔法使ってないで、手伝えぇぇ?」
 セイがそう言ったとたん、唐突にトゥールが軽くなり、そのまま軽くトゥールを引き上げた。

「けほ…げほげほ…た、助けてもらって、なんだけど…別の意味で僕、死にそうなんだけど…。」
 目に涙を浮かべ、首を押さえてトゥールが咳き込みながらそう抗議する。
「弱虫トゥール!何やってるのよ!いきなり!!」
「びっくりしたぜ、戦ってると思ったらいきなり飛ばされてるんだからな!」
 セイが軽く背中を叩くと、トゥールは橋の欄干に頭をぶつけた。
「…痛いって、セイ…。」」
「いや、軽く叩いたんだが…もしかして、サーシャ、お前呪文、トゥールにじゃなくて俺にかけたのか?」
 両の手を見てセイが聞くと、サーシャは少し得意げに胸を張る。
「そーよ、バイキルトの呪文。精霊の補助で自らの力を強くするの。便利よね。」
「うん、助かった。もしそれなかったら、僕、窒息死してたところだった。」
 トゥールはそうサーシャに笑いかけた。
 哀しい旋律がかすかに聞こえた。そして、聞こえる爆発音。
「って、リュシア戦ってんのかよ!!!」
 セイがそう言うと、そのままヤマタノオロチの元へ走っていく。
「そうだった!リュシア!」
「もう、トゥールの馬鹿!」
 間髪入れず、二人も後を追った。


 リュシアの襲いかかろうとするオロチの頭を、セイは思いっきり爪で引っかく。ぽろぽろとうろこが落ちる。
「おのれ…!!」
 六匹の蛇が、一気にセイへと向かった。するとそれを蹴散らすように、サーシャの呪文が響く。
「イオラ!!もう、好き勝手させないわよ!!」
 爆発を受けて退いたオロチだが、残っていた六匹が、またもしつこくセイに襲いかかる。トゥールは一匹の牙を切り、 返す剣で別の頭の皮膚を切り裂く。セイはオロチの頭を爪で鋭く引っかき、そのまま反転して後ろから襲いかかる 頭を思いっきり蹴り上げる。
「ヒャダイン!!」
 リュシアの呪文で、残りの頭に氷のかけらが降り注ぐ。
「これでも食らえ!!」
 セイはそう言うと、両手ほどの皮袋を向かい来るオロチの目をめがけて放り投げる。だが、オロチはそのまま大きな口を 開けてそれを飲み込んだ。
 その間に男たち二人は、呪文を唱える女たちの元へと後退した。


「…きりがないね。うろこが硬くて、ダメージがあんまり与えられないや。」
「一人頭二匹ってとこか。辛いな。」
 トゥールとセイはそうつぶやく。
「…炎駄目。それ以外、頑張る。」
「あ、リュシア、バイキルト使えない?トゥールにかけてみたほうが効率的かも。」
 セイを回復しながらのサーシャの言葉に、リュシアはトゥールを見る。
「リュシア、お願い。僕の力じゃ切り裂けない。」
「うん。」
 吐き出される炎を避けながら、リュシアは旋律を歌いあげた。やがて、トゥールに力がみなぎった。


 セイが、身を低くしながら、オロチの元へと走る。襲いかかるオロチを左右に避けながら近寄り、オロチの首元 を鉄の爪で思いっきり引っかいた。三本の傷から、血が流れた。
「イオラ!!」
 五匹の頭を一気に叩いたのは、リュシアの呪文だった。その爆発に押され、頭は攻撃目標を帰るために周りを 見回す。
 その一瞬の隙に、今度はトゥールが低い位置にいたオロチの顎を剣で突く。それはうろこを突き破り、肉へと突いた。
 そのトゥールの足元を食いちぎろうと、別の頭が襲いかかる。そこを、
「トゥール、下がって!!ヒャダイン!!」
 サーシャの呪文が凍らせた。

 四人がそろうことで、状況は一変した。…だが、それでもこのままではこちらの体力が尽きるほうが先だと 思えた時。
 くにゃりと大蛇の首がゆがみ、ゆらゆらと変な動きをしている。こちらに襲いかかってきた別の大蛇が、 そのまま大地に顔をつっこんだ。


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