青い竜はアルフを見下ろす。 「我が体内に収めた光の玉。そしてこれまでに集めた力。そこにロトの血を加えればいかなるものになろうか。 気にはなるが……やはりそなたを飼うのは無理そうだな」 アルフはロトの剣を握り締め、竜を見下ろす。 「お前の仲間になるってのはそういう意味か。悪いが俺もローラもお前に飼い殺される 気はないね」 「お前にわしは倒せぬ。」 しゅ、と音がすると同時にまるでかまいたちのようにアルフに竜王の爪がおそいかかる。それを なんとか剣で受けると同時に、衝撃を殺すために後ろへと跳ぶ。 再び爪が襲うが、それを今度はロトの剣を振るい、はじくようにして交わしながら横へと飛ぶ。 そこへ、竜王の口から吐き出される炎が襲い掛かった。思わず身じろいだアルフだったが、 ロトの鎧のおかげだろう、それほどたいしたことはなかった。 肌がちりちりするが、それを無視してアルフはロトの剣を強く握り、竜王の元へと走る。 「我は呪う、その存在を呪う。かの盟約の竜神よ、この世界を導いた全ての神よ精霊よ。盟約を果たすため、 この我が身、我が血そして、このロトの剣を証とし、汝が同族を呪え!」 モンスターを倒すのは先手必勝。それができないならばできるだけ確実にダメージを。たとえそれが 致命傷にならずとも、傷は体の動きをさいなみ、それがこちらに有利になる。 数々の経験を重ねてきたアルフはそれを忠実に守り、竜王の横っ腹に、神世の金属に 時代を重ねた剣に呪術の乗せた、アルフが今できる限りの最高の武器を突き入れた。 それはうろこを突き破り、体に入り込む。だが、竜王の顔はこちらをじろりとにらんだ。 「言っただろう、アルフ。お前にわしは倒せぬ。その呪いこそがそなたを殺す原因となると知れ!」 そういうと、竜王はその前足の爪で、アルフを切り裂かんと力強く振るった。 剣を手放し、急いで後ろに跳んでいれば、あるいは間に合ったかもしれない。 だが得物、そして呪術最高の媒体にこだわってしまったアルフは、ただ一瞬、その剣を引き抜きながら逃げようと、力を 入れてしまった。 そしてその爪が、アルフを心臓を抉り出すその時。 竜王の腕の軌道がそれ、アルフの頬を軽く爪はかするだけに終わった。 わけも分からず、急いで剣を引き抜いてその場を離れる。 振り上げられた自らの前足をじろりとにらんで、その根元に必死にしがみついている物体に、竜王は不機嫌に言う。 「常若の姫よ……運命に弄ばれたそなたは、最後まで苦しんで絶望を味わうと知れ!!」 一気に竜王は前足を振るうと、ローラは勢い良く空中に投げ出され、壁に強く打ち付けられた。 「ローラ!!」 アルフが叫んでも、ローラはなんの反応もしなかった。 ずるりと壁から落ちたローラの背中から、ゆっくりと血が浮かび上がり、いつか見たように空中をくるくると球状になりながら 回り始める。 「常若の姫は、この程度では死ねはしない……あと一時間はこのままだろうな。」 竜王はそういうと、ローラの血に爪を伸ばし、その血を爪に塗りつけてうなり声をあげた。それは何らかの呪文だったのだろうとは 予想がついたが、アルフにはどんな呪文かはわからなかった。だが、その赤く染まる爪に力が宿ることだけは わかった。それに触れたら命はないだろう、ということ。 アルフの選択肢は限られていた。 まずは距離をとりながら呪文で攻撃をしつづけ、隙を見つけること。……駄目だろう。あちらにはいつでも出せる 炎があり、こちらの魔力は無限ではない。 二つ目は、先ほどの呪いをこめた攻撃を繰り返すこと。致命傷ではなかったが傷がつけられたことには変わりない。だが、 やはり竜王に対して力が足りなさ過ぎることはいなめない。 ……そして、その力を補うもの。 アルフはおもわずローラの上に浮かぶ、赤く輝く球体を見た。 それは宝石のようにさえ見える美しいものだった。あの血の力をロトの剣に足せば、あるいは。 ただしそれをするのはローラの場所が問題になる。ちょうど竜王をはさんで部屋の反対側なのだ。だが、効くかわからない 攻撃を何度も何度も繰り返すよりは、可能性は高いのではないだろうか。 だが問題は、竜王がそのことを分かっているということだ。 (考えろ、考えるんだ。) 「来るがいい、竜呪師。その時こそ、おまえの最期だ。」 竜王はまだ攻撃してこない。それは、おそらく自分をいたぶっているのだろう。あるいはアルフの体や、身に宿る血を呪術に いかに使えるか考えているのかもしれない。 変更は許されない。チャンスは一度だけ。どの手段を使うのか。 ”……わしは運命を感じておるよ。こうなることが、ばーさんにはわかとったんじゃないかとな。” ”もう何百年もそなたを、竜王を倒すために旅立つ、ロトの若者を待っておった。” ”見事だ。消し去ることなく霊たちを鎮め、認められたようだな。そなたならば、この世界を救うことができるだろう。” ”我が母とロトとの盟約により、その血に刻み込まれていた竜への呪い。時を重ねその想いを強くし、 やがてわしにつながる頃には、竜を呪いを吐き出すだけの存在につながる。 ……じゃが残念じゃな、竜呪師。……その呪いではわしは倒せまいて。” 旅をしている間に聞いた言葉がぐるぐる回る。 この運命に最初から導かれていたのだとしたら。 ただの呪術師が、こうして竜王討伐に向かうことを運命付けられていたのだとしたら。 ……答えは一つ。 アルフはありったけの思いを剣に込める。 呪というのは、意志の力、いうなれば『思い』だ。そしてその思いは強ければ強いほどいい。 アルフは走った。剣を握り、思いを込めて。 「俺は――――――――――」 竜王に真正面に、一直線に走る。その剣を突き刺すため、思いを込めて、アルフは叫んだ。 「俺は、勇者アルフだ!!!!!!!!!!!!!」 答えは一つ。 竜王と同じところには堕ちない。 アルフは唱える。 「我は呪う、その存在を呪う。かの盟約の竜神よ、この世界を導いた全ての神よ精霊よ。盟約を果たすため、 この我が身、我が血を証とし、汝が同族を呪え!このロトの剣を対価とし、偉大なる竜へと成る日まで 邪なる竜を封ずることを我は呪う!!」 言っていたではないか。この呪いを重ねたのは竜王自身の母だと。 どういう経緯だったのかは知らないが、この呪いを施した竜は、この事態を憂いていた。だからこそ、竜を殺す力を ロトの勇者に授けた。 だが、母親である以上、おそらく竜王への慈しみの『思い』を消すことはできなかった。いや、慈しんで いたからこそ、この事態を止めようとしたのだろう。 だが、ためらいが生まれた。母の力で、仔を殺すことになることを。 ならば、この呪いに込められた真なる願いは。もっとも強き思いは。 「ぐわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 竜王はその呪いをまともに受け、そのまま王座へとその身をロトの剣で磔にされた。 竜王は激しく動き、そしてその剣を抜こうとするが、それはびくともしない。 だが、アルフはそれを見届けはしなかった。 「ローラ!!」 小さな体が倒れている場所へといそいでかけよって様子をみると、竜王が言っていた通り死んではいなかった。 急いで回復すると、やがて傷はふさがり、血も消えた。 「大丈夫か?ローラ?」 「アルフ……」 体をよじりながら、ローラは目を覚ます。 あの小さい体で、体力も瞬発力もないローラがあんなことをできたのは、おそらくずっと伺っていたのだろう。自分が 何かの役に立つチャンスがないかどうか、目を皿のようにして。 物語のように、アルフをとっさに庇うことはできないとわかっていたのだろう。だからその根元に飛びついて…… 結果アルフの命を救った。 「……ありがとう、ローラ。」 「私、役に立てた?」 「当たり前だ。……ローラがいてくれたから、竜王をなんとかすることができたんだ。」 アルフはローラを抱きかかえると、背後でぱぁ、と明るく光る。 あわてて振り返ると、玉座の前で、まばゆい光を放つ玉があった。その光は、そのままの輝きを 保ったまま、上へと消えていった。 竜王はかつての巨大な竜ではなく、最初に見た姿に戻っていた。 「見事だ……竜、いや、勇者……よ……そなたの思惑通り、わしはこの先ここから動けず、力さえ封じれ、光の玉もこの通りだ…… たとえ次代、次々代と重ねようと、わしの中の魔が消えるまでこの呪いは解けることはないだろう……」 「お前のヒントのおかげだ。……俺にはお前が倒せない。なら封印すればいい。そう思ったまでだ。」 そう言うと、竜王は笑う。 「ああ、愉快だ。……褒美に教えてやろう、勇者、お前が望んでいたことを。…常若の姫の呪いは竜呪師には解けぬ。 誰にも解けぬ。なぜならそれは呪いではない。奇跡というのだよ。」 「なんだと!?それは……。」 ローラは不思議そうにアルフと竜王を見た。 奇跡。それは神の御技。……つまり、常若のこの呪いをかけたのは、神……おそらく精霊神ルビスということになる。 「わしがルビスを封ずるために力を伸ばした時、力の欠片が姫に落ちたらしいな。そしてそれが、麗しい姫君を選び、 入り込んだのだよ。神々はそういうものが好きだからな。」 竜王は大きく笑った。そして目をつぶる。 「さて、わしは眠ろう。やがて来るその日まで、世代を重ねながら。いつの日か……また会おう……ロトの勇者……よ…………。」 そう言うと、それっきり動かなくなった。 アルフは抱き上げたローラの体を強く持つ。 「……アルフ……私……。」 「帰ろう、ローラ。勝利の凱旋だ。」 そう言うと、アルフはルーラを唱えた。 |
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