またもやモンスターを蹴散らし蹴散らし、レオンの一人旅は続く。薬草を使い、毒消し草を使い、 モンスターに八つ当たりしながら、レオンは爆走する。
 そして、そろそろ道具がつきかけた時。
「やっと…ついたか…」
 へろへろになりながら、ローレシアの城下町にたどり着いた。そろそろ夕飯の買い物だろうか、買い物客で にぎわっていた。屋台からいい匂いが漂う。
「腹減った…」
 ともあれ、うかつに入るわけには行かない。だが、このまま城門の前でぼんやりしていても、埒があかないことも 確かだった。
 門番をさぐる。
「らっきー。」
 すぐさま駆け寄る。そこにはレオンとなじみの門番がいた。いつもレオンの逃亡を見逃してくれる男だった。 まじめで信頼があるが、とにかく騙されやすい。あまり話術が得意じゃないレオンの言葉も、あっさりと 受け入れてくれるのだ。
 後ろから忍び寄り、いきなり腕をつかみ、近くの木陰に連れ込む。

「よお!今日も仕事か?頑張ってんな。」
「レ、レオン様!」
 大声をあげる門番の口を、手でふさぐ。
「大声あげんなよ!どーせ親父から見つけ次第捕獲って言われてんだろ?」
「は、はい!なんでも犯罪に手を染めようとしてるとか…」
 その言葉に、レオンは頭を抱えた…。
「あんな…さっき、ムーンブルクからの傷だらけの使者が来ただろ?つまりどういうことか分かるか? ムーンブルクがやばいんだよ。俺は助けに行きたいわけだ。でも親父はそれが都合が悪いって言うんだな。」
「は、はい。それは、もしレオン様に何かあれば、それは問題ですから…」
「まぁ、親父の意図はしらねえが、俺は勇者の末裔として、同じ血に連なる者をほっておきたくないんだ。」
 さすがにハーゴン討伐のことを話そうものなら大反対されそうなので黙っておく。
「ご、ご立派です…」
「な?もう、敵もいないっていうのは親父も保障してくれた。親父が言うんだから間違いない。 じゃあちょっとムーンブルクに行って帰ってくるだけだろ?俺がそれくらい、できないと思うか?」
「いえ、レオン様なら・・・ですが、お一人では危険です!よろしければ私がお供を…」
 まじめに言う門番に、レオンは首を振る。
「いや、ルーン…一緒に行こうと思ってるやつがいる。癒しの術が得意なやつだ。だから全然心配いらねえぜ。でだ。」
 あまりここにいても怪しまれるので、とっとと本題に入ることにする。
「短い薄茶色の髪を逆立てて、緑の僧服を着たやつを探してるんだが、見なかったか?お前?」
「いえ…見ませんでした。」
「そっか…こっちにゃ来てねえのかな…あー、手詰まりになっちまった…」
「あの…大丈夫でしょうか?レオン様?」
 心配する門番に、レオンは首を振る。
「いや、大丈夫だ。じゃあ、悪いが俺は行くぜ。全部黙っとけ、とはいわねえけど、日没の報告時間くらいまで 黙っといてくれるとありがてえ。」
「はい、承知しました。」
「あ、あと薬草分けてくれ。あるんなら毒消し草もくれ。」
 レオンがそういうと、門番は道具袋の中の薬草と毒消し草を渡してくれた。
「サンキュ。仕事邪魔して悪かったな!」
「レオン様…くれぐれもお気をつけて…お早いお帰りをお待ちしております。」
 頭を下げる門番に、レオンは手を振って立ち去った。


 近くの草むらに座り込み、携帯肉を食べながら、レオンは思案にふける。
(さてと…どうすっかな…もう探したんだし、ほっといて行くっつー手もあるが…)
 一人で旅をすると、薬草の消耗も激しいという事がわかってきた。なによりも、そろそろ 意地になってきた。
(俺がこんなに探してやってんのにうろちょろしやがって!!首ねっこひっつかんで謝らせてやる!!)
 そう思うと、闘志がわいてくる。レオンは勢いよく立ち上がり、一歩脚を踏み出し…止まった。
「で、実際俺はどうすりゃいいんだよ…」
 自分でそう突っ込んでみる。ローレシアにはいない、勇者の泉は二回も行かないだろう。一人でムーンブルクにも 行ってない気がする。なら…
「さっぱりわからねえ…」
 そもそもルーンの行動を読もうとした自分が馬鹿だったと思う。昔から突拍子もなく行動する人間だった。 頭は良く、努力家で…それだけなら平凡なやつだといえるが、発想はどこまでも非凡なやつだった。
「しゃーねえな…」
 沸きたった闘志がしぼんでいくのが分かる。
(もういっぺん、聞くしかねえか…)
 非凡なルーンの行動も、兄弟なら分かるかもしれない。知れない、が。
(苦手なんだよな…あの姫は…)
 関わりたくないのに、どうしても関わってしまう。見たくないのに、どうしても見ざる終えない。同じ 血族だから仕方ないのだが…
 どうにもこうにも気が重い。
 ため息をつきながら、レオンはセラの言動を思い返す。会う前に、なにかヒントはなかったかと、 挙動一つ間違えずに、鮮明に思い返してみる。
 ”本当に、いらっしゃいましたのね、レオン様。…リィン姉さまをお助けに?”
 ”…私は何も聞いておりません。兄は私には何も言わず、旅立ったようですわ…でも 、この国では旅立ちを求めるものは、勇者の泉で身を清めるのが風習です。…兄もおそらくそちらに向かったと思います。”
「あ…?」
 ひっかかりを覚えた。それはとても簡単なことだった。
「あんとき気付いてりゃ早かったのにな…嫌われてんのかな、俺…」
 とたんに重くなった足を無理やり動かし、それでもレオンは足をとめず、サマルトリアに向かうことにした。


 すでに夕暮れも濃くなっていた。
 セラは窓の外を、ただ無言で眺めていた。
 寂しい光景だった。そこは赤く燃え、何もかもが吸い込まれているような、そんな気がした。
(リィン姉様は、こんなところにいたのかな…たくさんたくさん、苦しい思いをしたのかな…)
 そう考えると、自分はどうしてあんなことをしてしまったんだろう。どうしてこんなひどいことができたんだろう。
 そう考えると、目に涙が浮かぶ。そして、泣き出そうとした、その時。
 がらりと窓が開く。
「姫、こちらからお邪魔いたします。」
「レ、オン…さま…?」
 窓のさんを乗り越えながら、レオンが生真面目に礼を言った。
「汚れた体で申し訳ありません。お尋ねしたいことがありまして…」
 それは、おそらく自分の浅はかな罪を訴えに来た言葉。
「…ルーンの居場所を、ご存知ですね、姫」
 …破滅の、言葉。

 よく考えてみれば分かったことだった。
『ルーンから』何も聞いていないのに、どうして『本当にいらっしゃいましたのね』と言ったのか。どうして驚かなかったのか。
 以前に、ルーンから聞かされていたのだ、この姫は。それで、あえて嘘をついた。
 目の前の姫は、レオンの言葉を聞き、目を丸くし、涙ぐんだ。
(げ、…泣く?)
 そう思った瞬間、セラはぼろぼろと涙をこぼしていた。レオンは硬直する。
「ご、ごめん、なさい…わたし、わたし、ほんとは、知ってて、知ってて…でも…」
(泣くな泣くな泣くな!!!)
 そう思っても涙は止まらない。ぎこちなく手を伸ばし、背中を優しくなでる。
(柄じゃねえ…)
 こういうときこそルーンの出番だろう、と思いながら、ただひたすら背中をなでる。姫はしゃくりあげながら言う。
「ご、ごめんなさい…おにいちゃんにも、レオン様にも危険なことして欲しくなくて…、ごめんなさい… おにいちゃんと会わなかったら…レオン様も、危険なこと、なさら、ないと…」
「いいのですよ、姫。それより教えて下さいますね?」
 その言葉に、セラはこくんと頷いた。
「おにいちゃんは、レオン様に『リリザで待ってるから』って伝えてくれって…」
「そうか…」
 それだけ聞くと、レオンはそっと手を離した。
「あ・・・」
「ありがとうございました。心配していたと、ルーンに伝えます。」
「はい…」
 どこか残念そうに、セラは頷く。
「それでは…」
「あの!!」
 立ち去ろうとするレオンに、セラが声をかけた。
「わたし、そんなことしましたけれど!それでもリィン姉様も心配で!信じていただけないかもしれないけど、 それでもリィン姉様のこと、好きで…!」
 一瞬黙り込んだあと、もう一度顔をあげて言った。
「もし、リィン姉様がお元気でしたら…是非お顔を見たいと思います!お願いします…レオン様…」
「ああ、…わかりました。お約束します。」
「おにいちゃ…兄のこと、よろしくお願いします。兄にも、どうか無事でと。」
「はい、伝えておきます。それでは…お元気で、姫。」
 それだけ言うと、レオンは窓から再び外へと飛び出した。


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