リリザの灯りが見えたときは、もう『夜』と言える時間だった。
「あー腹減った…」
 ずりずりと足をひきずり、リリザにたどり着く。
 町に入ると、昼に来たときよりずいぶんと人が少なくなっている。
(飯――――――…)
 もはや息も絶え絶え、といった感じに食堂もかねた宿へ滑り込む。
 そして、食堂へ向かう。そこに、声がかかった。
「えへへー、遅いよー、レオン!僕探しちゃったよー」
 のんきな声だった。振り向くと、見慣れた顔。座っていた椅子から立ち上がり、嬉しそうに手を振る 少年は、間違えなくレオンの親戚のルーンバルト・サルン・ロト・サマルトリアだった。

 のんきそうな顔。そして、前のテーブルにはおいしそうな食事。
 …判っている、ルーンに悪気はない。こいつが悪いわけでもない。のんきな声も、ルーンの地だった。 しばらく会っていなかったがこいつはぜんっぜん変わってない。だからこそ、よく分かる。
 だが、
 レオンは顔全体に笑みを浮かべていった。それはとても物騒な笑みだった。
「一発殴らせろ、ルーン。」
 レオンはのんきに笑うルーンの肩に手を置く。
「え、ちょ、ちょっと待ってよー、レオンー」
「やかましい!俺がどんだけ苦労したと思ってやがる!!!」
 がすん、と頭に一発入れる。
「痛いよーレオンひどいよー」
 そういいながら、ルーンはへらへらと笑っている。
 本当に変わっていなかった。最後に会った、ルーンのままだった。
「でも苦労ってなに?セラからの伝言、聞かなかったのー?」
「いや、聞いたけどな。まぁ色々あったんだよ。ああ、そうだ。その姫が心配してるって言ってたぞ。 あとリィンが見つかったらリィンの顔見せに戻って来いってさ。」
 笑いながら、レオンは言った。ルーンも頷く。
「うん、わかったよー。セラ、心配してたんだねー。泣いてなかったー?」
「しらねえよ。んなこと。女の心配なんてしてられっか、うっとうしい。」
「ふうん…でも、リィンのことは心配なんだよねーレオンは。」
 にっこりと笑いながら言うルーンのご飯を奪いながら、レオンは怒鳴りつけた。
「お前だって心配だろうが!!」
「当たり前だよー。僕、リィンのこと、好きだもんー。心配だよねー。」
「お前、そういうことはあっさり言うなよ…」
「えー、どうしてー?」
 まったく邪気のない顔だった。深い意味はないんだろう。レオンは机に突っ伏して頭を抱えた。
「あ、大丈夫ー?どっか悪いのー?僕、レオンのことも好きだから心配だよー。」
(こいつ、実はサマルトリアで女泣かせで有名なんじゃないか?)
 そんなことを考えているレオンも、影で女を泣かせているのだが、本人には知られていないことではあった。


「で、これから行くのー?」
 ルーンの言葉にレオンは身を起こす。
「いや、それなんだがな。…お前、銀の鍵って知ってるか?」
「銀の扉の鍵だよねー?うん、知ってるよー?いるのー?」
「おう、俺はこの先、必要だと思う。二度手間を考えたら取っておくべきだと思う。」
 その言葉に、一度ルーンは頷いて…それから首をかしげる。
「レオンがそういうならいいと思うけどー。でも僕、リィン、心配だな…。」
「…そのことなんだけどな。多分、ムーンブルク城はもう、駄目だと俺は思ってる。…俺やお前の家に来たやつは、比較的 早く城から抜け出せたやつだと思う…俺のところに来たやつも、ひどい怪我をして死んじまった…だから、城で 生き残ってるって可能性は…多分俺は低いんじゃないかって思ってる。」
 その言葉に、ルーンが目を伏せる。分かっていたことだから。勢いよく飛び出したけれど、おそらくは…
「うん…そうだよね。でも僕、リィンや王様が生きてるって…。」
「ああ、もし真っ先に逃げ出してくれてたら…。二人を誰かが逃がしてくれたら…」
 レオンがその言葉を言ったとたん、二人の脳裏の一人の王女が浮かぶ。勝気で責任感が誰よりあって、強き魔力を 持つ王女だった。
(あのリィンが…逃げ出す…か…)
 レオンがため息をついた。そう考えると可能性はむしろ薄いような気さえする。それは、ルーンも同じようで、 少し哀しげな目をした。
 だが、それを振り払うようにルーンは言った。
「だったら…鍵を取りに言ってもタイムロスにはならないよね、きっと。」
「ああ、場所知ってるか?お前の親父さんのところか?」
「うーん、昔聞いたことがある話だから、確かなことじゃないと思うけどー・・・怒らない?」
 顔色をうかがいながら言うルーンに、レオンは少しいらだった。
「あー、分かったよ。間違ってても怒らねえから言ってみろよ。」
「うん、あのね。昔父様が、西の洞窟を探検してるときに、落としちゃったんだって。湖に囲まれた洞窟だよ。」
「…落としたぁ!!?」
「うん、持ち出して、落としちゃったって。…内緒だよー。」
「それ、大問題なんじゃないのかよ!悪人が拾ったらやべえだろが!!!」
 思わず怒鳴ったレオンに、ルーンがやはり笑いながら言う。
「あははー、父様、のんびりやだからー」
 レオンのこぶしがうなった。
「お前、そこ笑う所じゃねえだろ!」
「ひどいよー、レオンー。怒らないって言ったのにー。」
 頭を抑えながら笑うルーン。
「やかましい!!!とにかく飯食ったらとっとと寝て、明日出発するぞ!!」
「うん!あ…。」
 一度顔を輝かせたルーンが机に目を落として、シュンとした。
「どうした…?」
「あれー?レオン…僕のご飯がないよー?」
「お前…今目の前で俺が食ってただろうが…」
 今日の疲れがどっと体にかかり、レオンは机にへばりこんだ。


 すでにゲームと違った展開を見せ始めてる精霊のこどもたちですが、この先ますますずれていく予定でございます。
 次回は洞窟探検です、どうぞよろしくお願いしなす
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