「あら?」 声をかけてきたのは、平凡な若い女だった。 「もしかして、あなた、レオン様じゃない?」 レオンは思いっきりあとずさった。 「ル、ルーン、任せた!」 「そんなわけには行かないよー。レオンの名前を呼んでるじゃないかー。」 「うっせえ、俺はあんな女しらねえ!」 ルーンの背中をずいっと押し出し、レオンはその影に隠れた。 「こんにちは!僕ルーンって言います。貴方は?」 「私はエイミよ。では貴方がルーンバルト王子ですのね、はじめまして。」 女は丁寧に礼をしてみせた。…その姿は普通の町娘には見えなかった。 「貴方は、レオンの知り合いなの?」 「いいえ、直接お会いしたことはないわ。けれど、分かります。お父上そっくりですもの。」 「と、とりあえずその話し方はやめてくれないか。」 娘が若い男に敬語を使っていることがどれだけ不自然かくらい、レオンには分かる。現に何事かと 通りかかった人たちがこちらをじろじろと見ていった。 「そうね。それはまずいわ。では失礼して。レオンさ、レオン。貴方はどうしてこんなところにいるの?」 「レオンはね、リィンを助けに来たんだよ。」 「ちげーよ!いや、そうだけど、王様や城のみんなが困ってるようなら助けたい、見捨てたくねえって思っただけだ!!」 「そうなの…ローレシア王は結局援軍をお出しにならなかったものね。城は壊滅しております。 王子ににできることは何もないと思いますわ」 その言葉を聞いて、レオンは思い当たった。 「もしかして…ここで親父に手紙を送ってるやつか?」 「ええ、私はローレシア王のお言葉で、ここからムーンブルクの情勢を探る仕事をさせていただいております。」 「ああ、そうか。悪いが黙っておいてくれ。」 それだけ言うと、レオンはきびすを返した。そのあとを追いかけながら、ルーンはエイミに頭を下げた。 「うん、お願いだよー。じゃあ、頑張ってねー。」 「あ、待ってください!」 そう言って、エイミはレオンを呼び止めた。 「なんだよ。」 「この町の北のはずれ。建物の影にたった一人、ムーンブルクの生き残りの兵士がおります。もし何かのお役に立てれば…」 「ああ、悪い。じゃあ。」 頷いて、レオンは今度こそ足早にエイミから遠ざかった。 足音が近い。ここは人より地面に近い。だから良く聞こえる。 ここの人たちはこんな自分にも優しく、ご飯をくれる。 変わらぬ生活。変わらない、優しい人たち。 …では、わたくしたちのしてきたことは?わたくし達の存在意義は? 一体なんのために、わたくしはやってきたの? 目の前に、青と緑の光。 ”これが、あの言ってた犬か?” ”可愛い犬だよねー、よしよし” そういって、なでてくれた。その手は暖かい。思わず二人に擦り寄ってしまう。 その二人の名を、知っていた。 レオン、ルーン。 助けに来てくれた。 それは自分の心の中に入り込んだ。 …そう思っていた。助けに来てくれるなら、きっとこの二人だと。自分を元に戻してくれるのは、 きっとこの二人だと。 …決めた誓いが果たされる日は近い。それが、自分の最後の支えだった。 自分の最後の存在意義。自分ができる最後のこと。 それは町の端っこ。あまりにも目立たないところで、その兵士は生活していた。 傍らにおいてあるその鎧にはほとんど傷がなく、男も無傷だった。 「おい!」 ぼんやりとたたずんでいる男にレオンが声をかけると、男は飛び上がるようにこちらを向いた。 「なんだ?」 「ねえ、ムーンブルクに勤めてた兵士がいるって聞いたんだけど、貴方のことですか?」 荒々しいレオンを押しとどめて、ルーンが人懐っこく聞いた。 だが、男は震え出した。 「お前たちは…誰だ…どうして、どうして私にそんなことを聞くんだ!」 「そんなことはどうでもいいじゃなねえか!」 「嫌だ!関係ないのなら、ほっておいてくれ!!私に話せることは何もない!!」 体を抑えて、うずくまる兵士。ルーンは尋ねるようにレオンの目を見、レオンは仕方なさそうに ため息をついた。 「あんな、俺は…レオンクルス・アレフ・ロト・ローレシア。」 「僕はルーンバルト・サルン・ロト・サマルトリアだよ。僕たち、リィン達を助けたくて来たの。お願いだよ、 教えて欲しいんだ、お城で何があったか。」 一瞬、二人を呆けたように見た。だが、ルーンやレオンの服に施されたロトの紋章の装飾、そしてレオンの顔を見て、 納得したようだった。 「…あの時、私は門番をしていました。リィン姫の精霊の儀式が近いと告げられておりました。ですから私たちは いつにも増して、厳重な警備をしていたのです。ですが、私は退屈で、空を見ておりました。 …すると先ほどまで晴れていたのに、遠くから黒い雲のようなものがこちらに近づいてくるのが見えたのです。 その雲は不思議な動きをしていました。そして、私は気がつきました。それが雲ではなくモンスターの群れだと言うことに。」 兵士は淡々と語った。感情を抜け落としたように。 「徐々に地響きがしたんです。地面からもモンスターが来ました。…姿はまだ見えませんでした。ですが…」 そこで初めて感情を吐き出した。 「私は、そこで余りの恐ろしさに城から逃げ出したのです。…今ごろムーンブルクのお城は……。」 「お前は務めを果たさず逃げてきたのか!!!」 そこまで聞いて、レオンの怒りが爆発した。 「恐ろしかったのです!申し訳ありません…リィン姫様!!私は、私はどうして逃げ出してしまったのでしょう… 恐ろしかったのです、死にたくなかったのです!!」 「お前は、お前は何をしたか分かってるのか!!お前は全てを見殺しにしたんだぞ!!」 「私は死ぬのが恐かったのです!!ですが…このような私が死なないことに 一体何の意味があったのでしょう!どうして私は命を賭して戦えなかったのでしょう…ですが… やはり死にたくないのです!!私の命に意味などないのに!!」 「そんなこと、ないよ。」 ルーンの声が、静かに響いた。 「ルーン…?お前怒ってないのか?」 レオンの言葉に、ルーンはにっこり笑う。そして兵士に話し掛ける。 「大丈夫、貴方は生きていてよかったんだよ。貴方が生きていないと駄目だったんだよ。 貴方にしかできないことがきっとある。まだないかもしれないけど、これからきっとあると思うよ。」 「こんなへたれに何ができるって言うんだよ!!」 レオンはルーンに怒鳴りつける。レオンの言葉に兵士も同意のようだった。 「そんな嘘はいいのです。確かに私には何もできない…ここで悔いて朽ち果てていくだけだ…」 「少なくとも、僕は嬉しかったよ。貴方が生きていてくれたなら、他に生き延びた人がいるかもしれないもの。」 そう言っても、兵士の言葉には響かなかったようだ。うつむいて、側にある焚き火を眺めた。 もう、何も語らなかった。レオンもここにいるのが不快なようだった。 「こんなところには用はねえよ。行こうぜ、ルーン。」 「うん。」 夕暮れが近づいていた。 「今日は休もうぜ。明日、城のほうに言ってみようぜ。」 「そうだね…何か、手がかりがあるといいね。」 やがて来る明日に、思いをはせた。 蒼夢の小説にしては、急展開です。もうここまで来ましたよ。一応リィンも出てきましたし。自分でも びっくりしてます。星の導くでは勇者が旅立つのに3話かかったと言うのに!! せっかく鍵を取りましたが、多分この先銀の鍵が大活躍する描写は出てこないと思います。いや、 とらないのはあれなので…(一応そこらへんは原作に忠実にやりたいのです。この先さらに原作無視の展開に なっていく予定なので。) 次回は鏡まで進めると思います。はたして無事リィン登場なるか!よろしくお願いいたします。 |
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