壁の隙間から、城の内部に入り込む。中も庭とさほど状況は変わらない。毒は内側まで入り込み、 美しい装飾は端からはあらされ、金目の物は全て奪われていた。いまだモンスターが いるらしく、レオンたちはそれを蹴散らしながら進まなければならなかった。
 そこは、死者の支配する空間。死臭と闇が全てだった。
 だが、その目の前にゆらりと揺らめくもの。
「…あそこ、なんか灯りがちらちらしてねえか!?」
「うん、動いてるよ!誰かいる!!」
 二人は一気に走る。崩れ落ちた壁を乗り越え、踏み荒らされた絨毯を蹴飛ばし、進んだ先に…灯りがあった。
 それは、文字通り魂の灯り。
「人魂だー、僕、はじめてみたよー。」
「そういう問題か!?」
 ゆらゆらと揺らめいている人魂から、声がもれる。
「魔物だ!!ハーゴンの軍団が攻めてきた!!助けてくれ―――――――!!」
「おい、お前、攻めてきた魔物はハーゴンの手の者だったのか?なんでそれが分かったんだ?」
「助けてくれ、俺は死にたくない!死にたくないんだ!!!!」
 レオンの問いに答える耳ももたず、目も見えないようだった。
「…駄目だよ、レオン。きっと、聞こえてない。」
「ああ…でも、こいつは駄目でも誰か、…分かるやつがいれば、なんかヒントになるかな。」
「そうだね、探してみよう。」

 そう言って、二人は灯りを探し始めた。揺らめく影を求めて歩く。
 そして…そこは王の間。堂々とした玉座はモンスターの爪によりずたずたにされていたが、そこに 一つの灯りを見つけた。
「…だれか、おらんか…。わしは、この城の主…ムーンブルクの王の魂じゃ…誰か、おらぬか…」
「王様!?」
「ムーンブルク王…助から、なかったのか…」
 二人は人魂の前で頭をさげた。
「ムーンブルク王。このような場所でお目にかかること、申し訳ありません。僕はサマルトリアの 王子、ルーンバルトです。」
「ローレシアの王子、レオンクルスです。…このような形でお目にかからなければいけなかったことを、 残念に思います。」
 たとえ死者でも、いいや、死者だからこそ礼を尽くさなければならないと、二人は思った。
「王様。リィンはどうなったか、ご存知ありませんか?」
「…リィンは、呪いをかけられ…犬に、された…」
「犬!!?」
 レオンの驚きの声に介さず、ルーンが王の魂に意気込んで聞く。
「一体誰に?どうして?」
「…あのときのことは、もはや記憶から流れた…わしは…。探さねばならぬ…。…だれか、 おらぬか…わしは、ムーンブルク王じゃ……おらぬか…。」
 ふらりふらりと人魂が動き出す。
「…レオン、行こうか。」
「ああ。」
 レオンは剣を抜き、真正面に構え礼をした。それが、ローレシアでの死者を見送る礼儀であった。 サマルトリアにはその風習はなかったが、ルーンも同じように剣を立てた。
「強き優しき魂が、ロトの勇者と共にあるように。アレフ王よ、アレフの子は ふさわしき戦いを勝ち抜いてきたもの。眠りし者は勇者の偉業を成し遂げたもの。勇者として天上にあがれ。勇者の 加護が全てを包み込まんことを。」
 その言葉は、ローレシアでも王の三親等までにしか使われない特別な送りの言葉だった。目の前にゆらゆらと ゆれている魂に、魂の安らぎを祈るのは奇怪なことであったが、レオンはかまわず言い、剣をおろした。
「いこうぜ。」
 二人はもう一度礼をして、玉座に背を向けた。


 王の間を去り、廊下を歩く。
「とりあえず、全員に聞こうぜ。あとどれくらいの人魂がいるかしらねーけど。」
「…うん。良かったね。…本当に、よかった。」
 嬉しそうに笑うルーンに、レオンは顔をしかめた。
「何が嬉しいんだ?王様は死んじまってたぞ。」
「それは…とても哀しいよ。でも僕、リィンが生きててくれて、本当に嬉しいんだ。呪われてるなら呪いを解けば良いよね。 …ちゃんと、リィンに逢えるんだよ、もうすぐ。…良かったよ…」
 安堵するように、幸福に酔うようにルーンは言った。レオンはそんなルーンに軽くヘッドロックをかける。
「ああ、そうだな。良かった。…行こうぜ、リィンが待ってるぜ。たっぷり恩を着せてやろうぜ。」
 ルーンの前向きな言葉に、レオンも知らず、顔がほころんでいた。

 倒れた壁の破片をよけながら、広い城を歩く。当たり前だが全員が人魂になっているわけじゃないため、 動くものはモンスター以外ほとんどない。
「あっちに、なにかいるよー。」
 見るとかつて部屋だっただろう場所の、壁の向こうに影が揺らめいている。二人は瓦礫を乗り越えて部屋に入る。 案の定、人魂が揺らめいていた。
「なぁ、お前…」
「誰か、いるのか…誰でもいい…聞いてくれ…此処から東の地、4つの橋が見えるところに小さな沼地がある と…そして、その中に、ラーの鏡が…」
「ラーの鏡?ラーの鏡って何だ?」
 レオンの問いに、人魂が答えない。
「このことを、誰かに伝えねばならぬ…そうせねば、死ねぬのだ…誰か、きいてくれ…ここから東の地に…」
「…駄目だな。行こうぜ、ルーン。」
「うん、でもこの人、重要なことを教えてくれたんじゃないかな?」
 そう言って、ルーンは人魂に話し掛けた。
「僕たち、確かに聞いたよ。東の4つの橋が見える沼地だよね。…だからゆっくり休んで。」
「ああ…」
 おそらく、その場しのぎの言葉でしかない。もはや過去も未来もない人魂に、新しく記憶することは できないのかもしれない。
 だが、その場だけでも救いたかったのだろう、ルーンは。
「ごめんね、行こう、レオン。」
 そうして、また奥へ進む。瓦礫を避け、乗り越え…そして、地下室に、着いた。

 毒の沼地の真ん中で、兵士が一人死んでいた。レオンが駆け寄る。
「…まだ、生きてるか?」
 わずかに口元が動いた。
「大丈夫、ちょっと待って!」
 ルーンが急いでホイミをかけるが、それはほとんど聞かなかった。
 口元から、毒がもれる。
「…これを飲んで、生きていたのか?」
 毒を飲めば死ぬ。だが水分を取らなければさらに死は早まる。
 怪我でもはや動くことができない兵士は、助けがくるまでただひたすらに、毒を飲むことで生を保っていたのだった。 …たとえ、その毒が原因で死ぬことになっても。
「待ってろ、今助けてやるからな!」
 その言葉に、兵士はわずかに首を振った。


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