「あぁぁぁ…」
 ルーンがうめく兵士を持ち上げようと体を支えて、ささやく。
「話さないで!今から町に連れて行くから…」
 それからルーンはキアリーをかけた。だが、体に毒は回りきっていて、もはや呪文ではどうしようもない。 それでも体が少し楽になったらしい、兵士は語り始めた。
「いや…いいのだ、お前たちが、来てくれた…死ぬことは、いいのだ… ただ、聞いて欲しい…」
 ルーンはレオンを見た。レオンは頷いた。ゆっくりと地面に横たえさせる。
 末期の言葉だった。それは自らの未練でも、家族への伝言でもなかった。
「…私は、姫様をお守りすることが、できませんでした…。そのため…姫様は呪い で姿を変えられ、どこかの町に…しかしもし、真実を映し出すという、ラーの鏡が、あれば… 姫様の、呪いを解くことができるでしょう……旅の、人よ…どうか、どうか姫様を… いたらなかった私に変わって、姫を…た、す…」
 ゆっくりと、口が止まる。最後のほうは声になっていなかった。
 そして、男の顔が地面に伏し…体から炎が、ぼわっとあがる。その炎はゆらりと揺れた。
「ラーの鏡で、姫様を…どうか…」
 ゆらゆらと、その言葉を繰り返していた。

「…人魂って、こうして生まれるんだね…」
 涙ぐみながらもボケた感想を言うルーンに、レオンが一撃を入れる。
「ボケたこと言ってねえで行くぞ!」
「うん、ねえ、レオン。」
 死者を簡単に弔ったあと、外に出ながらルーンが得意そうに話す。
「ラーの鏡って、聞いたことあるよ。かのロトの勇者が、王に化けていたモンスターを倒すために使った 伝説の道具じゃなかったかな?どうして沼地になんてあるんだろうね。」
「そうなのか。ロトの伝説の道具…やる気が出てきたぜ!行くぞ!」
「あ、でも、使うと砕けちゃうから、それとは別物だろうけどねー。」
 レオンはつんのめった。
「なんだそれは!」
「僕も良くは知らないよー、レプリカかもしれないし、神様がたくさん作ったのかも知れないねー。」
「…まぁ、使えりゃなんでもいいか。行こうぜ。」
「うん。」
 そうして、死に包まれた城を、二人は後にした。


 二人はひたすら太陽に背を向けて歩いていた。すでに日は、半分暮れていた。
「…ちくしょ、できれば夜になんのは勘弁してくれよ…」
「そんなことお日様に言っても無理だよー。」
 ルーンに一発けりを入れて、レオンはひたすら歩く。
「ひどいよレオン―。」
 他愛のない会話をしながらも、ルーンも歩いた。
 ムーンブルク周辺は水多き場所だった。だからこそ発展したとも言える。 海から、山から水が流れ込み、多岐の川が流れていた。ゆえに、橋も多く…そして沼地も多かった。
「ちくしょ、…ここは三つしか見えねえ…」
「うーん、ここから橋は二つだけだよー。」
 そんなことを言いながら、二人はひたすら東に向かう。
 先ほどうっかり沼地に落ちてしまったレオンが、ぬめぬめとした泥を落としながら、毒づく。
「くそう…ぜってえリィンに恩着せてやる…」
 ずりずりと石に泥をなすりつけること、しばし。
「レオ―ン!レオン!こっちきて!ねえ、四つ見えない?」
 ルーンの声に、レオンは駆け出す。ルーンは沼地の近くで手を振っていた。

「ほら、こっち。西に二つ、北に一つ、北東にひとつ。ね?」
「おう、確かにな。良かった、結構ちっさい沼地だな。」
「うん、きっとすぐに見つかるよ!頑張ろう!」
(考えてみりゃまた俺は、沼の中入んのかよ…)
「ルーン、任せた!」
 回れ右をするレオンに、ルーンは沼地に入りながらも文句を言う。
「駄目だよー。そんなことじゃ、立派な勇者にはなれないよ、きっと。」
「関係ねえだろ!!」
「そんなことないよー。アレフ様だって、きっとこうやって沼地に入って物探ししたと思うよ?」
「適当なこと言ってるなよ…畜生、分かったよ、探しゃいいんだろ、探しゃ!」
 レオンのやけくそな言葉に、ルーンは満面の笑みを浮かべた。
「うん、一緒に探したほうが、きっと早いし楽しいよ。」
 幸いなことに、それほど時間はかからなかった。
「あったよ、レオン!」
 茜に染まる空の下、ルーンの手に、美しい鏡が光っていた。
「よっしゃ!もうここに入ってなくてもいいんだな!とっとといこうぜ!日が暮れちまう!」
「うん!…はい。」
 ルーンがにっこり笑ってレオンに鏡を手渡した。
「なんだよ?」
「レオンが使ったら、いいよ。きっとその方がいいと思うんだー。」
「あ?」
 首を傾げるも、レオンはしぶしぶ鏡を道具袋の中に放り込む。
「じゃあ、いこっか。リィンが待ってる。」
「ああ。」
「多分、広場であった、あの犬さんだよね、覚えてる?」
「ああ、そういやなんか気ぐらい高そうな、生意気そうな顔してたよなー。」
「駄目だよ、レオン、そんなこと言っちゃー。」
 夕闇は、すぐそこに来ていた。


 自分は、ようやく元に戻れる。
 それは悲願だった。半分あきらめていた。けれど、この姿のまま、死ぬわけにはいかなくて。
 どうすれば元に戻るかはわからないけれど、あの二人なら…きっと元に戻る方法を見つけてきてくれる。
 ”レオン、相変わらずでしたわね…”
 そう思うと、荒みきった自分の心が、少しだけまっすぐになれた気がした。そして、誇り高く なれる気がした。
 …そう、きっと自分は元に戻った瞬間。レオンに抱きついてしまうだろう。…そして、その腰に自らの 手をまわしてしまうだろう。
 来るべきそのときを、リィンはずっと待っていた。


 とたんに展開が遅くなってみたり。リィン出てこないし。いや、次で出てくるんですよ?ただちょっと切るタイミングが つかめなかったので、きっぱり次回に回しました。
 どうやら蒼夢は人が死ぬシーンは押しなべて長くなるようです。不思議。死がドラマだ!と思っているわけではないですが、 脇役の人の死を軽く扱えないタイプらしい。

 そういえば注意事項をすっかりと忘れてました。この小説は基本的にはSFC版を参考にしております、が 都合よくFC版が入ってくる場合があります。(リィンの髪色、歌姫アンナ等)ご了承くださいませ。 あと、SFC版でも実は「リィン」という名前は使えません(ちいさなィが入らない)。
 …といってみても星の導くの方も都合よくFC版が入ってたことを今唐突に思い出してみたり。
 では次回も、よろしくお願いしますー。

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