海より深く重い沈黙だった。
(こいつは…ずっとそれを悩んで来たのか?)
 見上げたレオンの目には、無表情なリィンの顔。
 吐き出してすっきりしたような、それでいて心が傷ついているような…それともなんとも思っていないのか。 女心などとんとわからないレオンには、判断がつかなかった。
 だいたいいつだってまっすぐで、強くて、誇り高いやつだと思っていたのに、こんな悩みがあるなんて ちっとも気付かせなかった。
(ルーンのやつは知ってたか…?)
 ちらりとルーンを見て、レオンは考え直した。
(それはねーか。知ってたならあんな推測は出さねえだろうしな。)
 ルーンはずっと何かを考えているようだったが、ようやく何か結論が出たようで、口を開く。

「でも、リィンは結局精霊の儀式に出たんだよね?」
「え?いいえ、精霊の儀式は結局行われることはありませんでしたわ。」
「そうじゃないよ―リィン。結果的には…駄目だったけど、もしそうじゃなかったら精霊の儀式はちゃんと 行われてたはずだよね?…もし、本当にリィンが血のつながりがなかったら、それだけ神聖な儀式が失敗する ようなこと、王様がするかな、って。もしかしたら他に理由があったかもしれないよ。」
「他の理由ってなんですの?」
 リィンの言葉に申し訳なさそうにルーンは首を振る。
「ごめんね。それは分からないや。でもね、僕はリィンが大好きだし、お父さんもお母さんもきっとリィンのこと 大好きだったと思うよ。」
「・・・」
「わからないこと、たくさんあるけど…きっとそれだけは本当だよ。だってね、僕たちが王様にリィンのこと尋ねたとき とっても心配してたもの。ね、レオン。」
「あ、ああ?」
 そんなこと言ってだろうか、とレオンは思い出してみる。
「あのね、リィン。リィンが犬にされたとき、王様、もう死んじゃってたはずなんだ。でもね、僕たちに 『リィンは犬にされた』って教えてくれたんだよ。それは死んだ後もリィンが心配で見てたって事だよ。それって きっと大好きだったってことだよね。」
 どんなことも、好意的に、前向きに考えられるのはルーンの特技だった。そして その笑顔で言われると、なんとなく納得できるような気がするのだった。
「僕はリィンを大切な親戚だと思ってるよ。レオンだってそうだよね。」
「ああ。あのな…」
 そう言って、暫くリィンを見つめ…
「なあに?」
「なんでもねえよ。」
 結果口を閉ざした。


「それでね、僕、考えたんだけど。」
 リィンが何も言わぬうちに、ルーンが話を切り出した。
「フェオさんがハーゴンかハーゴンじゃないかって話なんだけどねー。」
「ん?なんだよ?」
「なにか分かったんですの?」
 二人の視線を受け、ルーンは微笑しながら言った。
「どっちでもいいんじゃないかなって思ったんだー。」
 そう言った瞬間。
「なんだと!」
「なんですって!」
 二人のハーモニーが部屋中に響いた。
「お前なあ、どういうことだよ!」
「言うに事欠いて…それはないんじゃありませんこと?」
 二人に詰め寄られ、少し後退しながらもルーンは二人を説得する。
「でもレオン…もしもだよ、もしもフェオさんがハーゴンだったとしたら、城をあんな風にして、沢山の 人を殺したのがハーゴンだったとしたら、レオンはフェオさんの味方をするの?」
「…それは…。」
「レオンはありえないって思うかもしれないけど、考えてみて。フェオさんが、レオンには言えない ムーンブルクへの恨みを抱えてたとしたら。そうしてハーゴンと名乗ってあんな風にしてしまったとしたら。 レオンは、許せるの?」
 レオンは、一瞬だけ考えた。だが、答えなどとうに出ている。
「そんなフェオは、俺の知ってるフェオじゃねえ。ただのハーゴンだ。」
 悪を倒し、勇者になるのだ。ずっと憧れていたのだから。そんな迷いは、あってはいけないのだから。

「リィンは?もし、ハーゴンがフェオさんじゃなかったら。そのときは仇は討たないの?」
「そんなことはありえませんわ。…確かに確かめたい気持ちはあります。ですが、目的は敵討ちです。相手が 誰であろうとわたくしは迷いませんわ。」
 リィンは間髪いれずそう答えた。
「だったら一緒じゃないかなって。それに、ここで考えててもきっと分からないよね。レオンもリィンも 自分の思うことを信じてたらいいと思うよ。それを信じて、確かめるために旅をして、一緒にハーゴンを 倒そうよ。それが、誰であっても。…僕は、そうしたいな。」
 ルーンは一人、部外者だった。フェオのことはまったく知らず、何も思い入れがない人間。
 だから、そういう決断が出せるのだろうか。それともそんなこととは関係なしに、『ルーン』だからこそ 出せる結論だったのだろうか。
「お前は気楽だよなー。」
「うん、ありがとう。」
 レオンの言葉にルーンはにっこりと礼を言った。
「褒めてねえぞ。」
「あれー、そうなの?」
「そ・う・だ・よ!」
 ルーンの髪をぐしゃぐしゃにかきむしりながらレオンは念を押した。
 それを見ながらリィンは笑う。…いつもの空気が戻ってきた。

「そうですわね。結論の出ないことを考えていても無駄ですわ。今は…進まなくては。」
「そうだねー。でも、どこにいるのかなぁ?」
 ルーンの言葉に、リィンがつぶやく。
「…おそらく、封印されし土地、ロンダルキア…」
「どこだ?それ?」
「中央大陸の真中、山脈に囲まれた土地です。かつては罪人の流し場所だったとも、魔法の研究所だとも 言われている秘された場所。異空間に連なっている極寒の土地だという話も聞いたことがありますわ。ただ…」
「ただなんだよ?」
 レオンの言葉に今度はルーンが答えた。
「山脈に囲まれてるから、入り口がないんだよー。どっから入るかわからないんだって。」
「じゃあ、どうやって出て来るんだよ?」
「羽根があるモンスターならば出入り可能ですわ。あとは呪文を使えば何とでもなります。…ですが、 これは根拠のない話ですわ。ただ、あのようなモンスターの大群がいる場所はあそこなのではないかと わたくしが思っているだけですから。」
 リィンの言葉にレオンがため息をつく。
「まぁな。どの道、船を手に入れないとはじまらね―よな… でも、ローレシアの港とムーンブルクの港は今閉鎖されてるっぽいしな…」
 三人の少しの沈黙。
「ルプガナ、なら船があるかもしれませんわ。あそこは完全な自治区ですから。」
「でも、たしかここからルプガナに行くにはドラゴンの塔のつり橋をわたるんだよね?でも、確か ドラゴンの角のつり橋…以前にモンスターに落とされたって聞いたよー」
「ええ、事実ですわ。…八方ふさがりかしら…」
「でも、とりあえず明日、塔へ行ってみようよ。何かわかるかもしれないよ。」
「ええ、そうしましょうか。」
 ルーンの提案にリィンが頷いたが、レオンは頷かなかった。ルーンの首に腕をかけて首をしめる。
「バカヤロ、いっぺんサマルトリアに帰るんだよ。」
「えー、どうしてー?」
 手でギブアップを示しながらも、ルーンはのんびりと聞く。
「サマルトリアに、何かあるんですの?」
「んー?何にもないと思うんだけどなー。」
「おまえなぁ、約束、忘れたのかよ…忘れんのは勝手だけどよ、後で泣かれても俺は知らねーぜ。」
 そう言われて、ルーンはやっと思い出した。
「あ、そうだ。リィンが助かったらね、セラが会いに来てって。とっても心配してるんだって。うん、 一回帰ろうよ。」
「まぁ、セラが?」
「まぁ、むやみに進んでもヒントもねえしな。とりあえず戻っぞ。姫が泣いてもうっとうしいしな。」
 ぼりぼりと頭を掻くレオンに、苦笑するリィン。
「それじゃ、とりあえず明日サマルトリアに戻りましょうか。」
 その発言に同意すると、リィンとレオンは部屋を去り、ルーンはベッドに身を任せた。
 ゆっくりとした眠りへ、三人は同時に入っていった。


 次回は…風の塔に挑む予定です!ようやく冒険が始まります!が、その前に寄り道を…

 なぜかルーンが探偵役になってます、が役立たずです。情報が足りませんからね。そのうち 見事な推理を!…してくれるでしょうか?果たして?
 追記:ローレシア港、ムーンブルク港の設定は「キャラバンハート」からいただきました。 ドラクエ2にはありませんのでどうかご了承くださいませ。

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