少し、顔が赤らんだ。
 嬉しかった。レオンの言葉が。
 可愛くないと思っていたその行動が、レオンに受け入れられた理由だったことが。
 レオンといると、いつも誇り高くいられる。いつだって強くいられる。強くいなければ ならないと思える。
 だからいつもどおり、すまして言った。
「まぁ、今となっては聞いても詮無いことですわね。…国はありませんし、婚約もなかったも 同然ですものね。」
 その言葉に、レオンは少し考えた。
「…なぁ、リィン。」
 レオンが真顔になった。
「なんですの?」
「言うなよ、ルーンに。」
「なんのことですの?」
 レオンの気に押されながら、リィンがいぶかしげに言う。
「婚約のことだよ…いいか。絶対、言うなよ!」
 自分でもよくわからなかった。ただ、レオンはなぜか『ルーンには言ってはいけない』 そう確信していた。
 …そして、その思いはリィンにも伝わった。
「別に、言いませんわよ。あえて言うほどのことでもありませんもの。」
「…そうだな。わりぃ、ただなんとなくな。」
 そうして二人は黙り込んだ。ただ、ぱちぱちと火がはぜていた。
 リィンがレオンの肩にもたれかかって眠るまで、そう長い時間はかからなかった。


 太陽が頂点にたどり着く前に、三人はドラゴンの塔のふもとまで来ていた。
「やっぱり、橋は架かってないねー。」
「…そうね。」
「まぁ、とにかく行くか。しかしなぁ、なんだって塔の上に橋なんて架けたんだよ畜生…。」
「あまりにも横たわる河のの流れが激しくて、雨で増水すると容易に橋が流れてしまうからですわ。 歴史で習いませんでしたの?」
「知ってるよ!」
 昨夜のリィンは夢だと、思った。
(つーか、詐欺だろ、あれは!)
 別に意識しているわけではないが、妙に悔しい。
 あの件はきっぱり忘れよう。レオンはそう心に誓った。
「じゃあ、とっとと行こうぜ。向い側にたどりつく風を待たないといけねーだろ。」
「そうだねー、7階まであるって話しだしー。」
 …そして、ルーンに対する罪悪感をすっかり押し込めて、レオンは塔に入った。


 ドラゴンの塔は通行に使われていただけあって、シンプルなつくりだった。
「それにしても…埃っぽいですわね…」
「あんまり人も、通ってないんだろうしねー。」
 かつてはここの管理人だったであろう人たちが、通れないと忠告するためにいるくらいで、他に 人通りはない。
「その前に…そのマントでちゃんと飛べるのかしらね?伝説の品ですし…」
「駄目だったら僕がルーラするよー。とりあえず試してみようよー。」
「まだ、なんちゃら石は置いてあるんだよな?」
 冷たい視線をレオンに向けるリィン。
「ルーラの基石ですわ。置いてあるの?」
「うん、あの石は置きっぱなしにするよー。ルプガナについたら、この石をまた誰かに預かってもらおうかなって 思ってるよー。」
 そうして見せた石は、上が先がとがった四角錐で、確かにムーンペタにあった石と同じだった。ただ、 魔力が宿っていないのか、光ってはいなかった。
「…あら?何か書いてありませんこと?」
 よく見ると、何か文字が彫ってある。
「これー?僕の名前だよー。魔術的にも名前が一番わかりやすい目印だからねー。」
 その文字は確かにルーンバルト・サルン・ロト・サマルトリアとあった。
「よくわからねー話題は置いておけ。…ついたぞ。」
 三人は、最後の上がった。
 目の前にはすばらしい展望があった。それは塔がかかっていたらしきところの塀がが、ごっそりと抜けているからだった。よく見ると、 あちこちにこげた跡がある。
「モンスターに、焼かれてしまったのね…」
「ひどいね…また、架けられたらいいのにねー。」
「そうですけれど…難しいでしょうね。」
 向こう岸には、同じ形の塔がある。この塔の双子塔だ。
「あちら側…いいえ、あちらの大陸にさえ降りられれば、とりあえずルプガナまではすぐですわね。」
「そうだねー。レオンー、マントつけてみてよー。」
 ルーンの言葉にレオンはマントを取り出し、まとった。
 マントはふわりとレオンを包み、風を受けている。
「なんか、飛べるような気がしてきたぜ…行こうぜ!」
 レオンはそういって塔の先まで足を運ぶ。三人もそれに続く。
「…高いですわね…」
 高所恐怖症ではないが、それでも今からここから飛び降りるとなれば足が震える。
「…まあな…」
 意気込んでいたレオンだが、それでもさすがに躊躇した。
「大丈夫だよー。きっと、飛べるよー。」
 緊張をまったく感じないルーンの言葉。ふっと、二人の肩の力が抜けた。
「…いざとなったら、頼むぜ?」
「任せておいて!」
「…そんな事をいって、気絶とかしたら許しませんわよ。」
「大丈夫だよー!僕、一度飛んで見たかったんだ!ルーラみたいじゃなくてこう、風にすべるんでしょう? とっても楽しみだよー。」
 二人の言葉に、満面の笑みで答えるルーン。
 リィンが、レオンにしがみついた。それを見て、ルーンはもう一度微笑んで、レオンの腕をしっかりとつかんだ。
「行くぜ。」
「ええ。」
「うん!!」
 そうして、三人は同時に足を踏み出し…風となり、鳥になった。


 地面についている足の感覚が、浮遊の終わりを告げていた。
 三人は無事風に乗り、河を越えた。ゆっくりと下降し、穏やかに大地に足を下ろすことが できたのだった。
「やったな。気持ちよかったなー。すっげー、またやりてー。」
 レオンは妙に興奮していた。
「うん、気持ちよかったねー。リィン、大丈夫?」
 ルーンもにこやかに笑っているが、リィンの足は、少し震えていた。
「いえ、気持ちよかったことには同意ですけれど…やはり少し怖かったですわね。」
「うん、気持ちよかったけど、足が地面についていたほうが、安心するよねー。」
 にっこりと笑うルーンの言葉に、リィンが頷く。
「そーか?俺は何度でもやりてーぞ。」
「あははー、駄目だよ、レオンー。とりあえずルプガナに行かなくちゃー。」
「遊び道具ではないのですから、下手にはしゃがないでいただきたいわ、レオン。行きましょう。」
「へいへい。行こうか。」
「うん、港町だよねー楽しみー。」
 リィンの後に二人が続いた。モンスターと戦いながら、三人は大陸の最東にある町、ルプガナを目指していた。
「…ち、やっぱりこっちのモンスターはまた違うな…」
「そうですわね…敵もだんだん強くなっているのではないかしら…」
「ちょっと疲れちゃったねー。休もうよー。」
 三人は大地の真ん中で少しへたり込む。遠くに、ルプガナの姿が見える。
「うまく船が手に入るといいのですけれど…船っておいくらなのかしらね?」
「どうなんだろうねー。」
 ルーンは城から持ち出した宝石を取り出し、手のひらでころころと転がす。レオンもムーンペタやらで 換金したコインを取り出す。
「…高そうだよな。俺にもよくわかんねえけど…。まぁ、そんなでかい船はいらねーにしてもなぁ…」
「考えてもわからないよねー。とりあえず言ってみないとねー。」
「今はそうそう船も出せる状況ではありませんし、うまく言えば小さな船を貸していただけるかもしれませんわね。」
「だな。とりあえず行くぜ。」
 レオンが立ち上がる。
「うん、リィン、大丈夫?」
「ええ、平気ですわ。行きましょう。」

 そうして、少しずつ空の色が変わり、風が潮風に変わり始めたころ。
 三人は、港町、ルプガナに着いた。


 塔2連発でした。といってもドラゴンの塔はただの通り道ですけど…(脚色のしようがない…) レオンのはしゃぎ方は、ジェットコースター好きの友人を思い出しながら書いておりました。 どうして人は絶叫マシーンに乗ると、テンションがあがるのか…謎だ。
 さて、ようやくルプガナにたどり着きました。もう、すでにタイトルを決めているくらい、楽しみにしていた 回です。

 そんなわけで次回「港の恋の物語・前編」どうかお楽しみに。

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