教会で基石を預け、三人は港の方へと向かった船の様子見と値段の偵察をかねるつもりだった。
「…ほほう、船に乗りたいと申されるか?」
 船着場で出会った老人。船乗りの皆から『ご隠居』と呼ばれていることが分かり、駄目でもともとと 三人は声をかけた。
 老人はじろじろとこちらを見る。
「余所者じゃな。信用できるとも限らん奴に船などには乗せられんのう…」
 それだけを言うとふい、とどこかに言ってしまった。
「あのー、おじいさんー。どうしても駄目かなー?僕たち、どうしても 船に乗りたいんだー。」
 ルーンの人懐っこい笑顔にも老人はぶっちょう面だった。
「これ以上、余所者の言葉に耳を貸す気はない。あきらめることじゃな。」
 それだけを言うと、そのまま港を去って行った。
 その後は、誰に話しかけても無駄だと分かって、三人は港から出た。


 行く当てもなく三人は、ゆっくりと歩いていた。八方ふさがりだった。
「どうしようかー。」
「…聞く耳もってくれなかったな…どうするか…」
   そう二人で話していたときだった。
「…ねえ、レオン?ちょっと聞いてもよろしいかしら?」
 少し気まずげに、リィンが切り出した。リィンはずっと港で何も話さずに、黙り込んでいたのだった。
「なんだよ?」
「…あの。レオンがレイリィ様を殿方だと認識していたのは驚きましたけれど…まったく 戸惑いはありませんでしたの?その…ああいう職業の方にとか、男性なのに女性の 格好をしていることとか…」
 レオンなら、むしろ男の癖に女のふりをしている人間に、顔をしかめそうなものだと思った。 そしてそれはルーンも同感だったらしくかすかに頷いた。
  「レオンなら『男の癖に女なんかの格好するな!』って言うかと思ったよー。でもよく 似合ってたよね、レイリィさん。僕、びっくりしちゃったよー。」
「お前、あれでびっくりしてたのかよ。」
「えー?そう見えなかったー?」
「全然見えませんでしたわ。それで、レオンはどうでしたの?」
「いや、驚いたぜ、そりゃ。俺だって一瞬女だと思ったし、なんだって男が女の格好してんのかと 思ったけどさ…」
 そう言って、レオンは空を仰ぎ見た。でたらめに歩いたせいだろう。町の果てに三人は出ていた。
 潮騒が聞こえる。いつも見ている空の色とは違う、海に溶け込む空の色。そして、その向こう側を、レオンは見ていた。

「…いるんだよな。ああいうことやってる奴。俺のところにさ。だから、まぁ、抵抗はなかったっていうか…」
「え?レオンのところに、女性の格好をした男の人がいるのー?」
「ちげーよ!!ああいう商売っていうか、まぁ、そういうことやってる奴だよ。ちょっと違うけどな。」
「ローレシアの城下町にですの?レオン…まさかそういう場所に、顔を出していらっしゃるの!?」
 リィンの怒鳴り声にレオンは顔をしかめる。
「ちげーよ!んなとこ行くかよ!!!…城だよ。ローレシアの城に…いた。」
 一瞬、意味が分からなかった。
「あの…レオン。」
「親父専用だけどな。」
 その言葉で、リィンが大声を上げる。ようやく意味が頭に染みとおったのだ。
「で、ですがロト三国の決まりごととして、王族の愛妾の存在は認めていないでは ありませんか!」
 それは、ロト王家が成り立ったときからの暗黙の約束事だった。初代王、アレフはローラ姫一筋に 愛し、愛妾を作りはしなかったし、その子供もそれに習った。その後、サマルトリアの三代目の王 が愛妾を持とうとしたところ、あまりにも周りの目が厳しくなったため、以来王もその 兄弟も、愛妾を持った者は一人もいないことになっている。
「…俺のじーさん、先代王が若いころに始めたんだ。…もちろん愛妾とか 側室とか、そういう言い方はしてねえ。『側仕え』って言ってる。俺のところに貴族から、 若い女が、親父とか、じーさんとかに差し出されたんだと。王族が精霊の儀式を迎えると、行儀見習いとかいう名目で来る。一応 は召使ってことだけどな。やってることは、同じだ。親父の側仕えは母上は体が弱かったから、じーさんより 人数が多かった。血筋が絶えたらやばいって言うことだったけど…人数が増やせるから、体の弱い 母上を選んだって聞いたこともあったぜ。5年ほど前までは十人ほど城にもいたけど…今はどこにいったのか、俺は知らねえ。」
 レオンはそう、一気に語った。

「でも、そしたらレオンに兄弟とかいるのー?」
 ルーンの言葉に、少し居心地が悪そうに、レオンが答える。
「…兄が、いたはずだった。」
「兄…では、それはとても問題になったのではありませんか?」
 ただでさえ、側室と正室との跡取り問題は大変なのだ。現に海の向こうの国、デルコンダルでは正室三人、側室が2五人 いるせいで、後取り問題に非常にもめていると聞く。
 リィンの言葉にレオンがあいまいな表情を浮かべる。…それは、今まで見たことのない顔だった。
「母上が俺を身ごもる一年前だった…らしい。その、側仕えが身ごもったのが。女なら良かったって言ってた。 別にローレシアの国が女王を認めてねーわけじゃないけど、他に嫁にもって行きやすいからだと。… けど、おなかが大きくなって、占い師に見てもらったら…男だって分かった。」
「その人、今、どうしてるのー?」
「…その側仕えは、絶望したんだって聞いた。本当なら王になれるはずなのに…存在自体 認められてないんじゃどうしようもない…そう、考えたんだと。それで…」
 そこで一息入れた。そして。
「女は、腹を剣で貫いた。…即死だった。女も子供も。…部屋は血みどろで、ものすごい有様だったってさ。」
 二人は、言葉を失った。その言葉はあまりに鮮烈なイメージを二人の頭に与えた。


「…どなたに、お聞きに、なったのですの…?」
   リィンの声は擦れていた。のどはからからだった、
「…俺が、…いくつかな。小さかった。5歳くらいかも知れねえな。母上にねだったんだ。『兄がほしいってな』 …そしたら、聞かせてくれた。母上は、笑ってたぜ。そんなことを話しながら。」
 その薄ら笑いを、レオンは生涯忘れないだろう。…母のことは今でも慕っている。それでも やはりぞっとするのだ。
「…レオンのお母さんも、つらかったんだね、きっと。普通なら、愛妾、なんていないはずなのに。 きっと、とってもつらかったんだね…。」
 ルーンが、悲しそうに言う。レオンは頷いた。
「だろうな、母上はその後、俺にこう言ったんだよ。『ああやって、体を売って生きていかなきゃいけない人たちは、 とてもかわいそうな人だから、優しくしてあげなさい。』ってな。」
「それで、レオンは…どうしたの?」
「…なんか、違うと思った。俺は、なんていうか…多分、母上は…自分の事も含めて言ってたんじゃないかって そう思った。だから、俺は、そういう人たちを敬おうと思ったよ。… 母上は辛かったんだろうな。その人が死んでしまったことも、多分自分の体が弱かったことも。 死んで嬉しかったって思ったその気持ちも、辛かったんじゃねえかと、思うけど…それでもわからねえよ、 俺は。そんときから、女は苦手だ。」
 レオンは、自嘲していた。それでもどこかすっきりしたような、複雑な表情だった。

「お母様は、泣いてらしたの?」
「ああ、泣いてた。…泣きながら、笑っていた。俺は、だから、母上の前では泣けなかった。…ただ、見てるだけだったよ。」
「だから、フェオさんの前で、泣いたの?」
「…なあに?」
 リィンの目が釣りあがる。その名前は、聞きたくないようだった。ルーンはにっこり笑いながら言う。
「ほら、セラに言ってくれたでしょう?あれはフェオさんの言葉なんじゃないの?レオンは、フェオさんに 泣いたんじゃないかなって『もっと早く、生まれたかった』って。」
 少し顔を赤くしながら、ルーンの頭を一発叩く。
「あー、そうだよ!…もっと早く俺が生まれてたら、死ななくてすんだのに、ってずっと思ってた。… そしたらフェオがそう言ってくれたんだ。…嬉しかったよ。でもな、ルーン、そういうことは黙っとけ!!!」
「えー、なんでー?でも、僕、今のままのレオンが好きだよ。生まれるときが違ったら、また違ったレオンになってたかもしれないから、 今のままで嬉しいよー。」
 そう言ったルーンの頭ををもう一回叩く
「やかましい、男に対して好きだとか言ってんじゃねえよ!!気色わりいな!!」
「ひどいよー、レオンー。…リィン、どうしたの?大丈夫?」
 ルーンの言葉に、レオンもリィンを見た。ずっとなにやら考え込んでいるようだった。
「どうしたんだ?リィン?」
「わたくし…思ったんですけれど…『精霊の儀式』が済んだ後つけられると言うことは…」
 そうして顔を上げる。にっこり笑う顔はとても美しく…怖かった。
「レオンにもいらっしゃるのですか?『側仕え』が。」

 レオンの顔が引きつった。
 ここに来るまでに、さまざまなモンスターと戦ってきた。一人で戦ったこともあった。幾度ピンチに陥ったか 分からない。だが。
 今までで一番危険だと思った。
「そうなの?レオン?」
 その横でにっこりと笑うルーンの顔はいつもどおりだった…だが、どこか怒気がはらんでいるように見えるのは 気のせいだろうか?
「その、だな。…なんか二人とも、怒ってねえか…?」
 あとずさりながら、レオンは言った。
「別に怒ってなど、おりませんわ。」
「怒らないよー、レオンー。ただどうなのかなーって。」
(こええええ!!)
 下手に嘘をつくと、死につながるような気さえした。おとなしく本当のことを言った。
「…いることは、いるぜ。…でも、別に!!…その、なんも、して、ねえよ…」
 最後の方は小声だった。その言葉にルーンは納得したようだったが、リィンがぎろりとレオンをにらむ。
「怪しいですわ。…汚らしいですわね、男の方って。」
「してねえって言ってんだろが!俺が嫌だって言っても親父が勝手に呼び寄せたんだよ!そりゃ、身支度とかの手伝いとかは 普通にしてもらってっけどさ!別に俺は!!」
「なんですの?」
「女なんか興味ねえよ!親父と一緒にするなよ!!!」
「わかりませんわよ、それこそお父様に無理やり義務付けられているかもしれませんわね。」
 レオンが真実を言っていることくらい、リィンにも分かっていた。が、どうにもいらいらしていて、止まらなかった。 側仕えがいたことだろうか。兄のことを、楽しそうに語っていたからだろうか…理由はよくわからなかった。
「リィン、お前なあ!!」
「助けてーーーーーーーーーー!!!」
 そのかすかな悲鳴が、確かに三人の耳に届いた。女の声だった。
 とたんに三人の表情が変わる。それは、戦うことを知っている、戦士の顔だった。

「どっちからだ?」
「あの林の中からだよ!!」
「行きましょう、大変ですわ!!!」
 そうして、三人は林の中へと駆け込んだ。確かに聞こえるモンスターの声と、子供の泣き声を目指して。


 私が拝見させていただいた小説の中では、見たことがないルプガナのパフパフ娘ですが、 私はこれほどインパクトのあるキャラはいないと思うのですよ。
 このキャラは正統派パフパフをやってくれる最後のパフパフ娘であり、その後の ドラクエに続く、ちょっと嬉しいえっちなこと?と見せかけて実は…というパターンの初代パフパフ娘であり、 そのがっかりが見ることができるのは、「ムーンブルクの王女が死んでいる」状態で ならないと言うレア性を持ったキャラでございます。ついでに バニーガールと見せかけて、実は男、というビビアンの原型ともいえますね。(ゆえに 実は男…というのはオフィシャルでございまする。)結構おいしいキャラだと思うのですが、 誰も触ってないような気がして、もったいないので出張っていただきました。というわけで レイリィはお気に入りキャラです。最初はマーニャさんぽい若い感じだったんですが、 気がつけばさらに「姉御」っぽくなっておりました。

 恋が出てないじゃーん。という突込みがあるでしょうが…まぁ、前編ですので…次回をお楽しみに、お願いいたしまする。
 そんなわけで次回は、おそらく後編ですが、もし「中編」とあれば「ああ、収まりきらなかったんだな…」と 遠い目で見てくだされば嬉しく思います。

戻る 目次へ トップへ HPトップへ 次へ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送