船はゆっくりとアレフガルドへ向かっていた。いまだ大陸は見えないが、 徐々に空気が変わっていくのが分かる。 「ラダトーム、僕大好きなんだー。たくさん本があって、不思議なことがいっぱいあるからー。」 ラダトームを尋ねるたびに、ルーンはいつも書庫へ閉じこもっていたことを、レオンは思い出す。 「あー、そういやなんかお前、難しい本を読んでは俺に報告してたよなー。」 「そうだっけー?だってね、たくさんのことが書いてあって、本当に面白いんだよー。」 「分かりますわ。書物は私たちに未知の世界を教えてくれますから。」 にこやかに語る知能労働二人の横で、肉体労働中心のレオンは毒づく。 「魔方陣だの時空の扉だの言われたって、俺が分かるか。」 レオンのつぶやきを聞き返す。 「時空の、扉?」 「ああ、なんかむかーしそんな事言ってたな、お前。」 レオンの言葉に首をかしげる。 「旅の扉じゃないんだよね?なぁに?それー」 「おめーが言ったんだよ!『僕、時空の扉を見つけたんだ!』って。」 かつんとルーンの頭に一発入れる横で、リィンはつぶやく。 「初耳ですわね、時空の扉…書物、いえ、物語の名前かもしれませんわね。」 「そうかも知れないねー、僕聞いたことないものー。」 その言葉に、レオンはルーンの手をつかみ、力いっぱい握り締めた。 「お・ま・え・が・言ったんだよ!!!」 「痛い、痛いよう、レオンー。」 じたばたと手を離そうと腕を振った。だがレオンの力にはかなわず、しばらく手のひらが じんじんと痛んだ。 痛んだ手を、ルーンがさすっていると、リィンが話しかけていた。 「…そういえば、ルーン?」 「なあに?」 「さきほどの勇者アレフのお話。一体どこから得られましたの?それに、それは真実ですの?」 「そういえばそうだよな。俺が聞いた話だと、勇者アレフは勇者の使命を精霊ルビスから託されて、 ラダトームへとたずねたって聞いたぞ?」 「そうですわ、それが広く伝わっている話ですわね、わたくしもそう聞きましたわ。」 「あははー。」 ルーンは笑った。 「いや、笑ってねえで、どっから聞いたんだよ。」 「聞いたんじゃないよー。読んだんだよー。…アレフ様の冒険日記だよー。」 二人の表情が変わった。 「…アレフ様の冒険日記って…いまだ発見されていないはずではありませんでしたの?」 「サマルトリアで隠してたのかよ!!俺の国にあるはずじゃねえの?普通?」 その言葉に、ルーンはまた、苦笑する。ごまかすように 「レオンの国にあったんだよー。…えっとね、僕が持っていっちゃったんだよー。」 その言葉に、レオンの力がどっと抜ける。 「お前、それは泥棒だろ…」 「そもそも、そんなことをしては、ローレシアは大騒ぎになったのではありません?国宝物ですわよ。」 「親父からそんな話、聞いたことねえぞ?」 「多分、知らないんじゃないかなー?あのねー。その本、隠してあったんだ。本箱と床の隙間に隠し棚があってねー。 僕も子供で目線が下じゃなかったら、きっと気がつかなかったと思うよー。」 ルーンの言葉に、レオンがもっともな疑問を投げる。 「誰が何だってそんなところに隠したんだよ?」 「…多分、アレフ様本人じゃないかな?だって、ローラ様に見せられないよー?旅の途中で他の女の人と遊んだことが たくさん書いてあるんだものー。」 ルーンはなんでもない顔をして言ったが、二人の顔は赤くなる。 「お前…どんな顔してそれを読んだんだよ…?」 「え、何がー?」 心底不思議そうに言うルーンに、レオンはさじを投げる。 「いや、もういい。」 「確かにそれは…隠したくなるかもしれませんわね…それに、ロト王家にとっても、隠されたほうが よろしいかもしれませんわね…勇者の威厳にもかかわる話ですから…」 疲れ果てた二人をルーンは不思議そうに見ていたが、何かを思い出して、レオンに話しかけた。 「そういえば、レオンー?レオンは前に、アレフ様の生まれ変わりかもしれないって言ってたでしょう?」 かつては自慢にすら思っていたことだったが、今とはってはむしろ痛恨の一撃を食らったかのように痛い。 ローラとの話を聞き、改めて尊敬する気持ちもあったが、そう簡単には心の整理がついていなかった。 「あ、ああ…」 「どういうことですの?」 そのいきさつを知らないリィンに、ルーンが語った。レオンが洞窟の記憶を持っていること。美しい玉を手に入れ、 姫君を助け出したことがあること。 「まぁ、そうでしたの…でしたら、レオン…不潔ですわ。」 「知るか!俺じゃねえよ!大体ルーンだって記憶があるって言ってたじゃねえか!!」 「僕のはきっと、気のせいだよー。だって僕、洞窟を歩いてなにか見つけたような記憶しかないものー。」 リィンが、うつむいた。 「…私には、ありませんわ。…私以外の記憶など…。もし、アレフ様の記憶をロトの末裔すべてが持っているのなら…」 私は、やはり、血のつながりがないのかもしれない。そう続けようとしたが、ルーンは首を振る。 「違うよー。僕のはきっと勘違いだと思うよー。よく覚えていないもの。 それにね、僕思ったんだけど。レオンの記憶って、洞窟に入って、 光の玉を見つけて、ローラ姫を助けたって言ってたよね?」 レオンは記憶をたどって頷く。 「でもね、その冒険の書でも、普通の伝説でも、光の玉を手に入れたのはローラ姫を助けて、竜王を倒した後のはずだよー?」 その言葉に、レオンの顔がこわばった。なぜ、今まで気がつかなかったのだろうか。そんな単純なことに。 ずっと信じていたことが、ガラガラと崩れていくのを感じる。 「あ…」 「そう言われれば、そうですわね…太陽の玉のことでもないのですわよね?」 「違うんじゃないかなぁ?太陽の玉も、ローラ姫を助けてからあとのことだもん。」 「そう…だよ、な…」 レオンの声は、弱弱しかった。混乱していたのだ。 「じゃあ、この記憶はなんなんだ…?これは、アレフ様の記憶じゃないのか…?俺は、 やっぱり生まれ変わりなんかじゃ、ないのか?」 この、鏡に映したようにそっくりな姿も、記憶も…勇者の生まれ変わりとして生まれた、 自分だからこそだと思っていたのに。 「レオンは、勇者だよー。」 悩みの元凶が、にこやかに笑う。 「レオンは、アレフ様の生まれ変わりじゃないかもしれないけど、立派な勇者になれるよー。大丈夫だよー。」 「レオンは、アレフ様じゃありませんものね…」 少し複雑そうに笑いながら、リィンも慰めの言葉をかけた。 「お前、なんだってそんなこと言えるんだよ…」 「大丈夫だよー。レオンなら立派な勇者になれるって、ぼく信じてるもん。僕、レオンのことが大好きだから。」 とどめのルーンの台詞に、レオンは笑う。 「お前、そういうこと、男相手に言うなよな…」 そう言いながらも二人の頭に手を伸ばし、ぐしゃぐしゃと髪をかきむしった。 「もう、髪が乱れますわ!」 文句を言うリィン。笑うルーン。そんな二人にレオンは言った。 「…ありがとうな。」 柔らかに、レオンが笑った。少し大人びた、そんな笑い方だった。 舳先の向こう側には大陸。ロトの勇者が降り立った、竜の勇者が守った、伝説の大陸、アレフガルトがゆっくりと 近づいてきていた。 記憶のネタバレその1終了ー。突っ込まれたらどうしようと思っておりましたが、とりあえず 突っ込まれなくってほっとしております。(気づいていた方もいらっしゃるでしょうが…) 論文ラストエピソードも無事に出せましたし、この話の主題も出せました。インターバルな話でしたが、私的には てんこもり!と盛り上がっております。リィンの苦悩もかけましたし。 リィンの苦悩の話は、とてもとても書きたかったところになります。三人が、ある国の闘獣にどんな気持ちを 抱くのか、今から楽しみにしております。 次回はラダトーム上陸です。オリキャラも(軽く)出演します。またよろしくお願いします。 |
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