精霊のこどもたち
 〜 伝説が宿る場所 〜

 その城は、世界でもっとも古く、もっとも堅牢で荘厳だった。
「こうしてみると、圧倒されそうだねー」
「ああ、やっぱすげえな。ロトの勇者が現れたその昔から存在するんだもんな…」
「ええ、偉大ですわね。かの竜王の城の側にあって、なお倒れることがなかった城…いつ見てもすばらしいですわね。 最後に来たのはラダトーム王の在位25周年記念式典でしたかしら?」
 アレフガルドを支配する城、ラダトーム城。伝説の始まりであり、終局地として知られているその城は、こけた色ですら、 伝説の一部分とし、その大地に根を下ろしていた。
「いこう!僕ね、また本を見たいんだ!調べたいことがあるんだよ!!」
 真っ先に、ルーンが城門をくぐる。
「はしゃいでるなー、あいつ。」
「確かのここの書庫は古文書が豊富ですから、その価値はあると思いますわ。」
「調べたいことってなんだろうな。まぁ、あいつがああなったらしばらく動かねえだろうな。」
「ルーンが調べることですもの。きっと有益なことですわ。」
「はやくはやくぅ!!!」
 遠くでルーンが手招きをしている。二人は苦笑してルーンに駆け寄った。


「王様が逃げた!?」
「はい、我が王は、今起こっているモンスターの侵略を恐れるあまり、どこかに姿を隠してしまったのです。」
 兵士が苦しそうにそう言っていた。
 ラダトーム王には何度か会ったことがある。いつも畏怖堂々、それでいて温和であり、王の鑑とさえ 思えるほど、すばらしい王だと思っていたのに…
「そんなわけで、王に謁見は出来ないのです。今は王弟陛下が治めて下さっておりますのでそちらでしたら可能ですが…」
「ああ、それでいい、あわせてくれないか。」
 兵士はレオンの顔を見た。
「失礼な言葉ではありますが、あなたの顔は、古き肖像画で何度も拝見しております。ゆえに、貴方も お連れの方も、誰かも分かるつもりです…」
 そこまで言うと、兵士は笑顔で言う。
「ラダトームの地にお帰りなさい、ロトの末裔の方々!!」
 その言葉は、ロトの末裔がこの地に訪れた時の決まり文句だった。この地に住むものは、この地が伝説の 発祥地だと言うことに、誇りを持って生きてきたのだ。それは、王も同じだと思っていたのだが…。
「ああ、ありがとうな。」
「うん、ただいま!」
「おやさしい言葉、ありがとうございますわ。」
 三人はそれぞれに微笑んで、王の間のほうへ歩いていった。


「あ、あなた方は!!お噂は聞いておりましたが、まさか本当に…」
 三人の顔を見たとたん、座っていたラダトーム王の弟が玉座から腰を浮かす。
「…噂ってなんだ?」
「ローレシアとサマルトリアの王子が、亡きムーンブルクの王女を救い出し、ハーゴンを倒すために 旅をしているというお話です。」
「親父だ…」
 レオンはそうつぶやいて、頭を抱えた。噂の発生源は間違いなく自分の父であると確信がもてた。 情報源にも心当たりがある。おそらくエイミだろう。
 たくらみも読めてきた。勝てば名誉、負けても「世界と王女のために命を散らした王子」の名誉と、 ムーンブルクの領地を手に入れる正当性が、サマルトリア王と同等に手に入る。
 リィンもそのことがわかったのだろう、少し苦い顔をしている。
「ローレシア王の情報収集力と決断力はすばらしいですわね。」
 ちくっとする口調だったが、レオンが何かを言い返す前に、ルーンが王弟に話しかけていた。

「王様がお隠れになったとお聞きしました。大変でしたね。ですが、どうしてそんなことに なったのですか?」
 レオンは一瞬目をぱちくりさせた。ルーンの改まった話し方を聞くのは久しぶりだった。リィンも一瞬 目を見開いて、そして微笑んだ。
「ああ、ルーンバルト殿。お言葉ありがとうございます。…そしてリィンディア姫、まことに 残念なことではありましたが、御身がご無事で何よりです。」
「ありがたく思いますわ、王弟陛下。それで、ラダトーム王は…」
「はい。ことの起こりは、ロンダルキアから不穏な空気があふれ出したのを、城の占者が読み取ったことから 始まりました。そしてハーゴンが邪神を呼び出し、この世を闇に染めようと言う噂が、このラダトームまで 届いたのです。」
「で、それが怖くて、逃げちまったのか?」
 レオンの言葉に、王弟は首を振る。
「いいえ、兄は立派でした。堂々と国民の前で演説をしたのです。民衆の不安を納め、兵の意気を高め ることに成功しておりました。…ですが、やはり恐ろしかったのでしょうね。私も…誰も気がつきませんでしたが。」
 王弟はため息ひとつ吐いて、話を続ける。
「そんなある日です。皆様も向かいの島にある城のことはご存知でしょう。竜王の城です。そこに いつになく、モンスターが集っているのを発見したのです。つぶれかけた尖塔に何匹もの翼あるモンスターが 集っているのを…。そこで王は兵士を何人か竜王の城へ派遣しました。そこがモンスターの巣になっている可能性が ありましたので。…兵士は何事もなく、最下層に到着しました。そのとき、兵士と、王の脳裏に声が 響いたのです。」
「王様も、そこにいたの?」
 ルーンの問いに、王弟は首を振る。
「いいえ、兄はこの玉座におりました。なぜその場にいなかった兄に聞こえたのか分かりません。そして… その瞬間、私は確かにこの場にいたのに、その声は聞こえませんでした。兄は脳に響いたとおっしゃってました。」
「なんと、聞こえたのですか?」
「”我が居城に無断で足を踏み入れる愚か者は誰だ。”そう聞こえたと言います。…そして王はおびえたのです。また あの城に、竜王が復活したのか…それとも、ハーゴンの居城なのかもしれないと、そう考えたそうです。」
「それは、おそらくハーゴンではありませんわ。ムーンブルクを攻撃した数のモンスターを竜王の 城において置けるとは思いませんもの。」
 それに、ハーゴンは自分の兄なのだ。大陸の城に居を構えるのなら、むしろ滅ぼしたムーンブルクに いるほうが自然に思える。
「そうなのでしょう。ですが、兄はすでに冷静さを失っておりました。3年前に義姉上も亡くされ、 そして今度の騒ぎ…おそらく兄は限界だったのでしょう…」
 そうして顔を曇らせてしまった。


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