「レオン?どうしたの?」
 王弟の話に口も挟まず黙っていたレオンの顔を、ルーンは覗き込んだ。レオンの性格なら 竜王がいたことを、むしろ喜びそうなものなのだが。
 レオンの顔はゆがんでいた。…内側からふつふつ湧き出す怒りを抑えられずに、レオンは叫んだ。
「…ロトの勇者がこの世界に来て、最初に尋ねた城。竜の勇者が救った城。・・・その王が…」
 自分の血が汚らわしい。一滴たりとて連なってる事が憎らしい。
 ただでさえ、先ほど幻想を砕かれたダメージが消えていないのだ。
「…しかたありませんわ、レオン。…これほど近くのかつてのモンスターの居城がそびえているのですもの。同情いたしますわ。」
「じゃあ、リィン。お前許せるってのかよ!!!」
「そうではありませんわ!!ですけれど、それほど単細胞に物事を考えられるほど、人はお気楽ではないということですわ。」
「俺がお気楽だってのかよ!!」
「ならば貴方のお父様はどうなのです?」
「俺と親父を一緒にするな!!あれは卑怯なだけだ!!」
 相変らずの言い争いになろうとした時、ルーンが口を挟む。
「うん、ごめんね、リィン。僕のお父様も、今、お城でぬくぬくしてると思う。」
「あ…」
 勢いに任せて、言ってはいけないことを言った事に気がついた。
「でもね、とりあえずこの人は関係ないんだし、ここで言い争いをするのは、可哀想じゃないかなぁ?」
 王弟が、半ば脅えながらこちらを見ていた。

「ごめんなさい、王弟陛下。」
「いえ、あの、それでお願いがあるのです、ロトの末裔たるあなた方にしか頼めないことなのです。… どうか、本当に竜王の城に竜王がいるのか、見てきては下さいませんか?」
「見てくるだけでいいの?」
 ルーンの言葉に頷く。
「ええ、それだけでかまいません。皆様は皇太子なのですから、無理はしていただきたくないのです。 ですが、いるかどうかも分からない竜王の調査に、王でもない私が兵士をやるわけにもいかず、 下手に動かすと、民衆も大騒ぎになってしまいます。…どうか、なにとぞ!!」
「もちろん行くぜ!…もし倒したら、俺も勇者になれるぜ!!!」
「いや、レオンクルス様…調査だけで結構なのですが…」
「別に倒したっていいんだろう?」
「いえ、あの、その…」
「新たな伝説を、俺自身の手で作り上げられるんだ!!」
 とりあえず立ち直って燃えているレオンを尻目に、
「いいんですわ、王弟陛下が責任を取るようなことにはさせませんから、自由にさせてくださる?」
「はぁ、そうですか…リィンディア様。…しかし、貴女はこの城に残られませんか?」
 王弟の言葉に、首をひねる。
「どうしてですの?」
「貴女はムーンブルク王家最後の一人。もし貴女にもしものことがあれば、血は途絶えてしまいます。 …それに、貴女は女性です。」
 その声には、少しだけ色めいたものがあった。だが、それ以上に本心から心配してくれていた。
「いいえ、わたくしは最後の一人だからこそ、仇を討つ、権利と義務がございます。そのお心だけ、 受け取っておきますわね。」
 にっこり笑うその美しさに、王弟の頬は赤らんだ。
「そうですか、ではお止めいたしません。どうかご無事で…」
「あ、そうだ、王弟陛下。」
 状況が分かっていないのか、ルーンがいつもどおりののんびりに戻って話しかけてきた。
「これが終わったら、書庫を見せていただきたいんですー。よろしいですか?」
「ええ、もちろんです。どうか、よろしくお願いします。」
 王弟は気持ちを切り替えて、しっかりと頷いた。


「どうせなら、虹の橋から行きたかったぜ…」
「レオン、おのぼりさんじゃないのですから。わたくしたちの仕事は竜王がいるかどうかの調査ですわよ?」
「あははー。また今度はゆっくり来ようよ。」
「ルーンも、観光に来たわけじゃありませんのよ?…それにしても…」
 リィンは見上げる。近くで見ると、城の老朽化がよく分かる。そして、ところどころにつけられた傷が、 激しい戦いの歴史を感じさせる。
「やはりこう、感慨深いものはありますわね。わたくしたちの祖先は、確かにここで、世界を救う 戦いをしたのだと…」
「おめえも似たようなもんだろ。…それに、これから俺たちは伝説を作りに行くんだぜ?」
「レオンー、調査だってこと、忘れてるんじゃないのー?」
「すっぱりさっぱり忘れていらっしゃいますわよ、レオンのことですもの。」
 切り裂くリィンの言葉は、レオンには届いていないようだった。
「何やってるんだ!行くぜ!!」
 レオンの怒鳴り声にルーンは破願する。
「はりきってるねー、レオン。」
「先ほどのルーンを見ているようですわね。」
 リィンの言葉に、ルーンが少し照れた。
「あははー、ごめんねー。」
「でも、夢中になれることがあることは、とても素敵だと思いますわ。レオンも、ルーンも。」
「うん、レオン、とってもかっこいいよね!いこう、リィン!」
 ルーンはリィンに手を差し出す。ためらいなく、リィンはその手をつかんで、一緒に走り出した。 レオンが、手を振る方向へ。

 竜王の城の老朽化は、暗闇の中でさえ、よく見て取れた。
「これほどモンスターがこの城にいるなんて…」
 モンスターをバギで散らしながら、リィンがつぶやく。
「伝説の再現だぜ!!」
 レオンは傍目から見てはっきり分かるほど浮かれていた。たとえ、幻想が潰されてもあこがれる気持ちには 変わらないらしい。複雑な男心だった。
「僕ねー思うんだけどさー。」
 それに対して何も考えてなさそうで、その実さっぱり心がつかめないのがルーンだった。
「ラダトームの人たちから中の地図、もらってこればよかったねー。」
 ルーンが行ったとたん、レオンの剣の柄がルーンの頭を直撃した。
「もっと早く言えよ!!」
「今気がついたんだよー。」
「仕方ありませんわ、わたくしたちも気がつかなかったのですもの。だいたい レオンが一人で暴走していたのではありませんか。」
「考えるのは俺の役目じゃねーからいいんだよ。」
 きっぱりと言い放つレオンに、リィンが怒鳴りつける。
「それは責任転換ですわよ!!」
 だが、その甲斐もなく、ルーンは笑った。
「わーい、ありがとうーレオンー。」
「何が『ありがとう』ですの?」
「だってとっても嬉しかったからー。」
 にこにこと笑っている。一体何が嬉しいのかさっぱり分からないが喜んでいるなら良いだろうと、 リィンは無理やり自分を納得させた。


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